341 魔人対魔王
前話のあらすじ:自称魔王と魔人と仮面の男と戦うことになった。
2巻がGAノベルから発売中です。
ちょうど俺に向かって、頭を下げているような形だ。
「どうした? 俺に謝りたいことでもあるのか?」
俺は自称魔王の頭に槍の先を乗せた。
先程の魔人の攻撃の際、俺も飛んできた槍をつかみ取っていた。その槍だ。
「ぐぐううう」
「っかぁ」
自称魔王と、仮面の男は床に押さえつけられ、全く動けないようだ。
肋骨が折れたのか、鼻が折れたのか、口と鼻から血が流れる。
とりあえず、このまま全身の骨を砕けばいいだろう。
そうすれば、動けなくなる。尋問はそれからでいい。
そんなことを考えていると、
「許さぬぞ……」
魔人の方が、必死に立ち上がろうとしていた。
自称魔王より魔人の方が強いようだ。
もしかしたら、黒幕はこっちなのかもしれない。
もちろん、強い方が賢いとも偉いとも限らない。
「さすがは魔人。この程度なら、まだ立ち上がろうとするか」
俺はさらに重力魔法を強化する。
「ぐはっ」
少し起き上がろうとしていた魔人を、無理やり地面に押さえつける。
同時に自称魔王たちにも、強い負荷がかかる。
「ぎ……」
「ぎぃ……」
――ゴギ……ポギ……
骨の折れる音が響いている。
「許さん、許さんぞ、人族風情がああああ」
「人族風情に、いいようにやられる気分はどうだ?」
動けないのに魔人は元気だ。
悔しそうに叫んでいる。
魔人の四本の腕、その筋肉が盛り上がる。
「ぐがあぁぁ」
魔人が四本の腕をつかって、無理やり体を起こそうとする。
「まだ、頑張るか。大したもんだ」
「GAAAAAAAAAAAAAA!」
人の言葉ではないおぞましい絶叫が響く。
同時に大量のゾンビが一気に玉座の間に飛び込んできた。
先程の咆哮はゾンビを呼び寄せるものだったのだろう。
バジリスクやヒドラ、キマイラ、そう言ったBからAランク魔獣のゾンビたちだ。
ルカが言う。
「雑魚は任せて」
「任せた」
「任されたのだわ」
ルカとユリーナが戦い始めた。
「モーフィ、ヴィヴィとレアを頼むな」
「もっもう!」
モーフィの返事は力強い。
ヴィヴィとレアはモーフィの背に乗ったまま、ゾンビに向かって魔法を撃ち込む。
大量のゾンビとはいえ、みんなに任せれば問題なさそうだ。
ルカたちの攻撃をかいくぐり、数体のゾンビが俺のもとに到達する。
「ごめん!」
「気にするな。数が多いからな」
当然、討ち漏らしは出る。
俺は右手の重力魔法を維持したまま、左手でゾンビを倒す。
魔力弾で吹き飛ばしていった。
キマイラゾンビをふきとばした瞬間、熱さを感じた。
俺の意識がゾンビに向いた一瞬の隙をついて魔人が火炎弾を撃ち込んだのだ。
敵ながらタイミングとしては完璧だ。
「焦ったぞ」
俺は障壁を繰り出してギリギリ防ぐ。
それで終わりかと思ったのだが、火炎が消えると目の前に魔人がいた。
重力魔法をはねのけて、立ち上がり襲いかかってきたのだ。
魔人は剣を振るう。並みの冒険者なら剣を振るわれたことにも気づけないだろう。
それぐらい速い。いわゆる目にもとまらぬ速さというやつだ。
咄嗟にかわす。左ひざに痛みが走った。
「なぜ、防げる!」
「……火炎弾を防いだことか?」
魔人は剣をかわされたことより、その前の火炎を防がれたことの方に驚いている。
重力魔法に加えて、ゾンビに放った魔力弾。さらに火炎を防ぐ魔法障壁。
計三種の魔法だ。確かに三種の魔法の同時展開は一般的に難しいとされている。
だから、魔人は驚いたのだろう。
「お前が動けることの方が驚きだよ」
「魔人を舐めるな」
そう言って、にやりと笑った。
動けないのは演技だったのかもしれない。
一瞬、そう考えたが、魔人の四本の腕のうち二本は開放骨折している。
腕を犠牲にして這うようにして、重力の範囲から逃れたのだろう。中々の根性だ。
自称魔王たちが死なない程度に手加減したのがよくなかった。
なのに、魔人はいやらしい笑みを浮かべながら言う。
「全力の重力魔法で俺にとどめを刺せなかったのが、お前の敗因だ!」
魔人は右手で剣をふるう。
俺が後ろにかわすと、魔人は左手の長い爪をふるってきた。
爪が指先から放たれて、俺を追うように飛んでくる。
刺されば厄介だ。とはいえかわして後ろにいるルカたちに当たっても困る。
俺は魔法障壁で爪を防ぐ。
「残念だったな! 唯一のチャンスを逃した気分はどうだ」
魔人は勝利を確信しているようだ。
背中から生えた二本の腕、開放骨折していた腕が見る見るうちに回復していく。
「あれが全力だと思ったのか?」
「はぁ?」
魔人が怪訝そうな顔をするのと同時に、俺は重力魔法を発動する。先程より強烈な奴だ。
すでに自称魔王たちの全身は粉々だ。動けまい。
だから、自称魔王たちにかけていた重力魔法を解除して、魔人に打ち込む。
――ダダンッ
すごい音がして、魔人は床に叩きつけられた。
魔人は調子に乗っていたようです。
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