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279 軍務卿のお話

前話のあらすじ:軍務卿はお話があるようです。


10月12日前後に二巻がGAノベルから発売になります。

 クルスの家に入ると、まっすぐに応接室へと向かう。

 慌てたのはクルス邸のメイドたちだ。

 これまで、来客といえば、特にもてなす必要のないルカやユリーナだけだったのだ。

 それか、ムルグ村からやってくるフェムやモーフィなどである。

 今回のお客さまは軍務卿。政府の要人だ。慌てないわけがない。


「軍務卿とお話しするからお茶をお願いね」

「お気遣いなく」


 そう軍務卿に言われても、準備しないわけにはいかない。

 大急ぎでお茶とお茶菓子の準備を始める。メイドたちは意外と手際が良いようだ。


 そして、ステフとミレットはガチガチに緊張していた。

 要人である軍務卿が、諸侯である勇者伯にお話があるというのだ。

 どんな話があるのかわからない。普通とは違う状況だから余計緊張するのだろう。


「ステフたちは、別の部屋でゆっくりしていていいよ」

 クルスがステフたちに配慮する。


「はい、ありがとうなのです」


 ステフとミレットが別室に移動しようとした。

 それを、軍務卿が制止する。


「ステフどのたちにもかかわりのある話ですから」

「そうなんですか?」

「はい」


 軍務卿にそう言われたら、ステフたちも退室できない。

 緊張しながら長椅子に座る。


 ホストであるクルスが奥に、机を挟んで軍務卿が手前に座った。

 ステフとミレットはクルスの左右に座る。


 ティミショアラとヴィヴィは、応接室の離れた位置にある長椅子に座る。

 興味深そうにこちらを見ていた。

 俺は目立たないように、クルスの後方、応接室の端に立つ。

 シギショアラは俺の懐に、フェムとモーフィは俺の横にいる。

 フェムはお行儀よくお座りし、モーフィは俺の手をさりげなく咥えていた。


 コレットは、姉の隣に座ろうか、ヴィヴィたちの長椅子に座ろうか迷っていた。

 そんなコレットにクルスが言う。


「コレットおいで」

「はーい」


 近寄ったコレットをクルスはひざの上に座らせた。

 そして、その流れでクルスは言う。


「で、軍務卿。お話って何でしょうか?」


 クルスはコレットをひざに乗せることで、これが非公式の場だと表明したのだ。

 軍務卿と、コンラディン伯爵の会談ならば大事だ。

 領主としての国家への貢献などという話になったら断りにくい。

 だからこそ、ただの茶飲み話として聞くと強調したのだろう。


 クルスは、立派な領主となるべく、ずっと勉強しているようだ。隙が無い。


 メイドがお茶を運んできて、退室すると軍務卿が口を開く。

 

「単刀直入に言いましょう。ステフさんを軍務省にスカウトしたい」

「おっと、ぼくの家臣を引き抜くとは……軍務卿もすごいことをいいますねー」


 そう言ってクルスは笑った。

 あくまでも軍務卿の冗談ということにしているのだ。


 その時、横からティミが口を出す。

 クルスが非公式の茶飲み話と表明したので、ティミも口を挟めるのだ。


「今度は軍務省と喧嘩するのか? いいぞ、楽しそうだ。その際は我も手を貸すぞ」


 ティミは笑いながらそう言った。

 あくまで冗談ということにしつつ、牽制してくれているのだ。


「喧嘩など滅相もないこと。気分を害されたのなら謝ります。もちろん断られたら諦める所存です」


 軍務卿はクルスにはやけに低姿勢だ。敵に回したくないのだろう。

 それは政治家として、とても賢い判断だ。


 軍務卿はティミをちらりとみてから、クルスに視線を戻す。

 ティミが一体誰なのか、暗に尋ねているのだ。

 クルスはティミに軍務卿に紹介していいか目で尋ねる。


「かまわぬぞ?」

 ティミは笑顔で言った。


「軍務卿、彼女はティミショアラ子爵閣下です。古代竜エンシェント・ドラゴンの大公の叔母にして摂政なんです」

「こ、これは、ご挨拶が遅れました」


 軍務卿は立ち上がりティミに近づき深々と頭を下げた。


「気にせずともよい。大公家の摂政として参ったわけではないからな。今はあくまでもクルスの友人としてここにおるのだ」

 そういって、ティミは笑った。


 クルスはそのやり取りを気にする様子もなく、ステフを見た。


「ステフちゃんはどうしたいの?」

「私は、軍務省で働くつもりはないのです」

「そっかー。軍務卿、そういうことみたいです」

「そうですか。残念です」


 それから軍務卿はミレットを見る。


「そちらのエルフのお嬢様も、有能な魔導士とお見受けしました」

「いえ、私は魔法を勉強し始めたばかりのただの田舎娘ですから」

「ご謙遜を。もし軍務省に来ていただけるのなら、月にこれだけ出しましょう」


 そういって、軍務卿は高額な報酬を提示した。

 王都で働く一人前の鍛冶職人。その月収の十倍程度の金額だ。

 魔導士は元々収入が高い。その魔導士への報酬としてもかなり高額といっていい。


「いえ、私は軍属になるつもりはありません」

「そうでしたか。残念です。気が変わりましたら、いつでもおっしゃってください」


 そういうと、軍務卿は俺の方を見た。


「アルラさんも、よかったらどうですか」

「いえ、私は一線を退いた身ですから」

「アルラさんになら、魔導騎士団の団長の地位をご用意できますよ」


 軍務卿は笑う。俺も笑い返しておいた。

 魔導騎士団の団長は、魔王討伐後、軍務卿が俺に就任を打診した役職だ。

 これは正体がばれていると考えたほうがいいのかもしれない。


 軍務卿はクルスに向けて言う。


「今日はバルテル男爵が大変失礼いたしました」

「いえ、気にしてないですよ。それにしても男爵は魔導士ギルドの中では群を抜いていましたね」

「魔導騎士団を率いて欲しい人物は別にいるのですが、現状では彼が最適と言わざるを得ないのです」

「大変ですねー」

「本当に……」


 いつ、俺の正体に言及されるかと、ずっとびくびくしていた。

 だが、軍務卿が追及してくることはなかった。

 ステフたちを、しつこく勧誘するつもりもないらしい。


 クルスと友好関係を築きたいというのが、真の目的だったのかもしれない。

 軍務卿は何度も、クルスの王国への貢献をたたえて、帰っていった。


 軍務卿が去った後、クルスが言う。


「なにしにきたんですかねー?」

「さあな」


 明らかに俺に気づいているにもかかわらず、軍務卿は深く追求しなかった。

 とりあえず、貸しをつくっておこうということだろうか。

 何か言われるより怖いかもしれない。


 それから俺たちはムルグ村に戻ることにした。

 転移魔法陣部屋に向かって歩いていると、メイドさんが駆けてくる。


「クルスさま、魔導士ギルドの使者という方がいらっしゃいました」

「え? どうしたんだろう?」


 使者と会ってから帰ることにした。

さっき帰って来たばかりなのに、魔導士ギルドから使者がやってきました。

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