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253 魔王の弟子たち

前話のあらすじ:よく眠った。


GAノベルから2巻が10月に発売になります。よろしくお願いいたします!

 食堂でミレットの入れてくれたお茶を飲む。

 隣に座ったコレットがいう。


「おっしゃん、ジャック・フロスト倒したの?」

「倒したぞ」

「つおいの?」

「そこそこかな」

「そこそこ……」

 コレットが真剣な表情になった。


「おっしゃん! コレットなら倒せると思う?」

「……うーん。まだ難しいかな」

「なるほどー。おっしゃんはどうやって倒したの?」


 俺はコレットにジャック・フロストの倒し方を教える。

 攻撃方法は魔力弾という、小細工しようのないものだ。

 だから、それ以外のことを中心に教えた。


 体温を奪われない方法などだ。

 体を空気の膜で覆って、断熱効果や視界の確保を期待するとかである。


「昨晩みたいに夜の場合は、暗視の魔法も使っておきたいな」

「なるほどー!」

「師匠さすがなのです!」


 コレットはふんふんと聞いている。

 コレットの隣には、いつの間にかステフも来ていた。


 ミレットも真面目な顔で言う。

「複数の魔法を同時に使うのって難しいから……」

「そうだな。慣れが必要だぞ」

「慣れじゃと? そんなわけないのじゃ!」


 ヴィヴィが食堂に入ってきた。

 モコモコのコートにマフラー。暖かそうな帽子を被っていた。

 そんなヴィヴィにミレットが優しく声をかける。


「ヴィヴィちゃん。お疲れ様です」

「うむ。牛たちは元気だったぞ」


 除雪の後、さらに牛の世話をしていたようだ。

 働き者だと思う。

 村に来た当初はさぼろうとしてばかりだったのに、人は変わるものだ。


「ヴィヴィ、お疲れ」

「もっもー」

 モーフィも嬉しそうにヴィヴィに体をこすりつけに行った。


「モーフィはいい子じゃな!」

 ヴィヴィは嬉しそうにモーフィを撫でる。

 そうしながらいう。


「良いか。アルの弟子たちよ」

「はい!」


 ミレットとコレットはきょとんとしていた。

 だが、ステフは嬉しそうに返事をする。弟子と呼ばれて嬉しそうだ。


「普通は魔法の多重展開などできないものじゃ」

「そうなの?」

「ミレットまで、そんなことを……。当たり前じゃ! おぬしら魔導士の常識を知らぬのじゃ!」

「そうだったかー」

「もっもー」

 コレットとモーフィが感心したようにヴィヴィを見ている。


 そんな中、ステフが言う。

「あ、あたしは知っていたのです……」

「ふむ。ステフは常識を知っておるのじゃ。まともな魔導士じゃ」


 ヴィヴィは、満足げにうんうんと頷いている。

 そんなヴィヴィのコートをミレットが脱がせてハンガーにかけてあげている。


「ありがとうなのじゃ」

「いえいえ」

「してんのーも、多重展開できないのー?」

「む? コレット。わらわは出来るのじゃぞ」

「すごい!」

「コレット。おぬし四天王を舐めておるな? 多重展開などお手のものじゃ」


 ヴィヴィがどや顔で言った。

 仮にも魔王軍四天王の五人目なのだ。世界最高クラスの魔導士であることは間違いない。

 ヴィヴィのコートをかけてあげた後、ミレットは台所の方へと向かった。

 ヴィヴィにお茶でも用意するのだろうか。気の利く少女だ。


 そのとき、ステフがおずおずと手をあげた。


「あの。質問いいですか?」

「なんじゃ。アルの弟子三号」

「してんのーって何ですか?」

「むむ。ああ、言い忘れていたのじゃ。わらわは昔魔王軍の四天王をしていたのじゃぞ」

「…………」

 ステフは何を言っているんだろうこの人といった顔でヴィヴィを見た。

 そして、冗談だと判断したのだろう。


「……ははは。面白いのです」

「ほんとじゃぞ!」

「すごいのですー」

 全然信用していない感じだ。

 だから、俺はステフに言う。


「ちなみに本当だぞ」

「えっ? そうなのです?」

「うん」

「…………」

 ステフは言葉を失っていた。


「もにゅもにゅ」

 そんなステフの手を、モーフィが咥える。もにゅもにゅしはじめた。

 久しぶりに、モーフィのもにゅもにゅを見た気がする。

 モーフィは人が呆然とすると、咥える傾向があるように思う。

 落ち着けと言っているのだろうか。


 呆然としているステフの横では、コレットが右手で魔法灯を使っていた。


「おっしゃん、魔法のれんしゅうだよ!」

「たしかに魔法灯なら、室内でも火事にもならないし安心だな」

「えへへ」


 その時、台所に行っていたミレットが戻ってくる。

 やはり、ヴィヴィのためにお茶を運んできたようだ。

 そのうえ、おやつにパンケーキも持ってきてくれている。

 昼ごはんの残りだったのか、少し冷めていそうなパンケーキだ。

 俺たちが起きてくるかもと思って用意していたのかもしれない。悪いことをした。


「あ、コレットがやるー」

「じゃあお願い」


 コレットは右手で魔法灯を維持したまま、左手の指で小さな火球を出した。

 それで、うまいことパンケーキを温めはじめた。


「コレット、上手になったね」

「えへへー」


 姉に褒められて、コレットは嬉しそうにはにかんだ。

 そんなコレットに向けて、ヴィヴィが言う。


「えへへへーじゃないのじゃ!」

「どしたの? してんのー」

「なにしれっと、多重展開しておるのじゃ!」

「えっ?」

 コレットは驚いていた。


「ちがうよー。魔法灯はくんれんだから。それにふたつとも簡単な魔法だから」

「簡単な魔法でも、同時展開すれば、それは多重展開じゃ!」

「そ、そうだったんだ」

「私は……これが多重展開だと知っていましたけど……」

「おねーちゃん、しってたの?」

「うん」


 先程、ミレットは「複数の魔法を同時に使うのって難しい」と言っていた。

 あれは実際に使っての感想だったのだ。


「いつも練習していて、簡単な魔法しか同時に使えないから……」


 ミレットはそんなことを言う。

 師の知らないうちに、ミレットとコレットは著しく成長していたようだ。

次の話で七章はいったん終わりです!

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