03
クエスト受注が完了すると、俺はそのまま王都を後にした。
ギルド長や軍務卿などが気付く前にできるだけ遠くにいくためだ。
有名になってしまったので、フードを深くかぶり、乗合馬車に乗り込んだ。
馬車を乗り継いで、二泊三日。そこからは馬車が出ていないので、徒歩でムルグ村まで向かう。
膝にはよくないが、ゆっくり歩けばそう悪くはならないだろう。
最高の散歩日和だ。天気も良く、風は気持ちいい。
「気持ちがいい!」
思わず大きな声で叫んでしまった。
なんども休憩しながら、三時間ほど進んだとき、なにやら喧噪が聞こえてきた。
道から離れた森の奥の方だ。
「む?」
聞きなれた音だ。魔獣の唸り声と人の声である。ただ事ではなさそうだ。
俺は膝をかばいながら急いだ。
「わたしは! 簡単には! やられない!」
駆けつけると、そこには狼の魔獣1匹と少女が対峙していた。
少女は木の棒を構え、狼を威嚇している。
だが、勇ましい声の割に、腰が引けている。戦闘訓練を受けたものの構えではない。
俺に気が付くと、狼は狙いを俺に変えた。
痩せた狼だ。少女より、俺の方が食い出があると思ったのかもしれない。
「もう大丈夫だ」
少女に向かって声を掛ける。
この程度の魔獣なら魔法を使うまでもない。
狼の顎の下を左手でつかむ。そして、地面にたたきつけた。
「きゃうん」
狼はそれだけで去って行った。
「おじさん、ありがとう」
少女に丁寧にお礼を言われる。
「あぁ。気にするな。お前こそ無事か?」
「お前じゃなくて、ミレットです」
そう言われて少女、いやミレットを改めて見た。
14~15程度の可愛らしい女の子だ。少し小さめの尖ったエルフ耳が可愛らしい。
「ああ、すまん。ミレット。俺はアルフレッドだ」
ミレットは俺の自己紹介に、にっと笑った。
「アルさん、ありがとうございます」
そして、改めて礼を言われた。
長年の冒険者生活で、礼を言われたことは何度もある。でも何度目だっていいものだ。
「ミレットが無事そうでよかった。だが、一人でこんなところにきたら危ないぞ?」
ミレットは少し暗い表情をみせる。
「妹が熱を出して。村にある薬が切れちゃったから、材料の薬草を取りに来たんです」
「そうだったのか」
「村のみんなは狼が出るから危ないって言われたんです。でも、妹が辛そうだし、それに死ぬこともある病気だから……」
ミレットは妹思いのお姉さんなのだろう。
話を聞くと、ミレットは村の薬師なのだそうだ。若いのに大したものだ。
「もう、薬草は集まったの?」
ミレットはふるふると首を振る。
ミレットのエルフ耳がしんなり垂れさがっていた。
「薬草って、動物や魔獣にとってもおいしいんです。いつもはもっと早い季節に取りに来るんだけど、今年は狼が出て、なかなか採りに来られなかったから」
「動物に食べられて、もう生えてないってことか」
「うん。もっと山奥の方にいったらあると思うんですけど……」
「山奥に行くのか?」
「……はい」
悲しそうなミレットを見てると、助けてあげたくなってきた。
ムルグ村まではあと1時間程度。ここで薬草採りを手伝ったら、日没に間に合わないだろう。
日没に合わせて村は門を閉じるのが普通だ。そうなれば野宿になる。
だが、ムルグ村の任務は急ぎではない。それに俺は野宿には慣れている。
ここでミレットと別れれば、一人で薬草を探しに山奥に行き、今度こそ狼に食べられるだろう。
そうなれば寝覚めが悪すぎる。
「しゃーない。薬草探しを手伝おうじゃないか」
「え?」
ミレットがきょとんとした目を向けてくる。
「急いでないし。死なれたら寝覚めが悪いからな!」
「あ、ありがとう」
「薬草が生えている場所に案内してくれ」
「はい!」
元気に返事をしたミレットの耳がピンとたった。