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447 三百年前の物語 その4

 モコは呪いから解かれたばかりだ。

 三百年もの間、金属生物のゾンビからの魔力供給だけで生き延びてきたのだ。

 いくら魔力を供給されていて生きられるとしても、食事がなければ飢える。


「モコ。少し休むといい」

「……配慮感謝する。フェムの主よ。だが、儂は大丈夫だ。他に聞きたいことがあれば聞くが良い」


 するとクルスがためらいがちに口を開いた。

「…………ねえ、モコ」

 クルスはモコの体力が心配なのだろう。


「遠慮するでない。当代の勇者よ。何でも聞くが良い」

「無理はしたらだめだよ?」

「先ほども言ったが、話す程度、儂にとってどうということもない。戦闘はきついがな」

「そっか。モコ。三百年前の勇者ってどんな人?」

「温厚で慈悲深く、公正で。誰にでも優しく、自分には厳しかった」

「立派な人だったんだね」

「……そして少し子供っぽいところがあった。儂がモコモコだからモコと名付けるぐらいにはな」


 威厳のある強大なモコに似合わぬ名前だとは思ったが、モコモコだからモコだったとは。

 勇者にとって、モコは可愛い子犬みたいな者だったのかもしれない。


「そっか。いいセンスだと思うよ」

「勇者よ、そう思うか。儂もこの名を気に入っているのだ」

 そういうとモコは尻尾をゆっくり振った。


 そして遠い目をしてモコは言う。

「……そして誰よりも強かった」

「そんなに?」

「ああ、強かった。だから本当は皆にも封印を解いて欲しくはない」

「それはぼくたちを心配しているの? それとも主を退治されたくないって気持ちがあるの?」

「心配しているのだ。我が孫フェムとその主だけでなく、皆も好感の持てる者たちだと儂は思う」

「そんなに強いんだ」

「……恐らくだが、神の使徒がこれだけそろえば主も殺しきれるのかもしれぬ」

「だったら――――」

「だが、皆も無事では済むまい。全滅はしなくとも数人死ぬかもしれぬ。だから。儂は皆にはこのまま帰って欲しい」


 そんなモコにユリーナが尋ねた。

「モコ。主を討伐されたくないっていう気持ちはないのだわ?」

「そうね。呪いを自分にかけて、金属生物のゾンビを纏ってまで守っていたのだし……」

「ルカの言うとおりなのじゃ。本心はどうなのじゃ? どうしても嫌だというのならば……」

「配慮感謝する。だがそんなことはない。儂は我が主が討伐されることを望んでいる」

「そうなの?」

「そうなのだ。勇者よ。守っていたのは封印であって我が主ではないのだ」

「どういうこと?」

「儂に敗れる程度の者ならば、封印を解いても主には絶対に勝てぬ。そして封印を解かれれば主は大きな災厄をもたらすであろう」

「モコは、主にこれ以上罪を犯して欲しくないと言うこと?」

「勇者よ。そういうことだ。なによりそれを主が望んでいぬゆえにな」


 そう聞いてクルスは俺の方を見る。


「アルラさん。どうしますか?」

「危険なのは間違いない。皆も、自分で行くかどうか決めるべきだ」


 それで戦力が足りないようなら出直すべきだろう。


「アルラさんは行きますか?」

「そのつもりだ」

「なら、ぼくも行きますね!」

「私も行くわよ」「当然私もいくのだわ」

『我も行くのである。我はアルの足になるのだ』

『も! いく!』

『ぴぃ、ちぇるのぼくもいく!』

「わらわも行くのじゃ!」

 クルス、ルカ、ユリーナ、フェムにモーフィ、チェルノボクにヴィヴィが参戦を表明してくれた。


「私が行かなければ、封印が解けないでありまするゆえ」

「当然私もいきます。破壊神からの神託を受けてますから」

 ベルダとエクスも参戦してくれるようだ。


「ティミはどうする?」

「アルラよ。迷うところではあるのだ」

「迷うの?」


 クルスの問いにティミは頷く。

「我だけなら迷わぬのだが、シギショアラを危険な目に遭わせるのは、どうかと思うのである」

 ティミはシギと一緒に、安全な場所に居るべきか迷っているようだ。


「確かに、それはそうかも。シギちゃんどうする?」

「りゃあ?」

 クルスに応じるかのようにシギは俺の懐から顔を出す。そして首をかしげた。

 そんなシギの頭をティミは撫でる。


「だが、破壊神の神託があり、そのタイミングに合わせるかのようにシギショアラに竜神の加護が与えられたのだ」


 まだ赤ちゃんであるシギに竜神の加護が与えられ、結果竜王となった。

 竜神がシギを竜王とするつもりであったとしても何の不思議もない。

 シギは古代竜の中でも天才。非常に優秀な赤ちゃんだからだ。


 だが、竜神はシギの成長を待たなかった。

 神にとって、古代竜の成長を待つなど一瞬であろうと考えられるのにだ。

 俺はそう考えた。

 竜神は三百年前の勇者討伐に、シギが何らかの役割を果たすことを期待しているのではないだろうか。


 そして、どうやら俺と同様のことをティミも考えていたようだった。

「神の意図、意思を忖度するのは無意味なこととわかってはいるのだが、そうとしか思えぬのだ」


 どうやらティミは竜神の信者でもあったようだ。

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