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56 魔導士、魔獣の行動を考察する

前話のあらすじ:フェムとモーフィが仲良くなった。

 散歩を経て、フェムとモーフィが一層仲良くなった気がする。

 散歩したかいがあるというものだ。


 ルカとユリーナをみたクルスが魔法のかばんの中から戦利品を取り出していく。


「戦利品手に入れたから見てー」

「休みの日に魔獣退治とは仕事熱心なのだわ」

「仕事じゃないよー。襲われたから返り討ちにしただけ」

「そう、どっちにしても偉いのだわ」


 ユリーナはにっこりと笑うとクルスの頭を撫でる。

 クルスとユリーナは同い年だ。だがユリーナの方が姉のようにクルスを可愛がっている。

 クルスは年齢の割に幼い雰囲気があるので、ユリーナも心配なのだろう。


 クルスが出していく戦利品をルカは興味深そうに見ていた。

 魔獣の専門家であるルカは、魔獣の戦利品にも詳しいのだ。


「ん? ちょっと待って。多くない?」

「そうかな? まだ、このほかにもアルさんの鞄に入ってるのもあるよ?」

「まだあるの? いったい魔獣何匹倒したの?」

「えっと、6匹だよ」


 ルカが判断しやすいように、俺も鞄から出して並べる。

 ルカは真剣な表情で検分していく。


「バジリスクが3匹、ガーゴイ、いや、ワイバーンかしら。それが2匹。それとこれは……もしかして地竜?」

「ご明察。さすがルカ」

「ルカすごーい」


 ルカはみごと戦利品から倒した魔獣の種類を当ててみせた。

 さすがである。


「大したことじゃない。それより少し気になるわね」

「だよな」


 俺はルカに同意する。

 クルスはきょとんとしている。


「なにがですか?」

「クルス。ほら、この辺りに普通は地竜やワイバーンはいないのだわ」

「そうなの?」


 ユリーナが優しくクルスに教えてあげている。

 クルスは、冒険者の必須知識である魔獣の生息域を、基本的に覚えていない。

 なぜなら、どんな魔獣と、どこで遭遇しても勝利する力があるからだ。

 人間、危機感がなければ、必要を感じなければ覚えられないものだ。


「この辺りの魔獣は、バジリスクと、ヒドラと、魔狼に熊?」

「ヒドラもこの辺りには普通はいないな」


 クルスがあげたのはクルスがこの辺りで出会った魔獣だ。

 クルスは魔獣の生息域は覚えていなくても、実際に会った魔獣はしっかり覚えている。


「魔狼と魔猪が、この辺りの主な魔獣だな。バジリスクはたまに出る程度だ」

『魔熊の数は少なくないのだ』


 フェムが補足してくれた。

 魔熊は魔狼と縄張り争いをしている。

 この辺りであまり魔熊を見ないのは魔狼が縄張り争いで勝っているためらしい。


「こいつらと遭遇した時のことを詳しく教えて」

「えっとね――」


 クルスが丁寧に説明していく。

 それを聞いたルカの顔が曇った。


「一斉に襲い掛かってきたと……」

「そうだ。気になるだろ」


 俺の言葉にルカとユリーナはうなずく。


「それに生息範囲とはいえバジリスク三匹は……」

「3匹は多いよな」

「そうなんですか?」


 クルスが尋ねる。クルスは魔獣の生態にもあまり詳しくないのだ。


「本来、バジリスクは群れを作るタイプじゃないから」

「複数バジリスクが近くにいたら、喧嘩し始めるのだわ」

「ふむふむ」


 ルカたちの説明にクルスは真面目な顔でうなずいている。


「また、誰かが何かしているかもしれないわね」

「そうね。気を付けたほうがいいのだわ」

「フェム。なにか気づいたことがあったら言ってくれ」

『わかったのだ』


 フェムの返事からは真剣な雰囲気を感じる。主に尻尾がそんな感じを漂わせている。


「……も」


 一方、モーフィはずっと俺に体をこすりつけていた。

 戦利品を並べ終わったあたりからずっとだ。

 俺も会話しながら、モーフィを撫でてやっていた。

 モーフィは撫でている俺の手をなめたりしてくる。


「……随分と懐いているわね」

「モーフィは人懐こいんだよ」

「可愛いのだわ」


 ルカとユリーナもモーフィを撫でた。


「もぅ」


 モーフィも嬉しそうだ。

 モーフィを撫でながら、ルカがふと気づいたようにつぶやいた。


「……モーフィの尿」

「どうした?」

「いや、魔獣が一斉に襲い掛かってきたのってモーフィの尿が原因じゃないかなって」

「縄張りを侵された的な怒りが原因ってこと?」

「そうじゃなくて」


 ルカはもう一度じっくり考える。


「霊獣であるモーフィの尿は魔力濃度が高い可能性があるわ……」

「引き寄せられたってこと?」

「そう」

「そんなことあるの?」

「最新の研究によれば魔獣は魔力を糧にできるらしいから」


 それは俺も知らなかった。さすがは魔獣学者のルカである。

 霊獣は魔法生物である。尿に魔力が含まれていても不思議ではない。


「あれ? てことはフェムもモーフィの尿のみたいの?」

『飲みたくないのだ』

「そうか。魔力とか食べてるの?」

『食べてないのだ』


 そう答えるフェムをモーフィがなめる。フェムは尻尾を振った。

 そんなフェムの頭をルカが撫でる。


「怪我をしたときとか、食糧がないときとかに魔力を食べることが多いみたいよ」

『そういえば、魔猪のせいで食料が不足したとき。温泉のお湯をみんなで飲んでいたのだ』

「村の温泉?」

『違うのだ。あっちの方にあったかいお湯が沸いてるところがある』


 自然の温泉だろう。この辺りの温泉には魔鉱石が含まれている。

 それで食糧不足を補っていたのだろう。

 フェムが温泉に入りたがるのは魔力を補いたいというのもあるのかもしれない。


 ルカが自分の鞄から瓶を取り出した。そしてモーフィににじり寄る。


「ちょっと調べるから尿を採取させてくれない?」

「……もぉ」


 怖がったモーフィが俺の後ろに隠れる。

 すかさずヴィヴィがやってくる。


「モーフィが嫌がることはするでないのじゃ」

「無理やりなんてしないわよ。心外ね」


「モーフィはさっき出したばかりだから。しばらくは出ないんじゃないかな?」

「そうなの?」

「霊獣だしな」

「ああ、そういえばそうね」


 霊獣だから飲食は基本必要ない。だからモーフィは飲み食いをあまりしないのだ。

 だから当然出るのも少ない。


「モーフィ。出たときでいいから、採取させてくれないか?」

「もぅ」

「ルカが霊獣の尿を調べたいんだって。だめ?」

『わかった』


 モーフィが採尿に同意してくれた。

 そして俺はルカから採尿用の瓶を受け取った。

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