335 トムの宿屋を調べよう
前話のあらすじ:冒険者ギルドもあまり動いていないらしい。
2巻がGAノベルから発売中です。
真面目な顔で聞いていた、ヴィヴィが言う。
「ルカ、何かしらんのかや? 冒険者ギルドのお偉いさんなのじゃろう?」
「あたしは冒険者ギルドのお偉いさんと言っても、王都管区長よ。この辺りはあたしの管轄外になるの」
「そうじゃったか」
「だから、詳しいことはわからないわ」
それは仕方のないことかもしれない。
ルカは頑張っているが、冒険者ギルドの管区長は本来名誉職なのだ。
俺はユリーナに尋ねる。
「ユリーナ。エルケーでは教会はどうなっているんだ?」
「一応小さな教会はあって、司祭が一人いるのだわ」
「信者は?」
「まあ……そんなにはいないのだわ」
ユリーナがいうには信者はほぼ皆無らしい。
布教のために若手聖職者がたまに来るだけのようだ。
エルケーは旧魔王領における布教の中心地となっているらしい。
だから、一旦若手聖職者はエルケーに来てから、各地に散っていくとのことだ。
「さすがの教会も、旧魔王領での影響力は限定的なんだな」
「そう言わざるを得ないのだわ」
俺たちがそんな会話をしている間、幼女ケィはモーフィの背に乗っていた。
「きゃっきゃ」
「もっも!」
「りゃ!」
シギショアラもモーフィの背に一緒に乗って楽しそうだった。
ケィが喜んでいるのを見て、兄のトムも嬉しそうにしている。
子供が喜んでいるのを見るのはとても嬉しい。
「エルケーの街にも当然子供はいるし、善良な民が暮らしているんだよな」
「当たり前なのじゃ」
「代官はなにをしているんだ?」
「気になるけど……。今は自称魔王を何とかしたほうがいいんじゃないかしら?」
ルカの言うとおりだ。
「とりあえず、自称魔王から何とかするか」
「そうね!」
「念のために聞くが、代官は魔王城にはいないんだよな?」
代官は何もしていないようだが、王の代理人だ。
喧嘩を売ると面倒なことになる。
「そうね、教会の近くの屋敷が代官所になっているみたいなのだわ」
「それなら安心だな」
俺がそういうと、ティミショアラが身を乗り出した。
「お、アルラ。魔王城に乗り込むのだな?」
「その予定だ」
「我が上空から舞い降りようか? 吠えてもいいし一発ブレスをかましても良いぞ」
「……いや、それはやめておこう」
「えー……」
「りゃあ……」
ティミと、モーフィの背の上にいるシギはがっかりしている。
「魔王城はエルケーの街と距離が近いからな……」
「ふむー」
「ティミの咆哮が響いたら、街が恐慌状態に陥るだろう」
「たしかに、そうよね。やめておいた方がいいわ」
「アルラとルカがそういうのなら、咆哮はやめておこうではないか」
それからティミは言う。
「……ブレスも駄目なのか?」
「魔王城が壊れるしな。それにティミのブレスなんて食らったら、自称魔王一派まるごと死んじゃうだろう」
「そうなのだわ。死んだらどういう集団なのか、精霊事件とは一体何なのかわからなくなってしまうのだわ」
その時レアがおずおずと言った感じで、手を挙げた。
「あの……」
「レア、どうした?」
「兄が、魔王城にいるっていう可能性はないのでしょうか?」
「あっ、あるのである」
ティミが今気づいたという表情になった。
両手で口元を抑えていた。
「すまぬ。我の考えが至らなかったのだ」
「い、いえ」
「我のブレスが降りそそげば、もし、レアの兄がいたとしても亡くなってしまう」
「その可能性は高いだろうな」
「ブレスはやめておこう」
そういうことになった。
俺はトムに尋ねる。
「ところで、この建物に何かあるのか?」
「なにって?」
「ダミアンたちが欲しがる何かないか?」
なぜか自称魔王がダミアンにこの家を手に入れろと命じたのだ。
その理由が知りたい。
「うーん。ないと思うんだけどなー」
「もともとこの場所に何かあったとか聞いてないか?」
「うーん。死んだ父ちゃんなら知っていたかもしれないけどー」
「そうか」
ヴィヴィが言う。
「調べてみたほうがいいのじゃ」
「確かにな。トム。調べていいかい?」
「もちろんいいぞ!」
トムが快諾してくれた。
「モーフィも鼻で協力してくれ」
「もっもー」
モーフィは背中にシギとケィを乗せたまま、鼻をクンクンさせる。
俺とヴィヴィは魔法で探査だ。
慎重に調べていく。
「魔法陣的なものはないのじゃ」
「そうだなー」
「アル。魔法的な何かありそうかや?」
「今のところなさそうだけどな……」
ルカは魔法探査中の俺の近くを歩いていた。
手元を興味深そうに確認してくる。
「これは? ちょっと古そうに見えるのだけど」
「これは遺跡の痕跡だな。エルケーの街自体、遺跡の上にできた街だからな」
「自称魔王は遺跡に目を付けたのかしら?」
「うーん。エルケーの街全体が遺跡の上にあるしな。トムの宿屋が特別というわけではないから」
「ふむー」
ルカもよくわからないようだ。
「アル。やはり魔法的な何かはないのじゃ」
「そうだな」
俺とヴィヴィが調べた結果、特に魔法的な何かがあるようには思えなかった。
「じゃあ、どうして自称魔王が欲しがっているのかしら」
「自称魔王に直接聞いてみるか」
「それが早いかも」
俺たちは魔王城に出向くことに決めた。
懐かしの魔王城です。