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295 上位精霊と謎の魔導士

前話のあらすじ:怪しい人影は獣たちの活躍で吹き飛んだ。


2巻がGAノベルから発売中です。よろしくお願いいたします。

一巻をまだ手に入れていないかたは、この機会に一巻もぜひ。

 モーフィに弾き飛ばされた人影が、精霊召喚の犯人かはわからない。

 だが、犯人側の人間なのは間違いないだろう。

 確実に俺とフェムを目標に火炎をぶつけようとしたのだ。


「お前も、凄腕の魔導士なんだろう? 凌いでみせろ」


 俺は支えていた溶岩石、その一つの軌道を変える。

 人影に向けて自由落下させた。


 人影は跳びはねるように、起き上がる。

 そして溶岩石の落下地点から、必死に距離をとった。


「はーい。大人しくしてねー」


 人影が逃れた、まさにその場所にはルカがいた。

 ルカは、手際よく人影の腕を固めて投げて、地面に叩きつける。

 そして、抑え込んだ。


 溶岩石を俺が落としはじめた時点で、ルカは展開を予想して動いていたのだ。

 まったくもって、頼りになる戦士だ。


「お顔が見えないので、フードとりましょうねー」


 ルカの手がフードに伸びる。

 そのとき。


「KIIIIIIIIiiiiiii!」


 精霊の大きな咆哮が周囲に響いた。

 突如として炎の上位精霊が出現したのだ。

 身の丈が巨大化したモーフィぐらいある大きな巨人だ。


「なんじゃと!」


 ヴィヴィが大きな声を上げる。

 氷の精霊ばかりを相手にしてきたのだ。意表を突かれた。


 炎の上位精霊の周囲に積もっていた雪が一気に溶ける。


「KⅠiiii」

 再度の咆哮と同時に、巨大な火炎弾が降り注ぐ。


 俺はとっさに十四の溶岩石を上位精霊に向けて投げ飛ばす。

 全弾、上位精霊にぶち当たった。


「KIii」


 相手は炎の上位精霊なのだ。高温はダメージにはならない。

 効果があるのは、岩石の打撃力だけだ。

 とはいえ、そもそも精霊に打撃はさほど有効ではない。


 念話と防寒以外の魔法を解除。


「フェム!」

「わふ!」


 フェムは炎の上位精霊に向けて一気に加速する。

 上位精霊の火炎弾は全て氷弾で迎撃した。


 周囲が雪で覆われているのだ。炎魔法は十全の威力を発揮できまい。

 なのに、なぜ炎の精霊を召喚したのだろうか。

 どうせ上位精霊を召喚するなら、氷の上位精霊の方がいいはずだ。


 空中に溶岩石が出現する。その数、七。

 やはり、溶岩石を飛ばしてきていたのは、こいつだったのだろう。


 溶岩石をばらまかれるのは面倒だ。

 俺は放たれた瞬間、溶岩石に重力魔法をかけた。

 七つの燃え盛る岩が宙に浮かぶ。

 それの重力ベクトルの向きを操り、上位精霊にそのまま返す。


 溶岩石を食らって、体勢が一瞬崩れた。


「フェム!」


 名前を呼ぶだけで、フェムは俺の意図をくんでくれる。

 一気に上位精霊との距離をつめる。

 俺は上位精霊の足元を一気に凍らせた。周囲が雪なので効果は高い。

 そのうえで、上位精霊の足元、その重力の向きを変動させる。たちまち転んだ。


「首だ」

「わふ」


 首には上位精霊を操る首輪がはめられている。それさえ外せば問題ない。

 フェムが首の近くへと走ってくれる。


「これでよしっと」

 首輪を外すことは容易い。

 前回の大雪害の時に、何度も外している。


「kii」

 首輪を外された後、暴れるかと思ったが、そんなことはなかった。

 炎の上位精霊は静かに鳴いた。

 頭をぺこりと下げると、霧のように消え去った。


「聞きたいことがあったのだが」

『アル。精霊の言葉がわかるのか?』

「わからないが、精霊王に通訳してもらえばいいからな」

『なるほどなのだ』


 人影を抑えたままの、ルカが声をあげた。


「え、上位精霊、消えちゃったの?」

「そのようだ。吹雪が吹き荒れるこの環境は、炎の精霊にはつらかったんだろう」

「それもそうね。残念」


 そのころにはクルスとユリーナは仕事を済ませていた。

 無事、ジャック・フロストは全員精霊界に帰ったようだった。


「アルラ。上空から見ていたが、特に怪しい人影はなかった。そいつ以外は」


 そういって、上空からティミショアラが降りてくる。

 まだ竜の姿のままだ。


「こいつが精霊召喚の犯人かな! ルカ、フード取って見せて」

「わかったわ」


 ルカは、人影を仰向けにして、フードをとった。

 クルスぐらいの長さの髪と、獣耳と二本の角が目についた。

 どうやら気絶しているようだ。

 炎の精霊が出現したあたりで、ルカが気絶させたのだろう。


「意外と若い女の子ね」

「ステフぐらいに見えるのだわ」


 俺は素早く獣人魔導士を魔法で拘束した。


「ユリーナ。なにかされてないか調べてくれ」

「了解したのだわ」


 魔法で操られていたのならば、診察の専門家であるユリーナはわかる。

 診察をはじめて、すぐにユリーナがこちらをみた。


「アル、ちょっと見て欲しいのだわ」

「どうした?」

「これなのだわ」


 そういって、ユリーナはマフラーの下を指さした。

 精霊を操っていた首輪。それと似たものが首にはめられていた。


「ヴィヴィ」

「なんじゃ?」


 モーフィに乗った状態で、ヴィヴィがやってくる。


「これを見てくれ」

「……よくできた魔法陣じゃな」


 ヴィヴィはモーフィに乗ったまま、一目見てそう言った。

 それからモーフィから降りると、顔を近づけて首輪を観察する。


「精霊のように操るための物か?」

「似て非なるものじゃ。ここを見るがよい。ここが上位精霊の物とは決定的に違うのじゃ」

「確かに……」

「同じに見えるのだわ……」


 俺でも言われなければわからなかった。

 ユリーナも一応魔導士だが、区別はつかないらしい。そのぐらい複雑な魔法陣だ。


 ヴィヴィが説明してくれる。

 操る場合、複雑なことはさせられない。

 精霊王や上位精霊の場合は、次々と精霊を召喚するという命令を受けていた。

 そのほかに受けていた命令は近づくものを攻撃するぐらいのものだ。


「魔法で操作する場合、複雑なことをさせるのは難しいのじゃ」

「なるほど」

「そして、この首輪は催眠状態に陥らせる魔道具といったところじゃな」


 ヴィヴィは真面目な顔でそう言った。

怪しい人影は催眠状態になっていたようです。

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