450 魔人の不死者
ひざに矢のイラストレーターTEDDY先生に担当していただいた「神殺しの魔王、最弱種族に転生し史上最強になる」がついに発売開始です。そちらもよろしくお願いたします。
俺は改めて皆を見回して言う。
「用意はいいか?」
「もちろんです」
「いつでもいいわ」「任せるのだわ」
勇者クルスは聖剣を抜いて自然体で身構えている。
剣聖ルカは剣を抜いて、油断なく構えていた。
聖女ユリーナは後方でモコの近くで杖を構える。
「いつでもいいのじゃ」
「もっも!」「ぴぎぃ!」「りゃあ!」
「任せるが良い」
「気合いを入れますね」
ヴィヴィ、モーフィ、チェルノボク、シギショアラも準備できているようだ。
ティミショアラもエクスも隙のない構えだ。
「儂は役に立つまい。だが、いつでも良いぞ」
『いつでも良いのだ』
モコとフェムも準備完了なようだ。
戦闘要員は全員、準備万端だ。
「みな心しろ。相手は元勇者だ。だが、今は魔人の不死者なんだ。言葉を交わそうと思うな」
言葉を交わせば、わずかにでも情がわく。
相手が元人、それも善人だったのならば特にそうだ。
皆、優しすぎるのだ。
情を抱いた状態で勝てる相手ではないと考えた方がいい。
俺の言葉に、皆真剣な表情で頷いていた。
「死こそが主の救いなのだ。それがまだ人の意思のあった頃の主の望みでもある」
「わかった。モコ。任せてくれ」
「頼む」
そして俺はベルダに言う。
「用意はいいか?」
「はい。私の心の準備はできておりますゆえ……」
「そうか。ならば自分のタイミングで球体に触れてくれ」
「わかりましたわ」
すると、モーフィは姿勢を低くする。
ベルダが真球に手を触れやすいようにしたのだ。
ベルダは深呼吸をすると、ゆっくりと球体へと手を伸ばした。
ベルダの手の平が球体にしっかりとつけられる。
その瞬間は何も起こらなかった。だが、約三秒後、
――キィイィィィィイイイイン
耳障りな甲高い音が鳴り響く。
音が鳴り響く中、奥の壁が真ん中で割れて、扉のように向こう側へと開かれていく。
壁の向こう側は横幅と天井の高さはこちらと変わらない。
だが奥行きが非常に広い。成人男性の身長の百倍ぐらいあるだろう。
壁にも床にも天井にも細かな神代文字がびっしりと刻まれていた。
部屋自体が魔導具となっているようだ。
魔法攻撃や物理攻撃をうけても、容易には壊れまい。
その頑丈で広い部屋の真ん中に一人の青年が目をつぶったまま立っていた。
魔人の不死者。三百年前の勇者である。その姿は人にしか見えなかった。
その勇者は光り輝く鎖によって全身を何重にも縛られている。
だが、一瞬で鎖は砕け散る。封印が解かれたのだ。
「主……」
勇者の姿を見たモコの声は震えていた。
勇者はゆっくりと目を見開く。その目は血のごとく真っ赤だった。
そして無言で、無造作に手を振るう。
鋭い魔力で作られた刃が俺たちをなぎ払おうと飛んでくる。
皆、素早い身のこなしで刃を躱した。
そして俺はモコを守るために障壁を張った。
「儂のことは構わないでくれ!」
「余裕がなくなったらそうするさ」
勇者は問答無用で攻撃を仕掛けてくれた。
言葉を交わさないで済むのは正直ありがたい。
「クルス!」
「了解です!」
クルスは速い。
すでに三百年前の勇者に斬りかかっている。
クルスの聖剣を見て、元勇者は一瞬表情を変えた。
それは勇者だったころの自分の愛剣だったからなのかもしれない。
クルスの斬撃を元勇者は手から出した魔力の剣で防いでいく。
目にもとまらぬ攻防だ。
そこにルカとエクスが加勢して、元勇者を斬撃で追い込んでいく。
だが、皮膚自体が硬いようだ。
クルスたちの剣を持ってしても、浅くしか傷つかない。
元勇者は無数の傷を負っていく。だがその傷のすべては一瞬で消える。
三人がかりでつけた傷よりも、再生速度が圧倒的に速いのだ。
「行くのじゃ、モーフィ!」
「もっも!」
その間、ヴィヴィはモーフィの背に乗ったまま、周囲を駆け回っていた。
ただ走っているわけではなく、走りながら床に魔法を使って魔法陣を刻んでいる。
「ヴィヴィ、腕を上げたな……」
俺は思わずつぶやいた。
ちまちまと書くのではなく、魔法で予め準備していた魔法陣を転写しているようだ。
その魔法陣からは魔力弾や火力弾などが飛び出して、元勇者めがけて飛んでいく。
ヴィヴィは魔法陣を刻みながら、遠隔操作で攻撃をしているのだ。
元勇者はヴィヴィの魔法攻撃を防ぐことなくまともに受けている。
「不死身なのかや?」
だが再生スピードのほうが遙かに高いようだ。元勇者の傷は一瞬で消える。
元勇者は防御を捨てて攻撃している。
クルス、ルカ、エクスの前衛三人も傷を負う。
その傷は後方で待機しているユリーナが一瞬で治す。
ティミはユリーナのそばに立っていた。
ティミは前衛としても強力だが、後衛として振る舞っている。
いざというときの要であるヒーラーであるユリーナをかばうためだ。
ティミも魔法で元勇者に攻撃を仕掛けている。
「何という耐久力であるか! 竜以上ではないか!」
古代竜の強力な魔法を食らっても、元勇者にはダメージが入っているようには見えなかった。
そして、俺はフェムに乗ったまま元勇者めがけて攻撃を開始することにした。
「神殺しの魔王、最弱種族に転生し史上最強になる」がついに発売開始です。どうかよろしくお願いたします。