288 面倒な手続き
前話のあらすじ:ジャック・フロストが沸いているそうなので調べたい。
今週の10月12日前後に2巻がGAノベルから発売になります。
クルスは早速外出の準備を開始する。
ミレットはそれを見て驚いた。
「クルスちゃん、今から行くつもりなの?」
「そうだよ?」
「もう夜だから、明日にした方がいいと思うの」
「善は急げって言うし」
クルスは着々と防寒具を身につけていく。
それを見て、モーフィもうずうずし始めた。俺の周りをぐるぐる回る。
一方、フェムは俺の横にすまして立っていた。
だが、ちらちらとこちらを見ている。フェムも出かけるつもりなのだろう。
準備万端をアピールしているのだ。
ルカが呆れたように言う。
「また、クルスはすぐ動こうとするんだから」
「でも、早い方がいいとおもうんだよー」
「それはそうだけど、クルス場所わかってる?」
「わからないけど……。ルカ教えて」
「だめよ。教えたら走ってでも行くでしょう?」
「そりゃそうだよ!」
ルカとユリーナが互いに見つめあう。
ルカはため息をついた。
ユリーナはクルスを抱き寄せて頭を撫でる。
「やっぱり、場所は言わなくてよかったのだわ」
ルカたちは「吹雪いている」とは言ったが、その場所は言っていなかった。
クルスがこうするとわかっていたのだろう。
「えぇー、教えてよー」
「だーめ」
ユリーナが優しくクルスを窘める。
「もっもー」
モーフィもユリーナのそばに寄って、鼻でお腹を突っついていた。
教えろと要求しているのだろう。
「モーフィも、ダメなのだわ」
「どうして教えてくれないの?」
クルスが上目遣いでユリーナを見つめる。
「えっ、えっと……」
ユリーナがどぎまぎし始めた。もう一押しで口を割りそうである。
ルカが言い聞かせるように言う。
「クルス。よく考えなさい。今回はクルス領じゃないの」
「そうなんだ」
「ということは、わかるわよね?」
「許可がいるってこと?」
「そういうこと。いま冒険者ギルドが交渉しているから、少し待ちなさい」
「……わかった」
ジャック・フロスト討伐の依頼を出してもらえればそれが一番だ。
それを引き受ける形にすれば、丸く収まる。
討伐依頼を引き出せなくても、討伐許可を出してもらえればそれでもいい。
調査名目で冒険者ギルドが許可を得られれば、俺たちも乗り込める。
「ルカ。ちなみに、いつ頃までかかりそうなんだ?」
「早ければ明日だけど……」
ルカにしては歯切れが悪い。それが気になった。
「なにか懸念材料があるのか?」
「その領主、冒険者が嫌いなのよ」
「珍しいな」
「そうね」
領主にとって、冒険者は便利な存在だ。
冒険者に頼れば、常に魔物に備える戦力を用意しなくてもよくなる。
それに、討伐途中で冒険者が亡くなっても保証しなくていい。
自前の騎士や兵士ではそうはいかない。
結果的に、冒険者を頼ることで、財政負担がかなり減る。
とても便利な存在だからこそ、どの領主も自領で冒険者が活動するのを許可するのだ。
「うーん。それなら、旅の途中でジャック・フロストに遭遇。撃破したっていう筋書きでいこうよ!」
「ただの冒険者なら、それもありでしょうけど」
「クルス。あなたは伯爵さまなのだわ。そういう筋書きは通用しないのだわ」
伯爵にして、勇者。通りすがりを装うにしては、大物すぎで有名すぎる。
「ユリーナ。教会から討伐しますよって持ちかけてくれれば……」
「出来なくもないのだわ」
信者の保護を名目にすれば、いけるかもしれない。
もしくは近くの教会が困っているということにすればいい。
「じゃあ!」
「でも普段しないことだから、冒険者ギルドより時間がかかるのを覚悟しないとだわ」
教会は冒険者ギルドよりも政治的な存在だ。
領主にとって、教会は政治的なライバルでもある。
教会が雪害を解決したら、領主の顔がつぶれてしまう。
冒険者ギルドから、アプローチしたほうが確実に早いだろう。
「うーん。まどろっこしいなぁ」
「クルス。いざとなれば、我が上空からブレスで焼き払ってやるぞ」
ティミショアラがそんなことを言う。
「ティミちゃんありがとう!」
「うむ。我には人間界の政治的なあれこれなど、何の関係もないからな!」
「りゃっりゃ!」
シギショアラは机の上に仁王立ちし、力強く鳴いていた。
心強い限りである。
いざとなれば、ティミに乗って謎の狼仮面で突っ込めばいいだろう。
古代竜の子爵に文句をつけられる人間はまずいない。
たとえ、それが国王であってもだ。
「クルス。ルカやユリーナが尽力してくれているんだ。今は待とう」
「はい。アルさんがそういうなら」
クルスは納得したようだった。
一方、モーフィはユリーナに体を押し付け続けていた。
◇◇◇◇
とりあえず、その日は待つということに決まった。
だが、二日経っても、許可は下りなかった。
夕食後、みんなが揃っているところでクルスが言う。
「ルカ。どうして許可がおりないの?」
「ジャック・フロストはすぐに消えるって思っているみたいなのよね」
自然発生したジャック・フロストならば、それは正しい。
吹雪は一週間も続かない。
だが、今回は意図して召喚しているのだから、維持する方法も考えられている。
それを素人である領主に説明して理解してもらうのは難しい。
冒険者が嫌いなら尚更だろう。
「うーん。どうしようか……。やっぱりティミちゃんに」
「我ならいつでも構わぬぞ!」
「りゃっ!」
ティミとシギは堂々と胸を張っていた。
「クルス、まあ待て」
「はい」
「そういうことならば、俺に考えがある」
「はい! アルさんにお任せします!」
クルスは目を輝かせてそう言った。
アルさんには良い考えがあるようです。