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352 温泉に入ろう

前話のあらすじ:トムの宿屋に魔法陣を描いた。


2巻がGAノベルから発売中です。



 俺とヴィヴィ、フェムがムルグ村に帰ると、モーフィが駆けてくる。

 モーフィの背にはチェルノボクが乗っていた。


 転移魔法陣が設置されている倉庫の前で待っていたようだ。


「もっも!」

「ぴぎっ」

「モーフィ、ただいま」

「待っていてくれたのかや?」


 モーフィは俺とヴィヴィに交互に鼻を押し付ける。

 チェルノボクはモーフィの背の上から俺の肩の方にぴょんと飛び移った。


「りゃあ」

 一方、シギショアラは俺の懐からでて、モーフィの背に乗った。

 角と角の間を撫でている。


 俺たちの帰還に気づいた魔狼たちが四頭、尻尾を振りながら走ってきた。

 フェムに挨拶するためだろう。


「わふ」

「わぅわぅ」

 フェムと魔狼たちは匂いを嗅ぎあって、舐めたり吠えたりしていた。


 俺は右手で肩のチェルノボクを、左手でモーフィを撫でた。

「モーフィ、チェルノボク、今日はどうだった?」

「もうも!」

『じゅんちょー!』


 モーフィが機嫌よく鳴いて、チェルノボクが嬉しそうに言った。

 順調なようでなによりだ。


 今日、モーフィは死神教団の村に行っていたのだ。

 レアが抜けた労働力をカバーするためだ。

 モーフィは労働力として申し分ない。


『アル! むらのなまえきめた!』

「ほう、何にしたんだ?」

 いつまでも死神教団の村ではしまらない。


『チェルノむらー』

「ほうほう? チェルノボクから取ったの?」

『そうみたいー』

「いい名前だな」

「ぴぎぴぎっ」


 チェルノボクは嬉しそうにフルフルしていた。


 一応、チェルノボクが死神の使徒、死王であることは内緒だ。

 にもかかわらず、村の名前にチェルノボクから一部をとってつけたようだ。

 司祭の態度で、信者たちもチェルノボクが特別だと薄々気付いているのかもしれない。


 チェルノボクと雑談していたら、ヴィヴィが言う。


「寒くないのかや? はやく小屋に入るのじゃ」

「そうだな。風邪をひいたら困る」


 天気はよいが、季節は冬。もう日は沈んでいる。風が冷たい。

 星がとても綺麗だった。


「りゃあ?」

 シギショアラもフェムもモーフィも、そしてチェルノボクも寒さは平気なようだ。

 俺も少しの間ならば冷たい風も気持ちがいいが、すぐに体が冷え切ってしまう。


 俺たちは、衛兵小屋へと向かった。


「おっしゃん、おかえり!」

「アルさん、おかえりなさい! お風呂とご飯どっちにしますか?」

 コレットとミレットが出迎えてくれた。


「ただいま。どっちがいいかな」

 フェムとモーフィはお風呂に入りたいのか、期待のこもった目でこっちを見ている。

 尻尾もゆっくりと揺れていた。


「そういえば、クルスたちは?」

「まだ帰って来てないですよー」

「そっか、じゃあご飯はクルスが帰ってからの方がいいかな」

「じゃあ、お風呂ですねー」


 俺はヴィヴィに尋ねる。


「ヴィヴィ、先に入るか?」

「ん? まあ、わらわは姉上が来てからでいいのじゃ」

「そっか」


 そして、俺は温泉に向かう。


「りゃっりゃー」

「もっもー」

「わふわーふぅ」

「ぴぎぴぎっ」


 獣たちも嬉しそうについてくる。

 服を脱いで、浴場にはいると、獣たちが俺の前に並ぶ。

 体を洗ってもらうのを待っているのだ。

 

「順番だからなー」

「わふ」

 俺はフェムからわしわしと洗う。


「いい匂いって、トムとケィに言われていたな」

『当然なのだ。フェムはただの狼ではないのである』


 フェムはどこか誇らしげだ。


「そういえば、魔狼たちってお風呂苦手なのか?」

『苦手でもなければ、特に好きでもないのだ』

「そっか」

『今は冬だから、お風呂は厳禁なのである』

「それもそうだな。ぬれたら一気に体がひえるもんな」


 野生は大変である。

 フェムの石鹸を洗い流した後、背中に鼻を当てて匂いを嗅ぐ。

 いい匂いだった。


「うん、大丈夫だ」

『ありがとう』


 それからモーフィとチェルノボクを洗う。

 モーフィの角の先、尻尾の先までしっかり洗った。

 ひづめも忘れてはならない。


 チェルノボクはつるつるしているし、小さいのですぐ洗える。


 シギショアラは自分で自分のことを洗っていた。

 だが小さいので、まだうまく洗えていない。特に背中は難しいようだ。

 俺はシギのことも洗う。


 その間、獣たちは大人しく待っていた。

 全員を洗って、みんなに言う。


「よし、湯船に入っていいぞ」

「わふぅ」

「もっ!」

「ぴぎ」

「りゃあ」


 フェムたちは嬉しそうに湯船に入る。

 それを見ながら、俺は自分の体を洗う。


 俺が湯船に向かったころ、フェムたちは湯船で気持ちよさそうに泳いでいた。


「泳ぐの好きだな」

『気持ちがいいのだ』

「もっも!」

「ぴぎぴぎ」

「りゃあ!」

 シギも泳ぐのもうまいようだ。


「モーフィ、今日はお疲れ様だったな」

『がんばった』

「チェルノ村ではどんな仕事をしたんだ?」

『にもつはこびとか』


 いっぱい荷物運びをしたようだ。

 ほかにもチェルノボクとモーフィと村の狩人と組んで狩りをしたりもしたらしい。


『チェルノむら、もうだいじょうぶかもー』

 チェルノボクがそんなことを言う。


「もう独力で大丈夫なぐらい安定したってことか?」

『きほんてきにはそうなの』


 だからこそ、村に名前を付けたのかもしれない。


「それはなによりだ。でも、何か困ったことがあれば言うんだぞ」

『ありがとありがとー』


 春になれば、本格的に農業が始まる。

 それに、大陸中から死神教徒が集まってくるはずだ。

 それはそれで、大変なことがあるだろう。


 冬の間に出来ることがあまりないというだけなのかもしれない。

 それでも、めでたいことだと俺は思った。

死神教団の村はチェルノ村になったようです。

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