358 市場調査に出かけよう
前話のあらすじ:かっこいいクルスは子供に人気。
2巻がGAノベルから発売中です。
トム、ケィ、ステフとミリア、そしてクルスの互いへの自己紹介が無事終わった。
それからトムにお願いしてミリアのために一部屋借りる。
「お客さんが増えて助かるよ!」
「すごいね、にいちゃ!」
「うん。これで、たまにお菓子を買っても大丈夫だ」
「やったー」
俺はちょくちょくお菓子を含めた食料をトムとケィに買ってあげている。
だが、トム自身は中々お菓子を買えないらしい。
「俺やステフ、レアとレオの宿賃では、お菓子を買うのは難しいのか?」
「買えるけど、やっぱりパンやお肉お野菜が先だろ?」
正論である。十歳とは思えないほどしっかりしている。
「それはそうだな」
「ケィは五歳のわりに、まだ小さい気がするんだ」
「ふむ」
俺はケィの頭をわしわし撫でた。
確かに同い年のコレットに比べてやや背が低い気がしなくもない。
だが、個人差の範囲におさまるだろう。
「そんなに心配することではないと思うが」
「でも、少し前までご飯をお腹いっぱい食べられなかったからね」
トムが心配する気持ちもわかる。食費に回したいのだろう。
「それになにが起こるかわかんないし、貯金は大切だとおもうんだ」
トムは本当にしっかりしている。
「偉いぞー。お腹が減ってご飯が無かったら、ムルグ村にすぐ来ていいんだよー」
クルスがトムの頭をわしわし撫でていた。
クルスは獅子仮面を外していない。
トムとケィにかっこいいと言われたからだろう。
「その部屋に入って、飛べばいいっていうけど、よく仕組みがわからないんだ」
わからないから、転移魔法陣が少し怖いのだろう。
気持ちはわかる。
「その仕組みは、そうそうわかるものではないのじゃ」
ヴィヴィはうんうんと頷いている。
「でも、安全だから安心するがよいのじゃ」
「わかったよ」
そんなことを話している間、ミリアはユリーナと宿屋の中を見て回っていた。
「トムさん、薪とかはいくらぐらいで買っているのですか?」
「その薪はアルさんにもらったやつなんだ。薪は高いからうちでは買えないんだよ」
「ちなみに、薪はおいくらなんですか?」
「うーんと、このぐらいの量で……」
トムから薪の値段を聞いて、ミリアは驚いていた。
ミリアが想像していたよりも、相当高いようだ。
「これは街に商品を見に行かないといけませんね!」
ミリアは張り切っている。
一方、クルスはケィと一緒にモーフィに乗って遊んでいた。
「え? おかいものにいくの? ケィもいきたい!」
「ケィわがまま言ったらだめだよ」
「にいちゃ、わかった」
トムがケィを窘める。ケィは素直にうなずいていた。
「いや、折角だし一緒にいこう」
「やったー、おっしゃんだいすき」
「迷惑じゃないかい?」
「全然迷惑じゃないさ」
俺たちはぞろぞろと街に繰り出す。
トムとケィにステフ、クルス、ユリーナ、ミリア、そしてヴィヴィが一緒だ。
フェムとモーフィも当然ついてくる。
「そういえば、シギちゃん大人しいですね」
「シギは俺の懐の中でお休み中だ」
「赤ちゃんだから睡眠は大切ですもんねー」
寝る子は育つという。
シギショアラには、たくさん眠って立派に育ってほしいものだ。
ミリアを先頭に、俺たちは商店や露店を回っていく。
ミリアは真剣な表情でメモをとったりしていたが、素人の俺たちは気楽なものだ。
「ケィ、トム。お菓子を買ってあげよう」
「いいのかい?」
「やったー。おっしゃんだいすき」
「わーい。アルさん、さすがです」
クルスには買ってやるとは言ってないのだが、クルスも喜んでいた。
仕方ないので、クルスの分も含めてお菓子を買う。
お菓子というよりも、パンに近い。
砂糖多めのパンに、はちみつを軽くかけたものだ。
「はい、ケィとトム」
「おっしゃんありがとう!」
「本当にありがとう」
「ほい、クルスも」
「ありがとうございます」
クルスにお菓子をあげると、仮面を外さずに器用に食べていた。
ヴィヴィやステフにもお菓子をあげる。
「これがエルケーのお菓子だ。一応食べておくといい」
「ふむ。卵をもう少し多くするだけで、もっとうまくなると思うのじゃが……」
ヴィヴィがぼそりとつぶやいた。
すると、耳ざとく聞きつけた店主が言う。
「俺もそう思うんだがな。卵が高くて、とてもとても。それ以上は無理だ!」
そのとき、別の場所で市場調査をしていたミリアが駆けつけてきて言う。
「ちなみに卵はおいくらするんですか?」
「お、おう。そうだな……」
店主に値段を聞いて、ミリアは眉をしかめる。
「それは高いですね」
「だろう?」
店主は深刻そうな顔でうなずいた。
「ミリアもどうだ?」
「あ、はい。ありがとうございます」
ミリアは一口食べて、
「おいしいです」
「そうかい? ありがとよ」
「わずかな卵を利用して、これほどの風味をだすとは……感服しました」
「お嬢ちゃん、わかってるねえ!」
店主は嬉しそうだ。
「りゃ」
シギも目を覚ました。首だけちょこんと出す。
「シギも食べなさい」
「りゃあ」
シギやモーフィ、フェムも美味しそうに食べていた。
食べながら歩き始めると、ミリアが小さな声でつぶやいた。
「真面目で腕のいい職人が、エルケーにはいらっしゃるみたいですね」
ミリアは希望を見出したようだ。
エルケーにもちゃんとした職人はいるようです。