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399 操縦者

前話のお話:ルカと合流した。


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 そんなことを話している間にも粘土の塊はもぞもぞと動いて元の形へと戻っていく。


「ルカ、とりあえず時間稼ぎにバラバラにし続けてくれ」

「わかったわ!」


 戻りつつある粘土の塊をルカが切り刻み続けてくれる。

 その間に俺は周囲を魔法で探索した。


 ルカは魔導士ではないが、気配を察知するのはうまい。

 そのルカが粘土の塊と長時間戦ったのに、それを操る存在に気づかなかった。

 ならば、敵は魔導士として相当高等な相手だろう。

 隠ぺい魔法が得意という点は、ジールの竜舎近くで見つかった魔法陣とも共通している。


「まだかかりそう?」

「もう大丈夫だ。フェム。俺の言うとおりに走ってくれ」

『わかったのだ!』


 俺は巧妙に隠された魔力の流れを読み取った。そしてその発生源へとフェムを走らせる。

 ルカも走ってついてくる。


「こっちなの? それにしても、かなり遠いわね!」

「ああ、普通は近くで操作するものなんだが……」


 フェムが俺の指示通り、全力で三十秒ほど走ってくれた。


「フェム、ルカ、足は止めるな! 見えたら斬っていいぞ」

「わふ!」「わかったわ!」


 そして、俺は特大の魔力弾を走り抜けざまに、地面に向けてたたきつけた。

 大きな音が響く。強烈な爆風に背を押される。

 雪と土の混じったものが、周囲にまき散らされて巻きあがる。

 舞った土埃によって空気の流れが可視化された。


「そこだぁぁああああ」

 ルカが気合とともに、強烈な斬撃を繰り出す。


「ぎゃあああああああああ」

 耳をつんざくような悲鳴があがり、何もないところから血が噴き出した。


「仕留めそこなったわ!」

「いや、それでいい」


 とどめを刺してしまえば、お話を聞けなくなってしまう。


 吹き出た血が止まるのに従い、斬られた者の姿が見えるようになっていく。

 魔力を、隠ぺいの魔法から治癒の魔法に回しているのだろう。


『臭いもしてきたのだ!』

「隠ぺいの技術がすごいな」


 姿を現したのは、小柄な魔人だ。胴体に深い傷を負っている。

 生命維持で精いっぱい。動くことができないようだ。


「やっぱり魔人なのね」

「これほど離れた距離から粘土の塊を操れるってのは魔人ぐらいだろうしな」

『こいつが石像もあやつっていたのだな?』

「それはさすがに難しいんじゃないかしら」


 ここからエルケーは距離が離れすぎている。

 それに粘土と石像という異なるものを動かすのは大変だ。

 俺は動けなくなった魔人を念入りに魔法で拘束する。


「で、仲間はどこにいるんだ?」

「……」


 魔人は何も言わずにこっちをじっと見る。

 俺たちは尋問の素人だ。魔人の口を割らせることは無理だろう。


「とりあえず、代官に任せるか」

「そうね」


 魔人は人ではない。だから司法権を持つ代官の裁判にかける必要はない。

 それでも魔人の襲撃は災害のようなもの。実際に被害も大きい。

 代官にすべての対応を任せるべきだろう。


「ルカ。粘土の回収は任せる」

「了解。アルは魔人をお願いね」

「ほいほい。こんなこともあろうと、箱を捨てないでよかった」


 俺は魔法の鞄から、エルケーの旧魔王城で見つけた金属の箱を取り出す。

 自称魔王と一緒にいた魔人を押し込めて搬送するときに使った箱である。


「これに押し込めて運ぶの?」

 粘土を魔法の鞄に入れながら、ルカが言う。

 ルカは無造作に粘土をドサドサ入れている。


「そうだが……。粘土を入れる入れ物も出そうか? 壺的なものとか」

「必要ないわ。魔法の鞄に入れたものは混ざらないもの」

「それはそうだが……」


 水をそのまま放り込んでもいいのが魔法の鞄の便利なところだ。

 とはいえ、水や粘土のようなものを入れるとなると、出す時が少し面倒だ。

 だから、普通はそのまま入れたりはしない。


「あたしは液体の処理とか慣れてるから、劇物でもない限り気にしないわ」

「それならいいんだが……」

「そんなことより、その箱に入るの? 小さめの魔人とはいえ、きつくないかしら?」

「自称魔王の近くにいたあの魔人よりも、こいつの方が小さいから入るだろう」


 俺は魔人を金属の箱に入れる。少し抵抗したが、無理やり押し込めた。

 そして魔法で厳重に封をする。


「さて、これをどうやって運ぼうか」

「重力魔法で運べばいいんじゃない?」


 粘土の回収を終えたルカがそんなことを言う。


「それが一番楽ではあるが、重力魔法は目立つからな……」

 力の強いルカなら余裕で箱を持ち運べる。

 俺は「じゃあ、あたしが箱を持つわ」と言ってくれないかなと期待を込めてルカを見た。


「わふふ」

 だが、楽しそうにフェムが鳴く。尻尾もビュンビュン揺れている。


『さっき石像を重力魔法で吹っ飛ばしていたのだ。いまさら隠してもしかたないと思うのだ』

「……それもそうか」


 重力魔法で魔人を入れた金属の箱を浮かべる。

 そしてフェムの背に乗って、エルケーの街へと走り始めた。ルカは走ってついてくる。


 フェムの背の上からルカに尋ねる。


「昨日からずっと、粘土の塊と戦ってたのか?」

「まあ……。そういうことになるわね」

「ああいうのが相手の時は、救援を呼んだ方がいいぞ」

「それはわかっているのだけど」

「何か事情があるのか?」


 ルカはうなずいて、深刻そうな表情になった。

ルカにも事情があったようです。

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