266 ティミショアラ対魔王
前話のあらすじ:獣たちも強かった。
10月15日に二巻がGAノベルから発売になります。
ティミショアラと試合するとなると、俺も手は抜けない。
「シギ。ちゃんとティミと俺の試合を見ておくんだぞ」
「りゃっりゃっ!」
シギショアラは目を輝かせていた。
そんなシギの頭をティミは撫でる。
「叔母さん頑張るからなー」
「りゃあ」
「お、そうだ。アルラの弟子たちにも見せたほうが良いな。少し待つがよい」
そういって、ティミは駆けていく。そして、古代竜の男爵コヴァスを連れてきた。
「コヴァス男爵。我とアルフレッドラ閣下が試合を行う」
「アルフレッドラ閣下とですか?」
「そうだが」
「失礼を承知で申し上げます。あくまでもアルフレッドラ閣下は人間でございます。果たして……」
コヴァスは遠慮がちにこちらを見てくる。
いくらなんでも古代竜の大公の係累である子爵と、人間が勝負になるわけがない。
そう思っているのだろう。
「ふむ。コヴァス男爵。そなたの気持ちはわかる」
「はい、アルフレッドラ閣下の身に何かあれば、大公殿下にも申し訳ないことではありませんか?」
思いとどまるようにティミを説得しているようだ。
「口で言っても納得は出来まい。見ているがよい」
「ですが……」
その時、新たに五人の女性たちが部屋に入ってきた。
全員、普通の女性に見える。だが体内の魔力がすさまじい。
全員が古代竜の貴族なのだろう。
全員が、ティミの前に来てひざまずく。
「ティミショアラ子爵閣下。何があったのかは存じませぬが、お考え直しを」
「ふむ。まあよい。もし危険だと思えば止めるがよい」
「そうはおっしゃいましても……」
「古代竜の貴族が六人もいるのだ。いくらでも止めれるであろう」
ティミがそういうと、古代竜たちは互いに顔を見合わせる。
「で、そなたたちを呼んだ本題だが、戦いの余波から、ほかの者たちを守ってくれぬか?」
「それは、もちろん構いませぬが……」
「アルフレッドラの弟子たちは、アルフレッドラほど強くないのでな」
それからティミは俺の方に来る。
「貴族どもが無礼ですまぬな。アルラほど強い人族に会ったことがないのだ」
「気にしてないさ」
「うむ。そう言ってくれると助かる。では始めようか」
ティミは古代竜の姿に戻る。それから古代竜の貴族たちに向けて言う。
「そなたたちも竜の姿に戻るがよい」
「わかりました」
コヴァスを含めて六人が、一斉に古代竜の姿に戻った。
「ひぃ」
ステフは怯えていた。
「安心するがよい。危害を加えようとしているわけではないのじゃ」
そういっているヴィヴィも少し震え気味だ。
「壮観ですね。ルカちゃんが見たら喜びそう」
「すっごーい」
「もっも!」
エルフの姉妹と、モーフィは嬉しそうだ。モーフィなどコヴァスの足にまとわりついている。
一方フェムはお座りの体勢で、固まっていた。
本能的に怯えてしまうのだろう。
それでも震えず、尻尾も股に挟まないのはさすがと言える。
「では行くぞ」
「おう」
俺がそう返事をすると同時に、魔力の奔流に襲われる。魔力ブレスだ。
魔法障壁を展開し、ブレスをしのぎ切る。
俺はひざが痛いが、魔法を使って瞬間的に加速することは出来る。
だが、足を使った高速機動でかわし続けるのはさすがに分が悪い。
それゆえ、固定砲台になることにした。
魔法の矢。魔法の槍。重力魔法。火炎魔法に、氷結魔法。
俺は多種多様な魔法を使って、ティミを攻撃していく。
ティミも多種多様な魔法で反撃してくれる。
シギの教育のためだろう。
「りゃりゃ!」
シギは俺の懐から顔だけ出して、鳴きながら羽をバタバタさせる。
喜んでいるようで何よりだ。
俺とティミは、しばらく魔法を撃ち合った。
「……Ryaaaaaa」
見学している古代竜の貴族たちが驚いているのか、唸っている。
「楽しいなぁ、アルラよ!」
「そうだな」
「ふふふ」
ティミは俺の返事が嬉しかったのか、嬉しそうに笑う。
笑いながら、重力魔法をぶちかましてくるので、まったく油断できない。
火炎弾を撃ち込みながら、俺はシギに語り掛ける。
「シギ。いろんな魔法を使えるのは武器になるんだ」
「りゃあ」
「手段が色々あれば、なにが来るのか相手に読まれにくくなる」
「りゃっ」
「だがな。一番対処しにくいのは、一番単純な攻撃でもある」
「りゃあ?」
「つまりこういうことだ」
俺は全力の魔力弾を撃ち込んだ。
「ぬおおおお」
ティミの攻撃が止まる。防御に専念しなければ、魔力弾を防げなかったのだ。
ティミの障壁により、俺の魔力弾は防がれ拡散しながら逸れていく。
そのまま壁と天井にぶち当たった。そして壁と天井が砕けた。
「……Rya」
古代竜の貴族のつぶやきが聞こえる。
宮殿は古代竜の力に耐えられるようになっている。
人族の攻撃で壊れることなど想像すらしていなかったのだろう。
「なにぃ!」
ティミも驚いている。
砕けた天井が崩落する。がれきの一つ一つが、とても大きい。
そのがれきに、俺は渾身の重力魔法をかけた。
がれきは急激に加速し、ティミへと降り注ぐ。
ティミは魔法への対策ばかり考えていたのだろう。
だから、物理攻撃への対処が遅れた。
「うおおおおおおおお」
ティミは降ってきたがれきの直撃を食らう。
重力魔法で重さが数百倍にもなったがれきである。
さすがのティミもがれきに押しつぶされて、床に体を押し付けられた。
そうなっても、俺は重力魔法を緩めない。
その上から、さらに魔法障壁で押さえつけた。
「まだだ!」
ティミが対抗して重力魔法と魔法障壁を同時に発動する。
「なにっ!」
一瞬がれきが浮かびあがった。尋常ではない魔力である。
ティミの尻尾が一瞬自由になった。薙ぎ払われる。
――ガガガギン
防御のために五枚張った魔法障壁を、尻尾は四枚破って止まった。
危ないところだ。
すかさず、俺は重力魔法と魔法障壁を追加する。
「ぬうおおおおお」
それでも、ティミは重力魔法から逃れようともがくが、叶わなかった。
「……降参である」
「ティミ。お疲れさま」
そう言って俺は魔法を解除した。
「りゃっりゃっ!」
シギはとても嬉しそうに鳴いた。
ティミは強かったようです。