表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/455

63 ゴブリンもでた

前話のあらすじ:ねずみの魔獣が出た。

 次の日の朝。

 やはり魔狼たちはネズミやモグラを積み上げていた。


「いつもすまないな」

「わふわふぅ」


 魔狼たちはいっせいに尻尾を振る。

 全員を存分に撫でてやった後、ねずみの山を検分する。

 昨日のこともある。入念に調べた。その様子をモーフィがじっと見ている。


 俺が懸念していた通り、ねずみの遺骸にまじって魔鼠がいた。


「これは魔鼠だよな」

『今日も仕留めたのだぞ』

「えらいぞ。フェム」

「わふぅ」


 フェムを撫でてやってから尋ねる。


「最近、魔鼠以外に、変わったことはある?」

『縄張り内にゴブリンを見かけるようになったのだ』

「ゴブリン?」


 ゴブリンは人間の子供くらいの大きさの人型の魔獣だ。知能は高くはない。

 だからといって油断はできない。

 個体としての戦闘力は低いが、集団で行動するため、危険度は高い。

 ゴブリンに襲われて滅んだ村だってあるのだ。


『もともとゴブリンはたまに来るのだ』

「多くなったってこと?」

『そうなのだ。だがフェムたちが狩っているから安心なのだぞ』


 魔獣の生態系に変化が起きつつあるのかもしれない。


 もともと、この辺りの生態系の頂点は魔狼と魔熊だ。

 最近は魔狼が優勢だが、魔熊も有力な魔獣であるのは間違いない。


「魔熊には動きはある?」

『侵入しようとしてくる魔熊は増えたのだ』

「そうか」

『だが、追い返しているのだぞ!』


 フェムは自慢げだ。尻尾もびゅんびゅん揺れている。


「フェムは偉いな」


 俺はフェムをほめてやりながら考える。

 生態系が変化したのは確からしい。

 いまは魔狼たちの努力で、影響を抑えられている。だが、いつ限界を迎えてもおかしくはない。


「なるべく早く調査したほうがいいかもな」

「わふ?」


 フェムはきょとんとしていた。

 同時にモーフィの鳴き声が聞こえる。


「もぉぉ」


 さっきまで、俺の隣で大人しくしていたのに、いつの間に移動したのか。

 倉庫の向こうからモーフィが走ってくる。


「モーフィ?」

「もぉもぉ」「GYAGYAGGAAA」


 モーフィはゴブリンを一匹咥えていた。

 ゴブリンがじたばたと暴れるため、モーフィは顔を殴られ蹴られている。


「大丈夫か?」

「わふぅ!」


 俺とフェムは慌てて駆け寄った。

 モーフィはゴブリンを下におろしたので、俺が素早く魔法で退治する。


「モーフィ、怪我はないか?」

『ほめて』


 念話でそう言いながら、モーフィは頭をこすりつけてくる。

 ほめて欲しくてゴブリンを見つけに行ったのかもしれない。

 

「えらいけど……あぶないぞ?」

『だいじょうぶ』


 撫でてやりながら、モーフィーが怪我してないか調べる。

 あれほど殴られていたのに、腫れも傷もなかった。

 もとは巨大な牛なのだ。巨体の耐久力をそのままに小さくなっているのかもしれない。


 魔獣ならば縮小化したら能力は落ちる。だが、モーフィは霊獣だ。

 能力があまり落ちていないのかもしれない。


「でも、びっくりするからほどほどにね」

「もお!」


 モーフィの無事が確認出来たら、次に調べないといけないことがある。


「このゴブリンってどこにいたの?」

「もぅ」


 モーフィは歩き始める。ついて来いというのだろう。

 俺は黙ってモーフィについていく。フェムもついてくる。


 倉庫の裏側からさらに3分ぐらい歩いたところでモーフィは止まる。


「もぅもぅ!」

「ここで捕まえたの?」

『つかまえた』

「よく気付いたな」

「もうっ!」


 モーフィをほめてやると嬉しそうに鳴いた。

 モーフィの声に反応したのか、草陰からゴブリンが飛び出してくる。


「GYAAGYAA」「GYAAA」「GYAAA」


 その数三匹。

 ゴブリンは目の前の敵との力量差を図るほどの知能はない。

 躊躇なく襲い掛かってくる。


 俺は魔法を飛ばして即座に退治した。


「まだいたのか……。少し調べるから手伝って」

「……わふ」「もぅ」


 俺は周囲を調べ始める。フェムは心なしか元気がない。

 少し調べると穴があった。見覚えがある。


『粘土をとった穴なのだ』

「そうだな」


 小屋を建てたとき、レンガを作るために森の中から粘土質の土を集めた。

 その際にできた穴が森の至る所にある。


「ゴブリンは、ここを巣穴にしようとしていたのか?」

『かもしれないのだ』


 臭いを一生懸命嗅いでいたフェムが言う。

 モーフィが気づいてよかった。俺はモーフィを撫でてやった。 


『縄張りに侵入された上に、ここまで接近を許してしまったのだ。恥ずかしいのだ』


 フェムは落ち込んでいる。尻尾にも元気がない。


「もぅ」


 慰めるように、モーフィがフェムをぺろぺろ舐めている。


 牛の嗅覚は鋭い。だが狼の嗅覚も鋭いのだ。

 フェムが気づけなかった臭いに、モーフィが気付けたとは考えにくい。


「モーフィなんでわかったの?」

「もぅ?」

 モーフィは首をかしげる。


「臭いで分かったの?」

『わるいかんじした』

「ふむ」


 霊獣独特の感覚があるのかもしれない。

 特にモーフィは勇者クルスによって聖別された霊獣だ。

 何か特別な感覚を持っていてもおかしくはない。


「モーフィ。また悪い感じがしたら教えてね」

『わかった』


 ゴブリン3体の戦利品回収はしない。

 ゴブリンから採れる素材は質が悪すぎて値がつかないのだ。 

 ゴブリンが武器などを持っていた場合は、それが戦利品となる。だがそれも大抵ガラクタだ。


 だからこそ、冒険者にゴブリンは嫌われる。

 討伐依頼任務でもなければ、ゴブリンはわざわざ狩りたくない類の魔獣だ。


「フェム。ゴブリン食べる?」

『食べないのだ。ものすごくまずいのだぞ』

「そうか」


 ゴブリンは冒険者だけでなく、魔狼にも不人気らしい。

 俺はゴブリンの遺骸を炎魔法で焼却した。


「午後から調査したほうがいいな」


 ゴブリンが村の近くに巣を作ろうとしていたのだ。

 もう、あまりゆっくりしないほうがいいだろう。

 俺は午後から異変の調査に行くことを決心した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ