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290 許可がとれた経緯

前話のあらすじ:クルスたちがめちゃくちゃ早く許可を取ってきた。


10月12日前後に2巻がGAノベルから発売です。

 クルスの鼻息は荒い。きょろきょろしている。

 俺の近くで寝っ転がっていたモーフィも興奮したようだ。


「もっもっも!」

 クルスと一緒に鼻息荒くきょろきょろし始めた。

 クルスもモーフィも、ティミショアラを探しているのだろう。


「まあ、クルス。落ち着くんだ」

「はい」

「モーフィもだぞ」

「もっ」


 モーフィはすかさず俺の右手を咥えた。

 落ち着いてくれるなら俺の右手くらい好きに咥えればいい。


「えっと、クルス。許可がとれたっていうのは、つまりどういうことだ?」


 クルスたちが魔導士ギルドに行ったのは朝だ。そして今は昼前。

 いくらなんでも、ジャック・フロスト討伐の許可がとれたとは考えにくい。


 どこでジャック・フロストが発生しているかは、ルカたちから聞いてある。

 魔導士ギルドを頼ると決まってからは、すんなり教えてくれたのだ。

 クルスが暴走する心配がなくなったからだろう。


 ジャック・フロストはクルス領の隣で発生していた。

 そこは侯爵家の領地である。


「魔導士ギルドの名前を使って、侯爵家と直接交渉する許可がおりたってことか?」

「違います。そうじゃないです」

「まあ、さすがにそれは難しいか」


 直接交渉できるとしても、魔導士ギルドの上級職員が同席することになるのだろう。


「となると……。なんの許可がとれたんだ?」

「侯爵領に入って、ジャック・フロストを討伐する許可です」

「む? 本当に許可がとれたのか?」

「とれましたよー」


 本当にこの短時間で許可がとれるものなのだろうか。

 不安だ。クルスが勘違いしているのではないだろうか。


「ステフ。本当に許可がとれたのか?」

「はい。とれたのです」


 また、きょろきょろし始めたクルスに言う。


「ティミの帰宅予定は昼過ぎだ」

「そうなんですね。残念です」

「ティミが帰ってくるまで、クルスとステフがどう交渉したのか、話を聞かせてくれ」

「わかりました!」

「小屋の中で話を聞こう」


 俺は衛兵小屋へと移動する。

 夏場と違って、冬は村の外に出る村人は、ほとんどいない。

 だから、夏より衛兵業務は暇なのだ。基本、何もすることがない。

 週に一、二度、村の外に出る用事がある村人に付き合うぐらいだ。


「フェムも、小屋の中に行こう」


 フェムは俺のすぐ横で寝っ転がっている。静かに立ち上がって大人しくついてきた。


「もっにゅもっにゅ」

「モーフィも……。まあ、いいか」


 モーフィは俺の手を咥えながら、ついてきた。


 小屋に入って居間に行くと、ヴィヴィが長椅子で寝っ転がっていた。

 牛の世話を終えると、ヴィヴィは小屋で休んでいることが多い。

 冬だから仕方がない。


「お、クルスにステフ。早かったのじゃな」

「うん、そうなんだー」

「モーフィは……。またアルの手を咥えているのじゃな」

「もっ」


 ヴィヴィは俺の手からモーフィを離して抱き寄せる。

 そして、撫でまくった。


「モーフィはいつも可愛いのじゃ」

「もっも!」

 モーフィも嬉しそうで何よりだ。


 俺が座ると、その横にクルスが座る。

 ステフはヴィヴィの隣に座った。フェムは俺の足元に寝っ転がる。


「フェム。床は冷たくないか? 長椅子の上に座ったらいいぞ」

「わふ」


 フェムは俺の太ももをまたぐようにして横たわった。

 俺もあったかいので、助かる。


「りゃありゃ」

 シギショアラが俺の懐から出て、フェムの上に乗る。

 毛に包まれるようにして丸くなった。もふもふが気持ちいいのだろう。


 俺は改めてクルスに尋ねる。


「で、どういう経緯でこの短時間で許可貰えたんだ?」

「え? もらえたのかや?」

「もっ?」


 ヴィヴィは驚く。なぜかモーフィも驚いていた。

 クルスはフェムを撫でながら、語り始める。


「あくまでもステフちゃんが申請するっていう建前なので……」


 クルスはステフの付き添いということで、魔導士ギルドへと赴いた。

 クルスとステフが入った途端、魔導士ギルドは静まりかえったのだという。


「うむうむ。ちゃんと、びびっておるようじゃな」

 ヴィヴィは満足げにうなずいた。


「そして、事務局次長って人が慌てた様子で駆けてきてー」

「事務局長はどうしたんだ?」


 事務局長はステフに最初に倒された魔導士だ。


「なんか、静養しているって聞きましたよ」

「そうなのか」


 馬鹿にしていた獣人に負けたことが、よほど悔しかったのだろう。

 静養と言いつつ、修練しているに違いない。


「で、事務局次長に、侯爵領に発生しているジャック・フロストを研究したいので討伐したいって伝えたんです」

「ほうほう。予定通りだな」


 そこからは仲介してくれるかどうかの交渉が必要だ。

 仲介してくれることになっても、仲介料や交渉方法の相談が必要だ。


 仲介したくないといえば、俺が出張るつもりだった。

 会長は俺を怖がっているらしいので、効果はあるだろう。


「事務局次長は、侯爵家と相談するから、ぼくの屋敷で少し待っていてくれって」

「なるほど。侯爵家の魔導士とお話ししたりする必要があるんだろうな」

「はい。そう思って屋敷で待っていたんですが……。二時間後ぐらいに、自由に討伐して調査してくださいって」


 ヴィヴィが真面目な顔で言う。


「早すぎるのじゃ。魔導士ギルドが嘘ついてるってことはないのかや?」

「ぼくもそう思ったんだけど、侯爵家の筆頭魔導士が侯爵直筆の許可証を持ってきたから」


 そういって、クルスは許可証を机に広げた。

 俺は許可証をしっかり確認した。

 ヴィヴィやフェム、モーフィとシギも真面目な顔で調べていた。


「本物にしか見えないな」

「だから本物ですよー」


 そういって、クルスは胸を張った。

許可証は本物にしか見えないようです。

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