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82 コレットとミレットの決心

前話のあらすじ:村に危険察知魔法陣を張った

 ヴィヴィと魔法陣を描いて回った次の日。

 俺が衛兵業務についていると、コレットがやってきた。


「おっしゃん!」

「コレット、どうしたんだ?」


 コレットはいつになく真剣な表情だった。

 俺の横で寝っ転がっていたフェムの耳がピンと立った。

 一方モーフィとシギショアラはコレットが来たことに大喜びだ。


「もうもぅ」「りゃー」


 モーフィはコレットにおでこを押し付けている。

 シギはモーフィの背にぴょんと乗ってから、コレットの肩へとよじ登っていく。


「モーフィもシギちゃんも邪魔しちゃダメなの」

「もう?」「りゃぁ」


 モーフィは首をかしげた。

 シギは全く動じない。パタパタと羽をばたつかせながら、コレットの髪の毛の中に潜り込もうとしている。


「シギ、邪魔しないの」

「りゃありゃあ」


 俺がコレットの肩から抱き上げると、シギは不満そうに鳴いてもがいた。

 あやすように、シギを抱っこして羽の付け根を撫でてやった。


「よしよし」

「りゃー」


 シギは大人しくなった。気持ちよさそうに目をつぶっている。


「さて、コレット。改めてどうしたんだ?」

「おっしゃん! 魔法おしえて!」


 意外だったので、少し戸惑う。

 ちなみに俺は魔法を人に教えたことはない。


「どうして、また魔法を?」

「だってかっこいいんだもん」

「なるほどなぁ」

「それに、魔法使えたら便利だもん!」


 確かに魔法はかっこよくて便利なのだ。小さい子があこがれても仕方ない。


 俺が魔法を最初に習ったのは5歳の時。村にいた老魔導士からだった。

 昔は凄腕の冒険者だったというその老人は、実践的な魔法ばかり教えてくれた。

 その師匠は俺が冒険者になる少し前に亡くなっている。


「うーん、そうだなぁ」

「……だめ?」


 コレットは不安そうだ。

 俺も師から教わったのだ。俺も弟子に教えるのが筋だろう。

 だが、勝手に教えるわけにはいかない。


「ミレットがいいと言えばいいぞ」


 保護者の許可は必須である。

 コレットの顔がぱあっと輝いた。


「わかった! お姉ちゃんに聞いてみるね」


 コレットはぱたぱたと駆けて行く。

 それを見送ってから、フェムが言う。


『魔法を教えるのだな?』

「まあ、教えるぐらいはいいんじゃないかな」

「わふう」


 しばらくしてコレットが戻ってくる。ミレットとヴィヴィも一緒だ。

 ミレットは、早歩きでつかつかと近づいてくる。


 怒っているのだろうか。魔法を教えるなと言いに来たのかもしれない。


 魔法を学んで冒険者になったら、危険と隣り合わせだ。

 だから魔法を教えることに、親が反対することは珍しくない。


「アルさん!」

「お、おう。コレットに魔法を教えるのはだめか?」

「りゃありゃあ」「ももう」


 シギとモーフィが、ミレットが来たことにはしゃいでいた。

 モーフィは大喜びでミレットの股に鼻を突っ込んでいる。

 シギはミレットの胸に飛びついて、谷間に潜り込もうとしていた。


「モーフィちゃん、だめ、シギちゃんも……」

「ももう!」「りゃあ」


 それを見ていたフェムまで、うずうずしはじめた。

 放っておいたら、フェムまでミレットに飛びつきそうだ。


「シギ、邪魔したらだめだぞ。モーフィもほら。ミレットが困ってるだろ」

「りゃあ?」「もう?」


 俺はシギを抱きあげる。モーフィはヴィヴィがミレットから引き離してくれた。


「改めて。ミレット、やっぱりコレットに魔法を教えるのはダメか?」

「いえ、そうではありません。私にも魔法を教えてください」

「えぇ……」


 予想外の言葉だった。


「だめですか?」

「いや、ダメというよりも……。ミレットっていくつだっけ?」

「15歳です」


 基本的に魔法は幼児教育が大事だと言われている。

 一般的に15歳は魔法を学び始める年齢としては遅いのだ。

 遅いから絶対にダメというわけではないのだが。


 俺が悩んでいると、ヴィヴィがはっきりと言う。


「15歳は年寄りすぎなのじゃ」

「ヴィヴィちゃん、なんてこというの」


 ヴィヴィの言葉が足りないせいか、ミレットが少しショックを受けていた。

 ヴィヴィは魔法を学ぶには年寄りすぎと言いたいのだろう。


 俺は丁寧に説明する。


「魔法を学び始めるのは、小さいころの方がうまくいくことが多いんだよ」 

「どうしてですか?」

「魔力の流れる感覚とか、小さい頃の方が身に着けやすいと言われているんだ」

「そうなのですか」

「まあ、30歳過ぎてから学び始めて大成した人もいるけども」


 才能がなくても、幼少期ならばなんとかなることもある。

 だが、第二次性徴の時期を過ぎると、才能がなければどうにもならない。


 俺の言葉を聞いて、ミレットは少し元気になった。


「ミレットはどうして魔法を学びたいの?」

「ええっと、村のみんなの役に立てるようになりますし。もし何かあったとき、コレットを守れる力が欲しいんです」

「なるほど」


 それは十分すぎる動機だ。

 誰かを守りたいという思いは強い力になる。


 それに魔人の襲撃で、ミレットも危機感を持ったのかもしれない。


「……それに、かっこいいですし」


 ミレットとコレットはやはり姉妹らしい。

 魔法はかっこいいのだ。それは真実である。


「よし、分かった教えよう」

「やったー」

「ありがとうございます」


 俺は浮かれる二人に対し、釘をさす。


「ただし、魔法は剣以上に才能次第だ。才能がないと判断したらはっきり言う。その時はあきらめなさい」

「……」「……」


 二人は押し黙る。


「師から才能ないと断言されるのは結構きついぞ。それが嫌なら最初から学ばぬことだ」

「いえ、がんばります!」「コレットもがんばる」

「才能なかったら早めに言ってあげよう」


 それが優しさだと俺は思う。

 

「コレット、才能あるもん!」

「そうだといいな」


 俺はコレットの頭を撫でてやった。


 俺には才能があった。師匠である老魔導士を5年で抜いたほどだ。

 才能のないものは10年学んでも初歩の魔法すら使えないままだ。


 無駄な努力を数年、数十年重ねる前にあきらめさせたほうがいいのだ。


「矛盾したことを言うようだけど、明日からゆるゆる教えるから、気楽にな」

「わかった!」

「よろしくお願いします!」


 二人が去った後、ヴィヴィが言う。


「アルは教えたことあるのかや?」

「ないぞ」

「大丈夫かや?」

「たぶん」

「頼りないのじゃ」


 そういえば、ヴィヴィはどのように魔法を習得したのだろうか。

 魔族の魔法事情が気になった。


「ヴィヴィはどうやって魔法を身につけたの?」

「わらわか? わらわは姉上に教わったのじゃ」

「お姉さんか」

「姉上は凄腕の魔導士だったのだ」


 ヴィヴィはそういって遠い目をする。

 過去形なのが気になった。

 だからこそ、姉がいまどうなっているのか、聞くことができなかった。

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