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371 タントとお風呂

前話のあらすじ:御用商人一派を牢屋に連行した。


3巻が2月に発売決定です。

同時に「ここは俺に任せて~」の1巻も発売されます。

 そして、御用商人は語りだす。


「タ、タントの」

「タントさんだろ?」

「は、はい、タントさんの住んでいた家を……ゾンビをつかって壊しました……」


 それは自称魔王の支配がはじまったばかりのころ。

 まだ、そのころには、自称魔王に逆らう者たちはいっぱいいたらしい。


「見せしめが必要だと……、エルケーの街の住人達全員に恐怖を与えろと……魔王さまがおっしゃって」

「自称魔王な」

「あ、はい、自称魔王が言って……」


 逆らう商人たちの住む区画をゾンビを使って壊滅させたのだという。

 だが、御用商人はそれだけでは見せしめとして不充分だと考えた。

 エルケーの住人に見せつけるようにしてタントを苛め抜いたのだ。


 タントを保護した家があれば、その家も店も破壊する。

 空き家に入りこんだら、その空き家も破壊する。

 ご飯を与えたものがいたら、そいつも襲う。

 そして、タントを助ける者はいなくなった。

 

 だが、タントを死なせるわけにはいかない。

 見せしめは生かしてこそだ。だからごみを漁ることと、残飯を与えることを許可した。

 残飯という名目でまともな食事を与えたものがいれば、容赦なく襲うことも忘れない。

 そして、悲惨な姿になったタントをエルケーの街の住人たちに見せつけたのだ。


 エルケーの住民は、自称魔王と御用商人に逆らうことの恐ろしさを知ったのである。


「お前本当にクズだな」

「わ、わたしは自称魔王の命令で仕方なく……」

「言い訳は聞かない」


 ヴィヴィが冷たい声音で言う。

「もう、こいつは殺してもいいのではないかや?」

「ひっ」

「裁きは代官に任せる」

「ふむ。わかったのじゃ」


 そして、俺とヴィヴィとモーフィは冒険者たちに後を任せて戻ることにした。

 雪の中を歩きながらヴィヴィが言う。


「とても可哀そうなのじゃ」

「そうだな。あれだけ怯えていたのも、俺たちがひどい目に合わされると思ったのかもしれないな」

「……うむ」


 冒険者ギルドに戻ると、ユリーナに抱きしめられてタントは落ち着いていた。

 さすが聖女様、保護はお得意なようだ。


 そして、俺たちはタントを連れて、ムルグ村に戻る。

 ミレットやコレットにも紹介して、早速風呂に入ることにした。

 タントは下水道などでも暮らしていたようで、かなりの臭いだったからだ。


「よし、タント、お風呂に入るぞ」

「はい」

 タントは大人しくついてくる。


「もっもー」「りゃっりゃー」「わふわふ」「ぴぎぃ」

 獣たちも当然と言った感じでついてくる。

 シギショアラもタントに対する警戒を解いたらしい。

 脱衣所に入ると、シギはタントの頭の上に乗って優しく撫でる。


「えへへ」

 タントもシギに癒されているようだ。

 そこにクルスがやってきた。まだ獅子の被り物をかぶっている。


「ぼくも入りますねー」

「なんでクルスが入るんだ?」

「この前、また今度一緒に入ってくれるって言ってましたよね?」

「え? そうだったか」

「もう。本当にアルさんは仕方がないですねー」

「じゃあ。先に入ってるから、後からこい」

「わかりましたー」


 俺は獣たちを洗う必要があるので、忙しいのだ。

 フェム、モーフィ、チェルノボク、そしてシギの順で洗っていく。


 タントがクルスより先にお風呂に入って来た。俺は獣たちを洗いながら言う。


「自分で洗えるか?」

「うん」

「そうか」

 タントは言葉の通り自分で体を洗っているようだった。


「りゃっりゃ」「ぴぎぃ」

 俺がフェムとモーフィを洗っている間、シギはチェルノボクを洗っていた。

 とても可愛い。


 最後に俺がシギを洗っていると、クルスが来た。


「遅かったな」

「獅子の被り物の留め金が外せなくて」

 ちょっと歪んでなかなか取れなかったらしい。

 力づくでとったら壊れてしまうので時間がかかったようだ。


「アルさん、背中流しますねー」

「俺よりタントの背中でも流してやってくれ」

「わかりましたー」


 俺が自分の体を洗い始めると、シギが拙いながらも一生懸命背中を流してくれる。


「ありがとうな」

「りゃあ」


 洗いながらクルスが言う。


「タントちゃんは可愛いのだから、もっときれいにした方がいいよー」

「そんな、おれなんて……」

「あとで、ユリーナに可愛い服を見繕ってもらおうねー」

「え?」


 会話を聞いて声が出た。俺は男の子だと思っていたのだ。


「男の子じゃなかったのか?」

「見ればわかるじゃないですかー」

 クルスが呆れたように言う。


「そ、そうか」

『匂いでわかるのだ』

「……そうなのか」

 正直、タントからはどぶの臭いしかしなかった。


 体を洗った後、みんなで湯船に入る。


「あの。こんなに良くしてもらって……」

「気にするな」

「でも、おれによくしたら、酷い目に……」

「自称魔王なら退治しておいた。安心しなさい」

「もっも!」

 元気づけるようにモーフィがタントの顔を舐める。


「モ、モーフィちゃん。ちょっと待って。たいじってどういう?」


 モーフィを撫でながらタントは言う。タントは退治の意味がわからなかったようだ。

 自称魔王が倒されるということ自体が、想像の範囲外なのだろう。


 クルスがタントの頭を撫でながら、笑顔で言う。


「実はぼくは勇者なんだよ!」

「えっ?」

「本当だよ。自称魔王なんか雑魚だから安心してね!」


 そういうと、クルスは脱衣所まで行って、鋼鉄の球を持って戻ってくる。


「なんでそんなのを持ち歩いているんだ……」

 俺の呆れる声を気にすることなく、

「見ててね」

 クルスは片手で鋼鉄の球をぐにゃりとつぶした。

 それをタントに手渡して言う。


「ね?」

「は、はい」

 あまりの怪力っぷりに驚いたのだろう。顔を引きつらせていた。

 しばらくして、タントは「うえぇぇぇぇぇぇ」と声をあげて泣きだした。


「よしよし」「りゃ」

 クルスとシギは泣き止むまで優しくタントの頭を撫でていた。

タントも安心できたようです。

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