342 自称魔王一派対魔王一派
前話のあらすじ:魔人との戦い。
2巻がGAノベルから発売中です。
魔人は信じられないものを見るような目を俺に向ける。
「なんだと……」
「魔人は生命力が高いからな。多少力を込めても死なないだろう?」
「ぐぐううう」
「おお、まだ頑張るか」
――ガンッ
俺はさらに重力魔法を強化した。
少し浮き上がっていた魔人の体を床に叩きつける。
「さっきみたいに頑張って抜けてみろ」
「き、きさまああ」
魔人は魔力弾を撃ち込んできた。
魔法障壁をまとわせた左手ではじく。
「魔法を撃ち込むならもっと真剣にやれ」
「ぐううう」
どんどん魔人にかける重力魔法を強化していく。
バキバキという骨が折れる音が響く。
そのころにはゾンビは全て退治されている。
「あまり潰しすぎたら死んじゃうのじゃ」
「真っ二つにしても死なない奴だっているぐらいだ」
「それもそうじゃな」
ヴィヴィは納得したようだ。
「アル。一応だけど、とどめを刺すのは待って欲しいわ」
「了解」
ルカは尋問したいのだろう。
俺も自称魔王と魔人のどっちが主犯かも知りたい。
「だが、魔人だからな。もう少しダメージを与えないと暴れるだろう」
「半分に割ってみたらいいのだわ」
ユリーナは以前倒した魔人王を想定しているのだろう。
「さすがにあれは魔人王の中でも強いミスリルの魔人王だったからな。こいつなら死んじゃうだろう」
「確かに、そうかもしれないのだわ」
ミスリルの魔人王は、シギショアラの母を倒した魔人王だ。
二百年前から暗躍していた、魔人王の中でも強力な個体だ。
そんなことを話していると、うめくようにして魔人が言う。
「貴様らが……。ミスリルの魔人王を倒した奴らか」
「そうだ。知り合いか?」
「…………」
魔人は何も語らない。
「まあ、いい。あとで聞けばいいだけだ」
おそらくは、ミスリルの魔人王に支配されていた魔人の一匹に違いない。
俺は重力魔法をさらに強化して、魔人の骨を砕いていく。
全身の骨を砕いた程度では、すぐに復活するのが魔人だ。
とはいえ、骨とともに肉まですりつぶすと、さすがに死にかねない。
倒すのは簡単だが、倒さずに無力化するとなると加減が難しい。
俺は魔法の槍を作り出し、魔人の体の要所に撃ちこんだ。
両肩、両ひざ、へそのあたりだ。
そうしておいてから、魔法の縄で折りたたむようにして拘束した。
「こいつらを運ぶの、非常に面倒だな」
「そうね」
前回のミスリルの魔人王の時は王都のすぐ近くで倒した。
だから、運搬は司法省などに任せることが出来た。
「エルケーは行政が機能してないからな……」
「冒険者ギルドもなのだわ」
王都の司法省まで連れていかねばならない。
そうなると、リンドバルの森まで行って、転移魔法陣を通る必要がある。
しかも、転移魔法陣の場所などは魔人に知られたくない。
感覚を遮断して運搬する必要がある。
「俺は魔人を見張っとくから、ルカとユリーナは自称魔王たちを調べてくれ」
「了解なのだわ」
「任せておいて」
ルカとユリーナは自称魔王たちに近づいていく。
自称魔王たちは全身の骨が折れているので、おそらく気絶しているはずだ。
意識があっても動けない。
「……き、きさま」
自称魔王がつぶやく。
「お、まだ意識あるのか。大したものだ」
「――」
自称魔王は何事かをつぶやいた。
その瞬間、仮面の者がびくりと動いた。
仮面の者の動きがどんどんと大きくなっていく。
「何をしたの?」
「全身の骨が折れているのに、異常なのだわ」
ルカとユリーナは警戒して、距離をとる。
「もううぅも!」
「りゃああああっりゃ!」
異常な事態に、モーフィとシギショアラも警戒の声をあげる。
仮面の者はゆらりと立ち上がる。
すねの折れた骨が肉を突き破って血が噴き出た。
「ルカ! 自称魔王を気絶させろ!」
「わかった!」
仮面の者の動きは異常だ。
無理やり魔法で操っていると考えたほうがいい。
ならば、自称魔王がその魔法の使い手だろう。
「てい!」
ルカが自称魔王の顔面を的確に殴った。
自称魔王は一撃で意識を失う。
だが、仮面の者の動きは止まらない。
「任せて」
ユリーナが仮面の者に近づこうと足を動かした瞬間。
周囲に精霊が一斉に湧いた。炎の精霊だ。
一気に部屋の温度が上昇する。
「炎の精霊十二体か!」
室内での多数の精霊との戦闘は厄介だ。
炎の精霊なら尚更だ。
精霊たちは突然呼び出されて怒っているようだ。
火炎を周囲にばらまいていく。
「モーフィ! 部屋の外に!」
「もっ」
モーフィが背中にヴィヴィとレアを乗せたまま扉に向かう。
だが、出口は既に精霊がふさいでいる。
モーフィだけなら突っ込んで脱出できるだろう。
だが、ヴィヴィとレアが背中にいるので、それもできない。
「もっも!」
モーフィは炎の精霊の火炎攻撃をかわしていく。
「アル! おねがい」
ルカの声が響く。
精霊に対して、剣はさほど有効ではない。
俺が相手をしなければなるまい。
その時、ヴィヴィが叫ぶ。
「わらわに任せるのじゃ!」
同時に、床に大きく魔法陣が浮かび上がった。
巨大な魔法陣だ。俺が重力魔法で魔人たちを抑えている間に描いたのだろう。
ヴィヴィの魔法陣が発動すると、部屋の気温が一気に下がった。
ヴィヴィがモーフィに乗ったまま準備していたようです。