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351 トムの宿屋

前話のあらすじ:ネグリ一家の親分は狼が怖い。


2巻がGAノベルから発売中です。

 俺とフェムは一度、エルケーの街、トムの宿屋に向かう。


「おっしゃん、おかえり!」

「ただいま。ケィいい子にしてたか?」

「うん!」

 いつもケィは元気だ。


「師匠! お疲れ様なのです。ネグリ一家はどうだったのです?」

「なんか、もう大丈夫そうだったぞ」

「それは何よりなのです」


 トムの宿屋には、最近ステフが常駐してくれている。

 ちなみにレオとレアの兄妹もトムの宿屋に住み込んでいる。

 そして、エルケーの街で冒険者を再開したのだ。

 レオもレアもBランク冒険者。

 優秀なのでエルケーの冒険者ギルドとしては助かっていることだろう。


 ヴィヴィも暇を見つけては、トムたちの様子を見に来てくれている。


「アル、こっちに来るのじゃ」

「む? どうした? ヴィヴィ」

「転移魔法陣部屋の防御にアルが描いた魔法陣なのじゃが……」

「なにか不備があったか?」

「不備ではないのじゃ。だがのう」


 俺は転移魔法陣を防御するために魔法陣を描いた。

 ムルグ村やクルスの部屋、死神教団の村などに描いたのと同種の魔法陣だ。


「トムの宿屋はそれらの魔法陣部屋より狭いのじゃ。居住スペースから近いとも言っていいのじゃ」

「ふむ。たしかに」

 クルスの屋敷も居住スペースに近いが、トムの宿屋よりは広い。


「居住性を高めた魔法をかけるのに、この部分が邪魔なのじゃが……何とか出来ないかや?」


 ヴィヴィはトムに許可を得て、耐衝撃や断熱、耐振動などの魔法をかけていたらしい。

 衛兵小屋にかけていたような、居住性を高める魔法陣だ。

 ヴィヴィの施工がおわれば、王都の最高級宿屋を越える居住性を獲得しそうだ。


 俺は、ヴィヴィに指摘されたところをじっくりと観察する。

 俺の弟子でもあるステフも俺の後ろから、じっくり見ている。


「ふむ。確かに」

 ヴィヴィが衛兵小屋にかけているものとの相性を考えると、問題がありそうだ。


「クルスの屋敷にかけたものは居住性重視エリアと魔法陣部屋が離れているから問題がなかったのじゃ」

「気づかなかった。修正しよう」

「あの、師匠。私にはさっぱりわからないのです……」

「ふふふ。ステフ、これは基礎理論の組み合わせなのじゃ。難しいことは何もないのじゃ」


 ヴィヴィはステフに解説を始めた。

 楽しそうに語るヴィヴィの話を、真剣な表情でステフは聞いている。


 その横で、俺は自分のかけた魔法陣を黙々と修正する。

 それをシギショアラがじっと見つめていた。


「お、アル。終わったのじゃな!」

「うむ。あとは頼む」

「任せるのじゃ。ステフも見ているのじゃぞ」

「勉強させていただくのです!」


 ヴィヴィは素早く魔法陣を刻んでいった。


「ヴィヴィ、もしかしてまた、腕あがったか?」

「そうかや?」

「自称魔王との戦いで使った、一斉に氷弾を撃ち込む魔法陣もすごかった」

「ふへへ。そうかや? そうでもないのじゃ」


 ヴィヴィは照れている。


「あれって、属性切り替えもできるように作ったんだろう?」

「うむ。各属性攻撃の魔法陣にも共通点があるのじゃ。属性をつかさどる部分だけいじればいいのじゃ」

 ヴィヴィの戦闘力も向上しているようだった。


 一方そのころ、トムとケィはフェムと遊んでいた。


「ふぇむちゃんはいい子ですねー」

「わふぅ」

 ケィががっちりフェムに抱き着く。


「もふもふだー、いい匂いするー」

 毎日のように風呂に入るので、フェムはいい匂いなのだ。


「ほんとだ! すげーな」

 トムもフェムの匂いを嗅いで喜んでいた。


 トムとケィの話を聞いて、ふと気づく。


「そういえば、ここ二、三日、温泉に入ってないな……」


 よくないことだ。ひざにも良くない。

 忘れずに温泉に入らねばなるまい。


 そして、ヴィヴィが魔法陣を刻み終わる。


「トム。魔法陣を描いておいたのじゃ」

「ヴィヴィねーちゃん、ありがとう。でもまほうじんってなんだい?」

「それはじゃな……」


 ヴィヴィはトムに魔法陣の効果を説明した。


「すげー! ヴィヴィねーちゃん、すごい人だったんだな!」

「すごいの?」


 トムは喜び、ケィはきょとんとしていた。


 さらにしばらくして、レアとレオが帰ってきた。


「ただいま帰りました」

「お帰り。今日はどうだった?」

「はい。無事、魔物を討伐できました」


 新人冒険者の薬草採取場所、その近くの魔物討伐を請け負ったらしい。

 レアたちは新人冒険者パーティーに同行したのだという。


「新人とは思えぬ力量でした」


 レアが嬉しそうに言う。

 厳しい環境で薬草採取を続けていたせいで成長していたのだろう。


 レオとレアが冒険者ギルドに協力すれば、なんとか運営できるに違いない。

 それでも冒険者ギルドが通常営業に戻るまでにはしばらくかかるだろう。


「なにか力が必要なことがあれば、いつでも言いなさい」

「ありがとうございます」


 ヴィヴィが立ち上がる。


「さて、そろそろムルグ村に帰るかや?」

「そうだな」


 レオとレア、それにステフがいれば、トムの宿屋は大丈夫だ。

 一応、トムたちも魔法陣部屋に入れるようになっている。

 いざとなれば逃げてくるだろう。


「おっしゃん、もうかえっちゃうの?」

「また、明日も来るからな」

「うん、まってる!」


 トムとケィたちに見送られて、俺たちはムルグ村に戻った。

作中で描写されたのは久々ですが、昨日も実は帰っています。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ケィの、アルさんの呼び方(おっしゃん)がコレットみたいになってる。
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