360 自称魔王の御用商人
前話のあらすじ:エルケーの商売は御用商人が牛耳っているようだ。
3巻が2019年2月に発売決定です。
同時に「ここは俺に任せて~」の1巻も発売されます。
俺のそばで話を聞いていた、ステフが小声で言う。
「つまりどういうことなのです?」
「リンミア商会を本格的にかませた方が、仕入れの値段が高くなるってことだ」
「ふむ? そういうものなのです?」
「リンミア商会が転移魔法陣を使うならそうでもないが……。そういう場合は、ごく少数の信頼できるものに任せた方がいいだろう」
「つまりは、ミリアみたいなってことなのだわ」
「な、なるほど。わかったのです」
ステフは納得してうんうんと頷いた。
リンミア商会として信用できるものを一人貸す。
そんな、今のような状態がエルケーの街にとってベストである。
そう、ユリーナの父は判断したのかもしれない。
「リンミア商会の利益だけ考えれば、もっと大々的にかんだ方がいいんだろうけどな。ユリーナのお父上には借りができた気がする」
「それは気にしなくていいのだわ」
ユリーナが優しく微笑んだ。
そうはいっても、後で菓子折りでも持って行かなければなるまい。
そんなことを俺たちが話している間も、ミリアは店主に話を聞いていた。
一通り話を聞き終わると、ミリアは言う。
「ありがとうございます。私も商売を始めるかもしれないので、これからよろしくお願いしますね」
「えっ? それは」
「なんだ。なにか問題があるのか?」
俺が笑顔で尋ねると、店主は慌てて手の平をこちらに向けてぶんぶんと振った。
「い、いえ! 問題ないです! ですが、御用商人があれですし……。仕入れの値段とか高いので儲けはあまり出ないかもしれません」
「それなら安心しろ、別ルートから仕入れるから」
「御用商人は護衛がいますから……目を付けられると厄介かもしれません」
「御用商人ってやつに嫌がらせされるってことか?」
「……嫌がらせっていうレベルではありませんよ」
別ルートから仕入れていたことがばれると、店ごと破壊しに来るのだそうだ。
店舗を持たない行商人の場合は、もっとひどい。
身ぐるみはがされて川に突き落とされたりするらしい。
「それは興味深いな」
「旦那さん方なら、怖くないかもしれませんが……。一応お気を付けください。へへへ」
媚びを売るように店主は揉み手をしながら言った。
御用商人より俺たちの方が怖いと思ったのだろう。
「でも、師匠がすでに魔王を名乗っていた奴は始末したのです。御用商人も大人しくなっていると思うのですよ」
「自称魔王が退治されたことを、御用商人は知っておらぬかもしれぬのじゃ。そのあたりはどう思うのじゃ? 店主よ」
「わ、わかりませんが……。……知らなくても不思議はないかもしれません」
店主は考えながら答えてくれた。
御用商人はエルケーで起こったことを、よく知っていたとは思えないらしい。
「どうしてそう思うんだ?」
「へ、へい。いつも街にやってきた当日は護衛などが聞き込みをやっていましたから。次の日からは見せしめを兼ねた報復です。さらに次の日からやっと商売の開始です」
御用商人の意に反した者たちがひどい目にあったのを見てから売買交渉に入るのだ。
エルケーの商人たちが強く出れないのもよくわかる。
「御用商人の本拠地はどこなんだ?」
「……わかりません。王国の方だとは聞いていますが……」
店主から御用商人の護衛についても聞いておいた。
屈強な男たちが十人ぐらいいて、逆らう者たちをボコボコにしていたらしい。
「たった十人なのか?」
「そうは言いますが、とても強くて……」
「そうか」
御用商人が明日来るというのなら、お話し合いをする必要があるだろう。
「その御用商人とやらに、俺のことは……」
「も、もちろん口外しませんとも、ええ、ええ」
真剣な表情で、店主はうんうんと頷いている。
「いや、俺のことは話していい」
「へ? いいのですかい?」
「こっちから探すのも面倒だからな」
「そ、そういうことでしたら……」
そして、俺たちは店主にお礼を言って、市場調査に戻ることにした。
歩きながらクルスが言う。
「御用商人はアルさんのこと知ったら、どういうふうに出ますかねー?」
「びっくりして丁寧に挨拶しに来ると思うのですよ」
「いやー。襲いに来ると思うのじゃ」
ステフやヴィヴィが楽しげに予想していた。
一方、ミリアは御用商人にはあまり興味がなさそうだった。
「だって、法外な値段を吹っかけていた相手なのですから、まともな我々が負けるわけありません」
「そうはいっても、ミリア。暴力で無理を通そうとしている奴なのだわ」
「ふふふ、ユリーナは冗談が好きなのね。ユリーナが負けるわけないでしょう?」
「そうかもしれないのだわ」
「その上、クルスさんにアルフレッドさんもいらっしゃるのですし。そんなことより必要とされている物資が何か調べる方が先です」
そういって、ミリアは真剣に市場調査を続けていた。
薪販売店の店主とのお話し合いを見ていたためだろうか。
他の店の店主は、ミリアが何かを聞けば、慌てた様子で答えてくれた。
ついでに俺たちは御用商人についても聞いておいた。
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