241 竜の雪像
前話のあらすじ:竜の雪像みたいなのがあった。
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それは、まるで古代竜の雪像のようにも見えた。
俺は注意深く観察する。吹雪が激しく、とても見づらい。
「あれって……。雪の像だよな?」
精巧すぎて、まるで生きているようだ。
「りゃあ」
シギショアラが俺の懐から顔を出して鳴いた。
「そんな馬鹿な」
ティミショアラがうめくようにつぶやいた。
場所は西部山脈。それもちょうど、シギの母、ジルニドラが崩御した場所である。
無関係とは思えない。
「もし、姉上の姿を、いたずらに真似しているだけならば、許すことは出来ぬ」
「そうだな」
「りゃあ?」
シギはよくわかっていなさそうだ。
俺はシギの頭を優しく撫でた。
ティミは雪像の上空を、ゆっくりと回る。
「強力な精霊力を感じるな」
「そうだな。発生源に間違いなかろう」
「問題は、雪像を壊せば、発生が終わるのかどうかだ」
「うむ。とりあえず壊してから考えればよいであろう」
「ちょっと、待って」
ルカが雪像を見ながら言う。
「どうしたのだ? ルカよ」
「あれはただの雪像ではなさそうよ?」
「それはそうであろう。強大なる精霊力を感じる故な」
「もうすこし、観察させて」
「やむを得ぬ。もう少し上空を回ろう」
「ティミ、ありがとう」
ティミはゆっくりと上空を旋回する。
ルカは真剣な表情で雪像を観察している。
クルスも、ルカの隣で観察を始めていた。
「大きいねー。ティミちゃんより大きいかも?」
「まさに、姉上と同じくらいの大きさである。我よりも大きいのは当然であろう」
「そうなんだねー」
ジルニドラとの戦闘に参加したのは、俺とヴィヴィ、フェムとモーフィだ。
クルスやルカは、ジルニドラに会ったことがない。
しばらく観察していたルカが言う。
「表面は雪だけど、中身は精霊石の塊ね。大昔の文献で読んだことがあるわ」
「精霊石の塊?」
「魔石ってのがあるでしょう?」
「そろそろムルグ村の特産品になりそうなあれだな」
ヴィヴィが魔法陣を描いて、土中の魔鉱石を魔石に変換している最中だ。
魔石は魔力の結晶だ。魔石を利用して魔法発動時に、魔導士の魔力を補うことも出来る。
「魔石の精霊力バージョンみたいな感じかしら」
「なるほどな」
精霊石など俺も見たことがない。
高価ながらも、市場に流通している魔石よりはるかに珍しいようだ。
「それは理解したのだが……なぜ、精霊石が姉上の姿をしておるのだ?」
「ここって、大公殿下が崩御された場所なのよね?」
「そうだ。俺が倒して、遺体を焼いた」
ゾンビになりかけていたジルニドラに頼まれて、俺がとどめをさしたのだ。
まだ、シギが卵から孵る前のことである。
「古代竜はもっとも神に近いとも言われる種族よ。その大公。崩御した後もその魔力の残滓は残ったでしょうね」
「それは、当然そうなるだろうが……」
遺体は万一にもアンデッドにされないよう、念入りに焼却した。
だが、周囲に発散した魔力に関しては何もしていない。
というよりも、俺には何もできることがないといった方がいいだろう。
「精霊は滞留して不活性化した魔力を好むのよ。というか、精霊力というのは不活性化した魔力のことともいわれているわ」
「それは俺も聞いたことがあるかもしれない」
「古代の文献には魔王の死後、その残滓を利用して精霊を召喚した魔導士がいたという記述があったわ」
「そんなことがあるのか」
「本当に珍しい事件だから……。マイナーな文献にまれに乗っている程度。思い出すのに時間がかかったわ」
ルカは少し反省しているように見える。
だが、そんな珍しい文献を読んでいることがすごい。
しかも、少し時間はかかっても、思い出せるのはさらにすごい。
「ルカ。本当に助かる。ありがとう」
「ルカはやっぱりすごいねー」
「りゃあ!」
みんなに褒められて、ルカは少し照れ臭そうだ。
「褒めても何も出ないわよ」
「古代竜の我ですら知らぬことだ。誇っても良いであろう」
ティミもほめていた。
その後、クルスが尋ねる。
「ルカ。精霊石って、殴ったらまずい?」
「下手に剣なんかで殴ったら、一気に精霊力が散らばって、ジャック・フロストが大量に誕生しかねないわ」
「じゃあ、どうしたらいいのかな?」
「魔力ブレスをぶつけてみようか?」
ティミの言葉にも、ルカは首を振る。
「魔力ブレスなら、確かに霧散させることはできるでしょうけど……あれだけ大きいとなると……」
「アルラと我で力を合わせればいけるのではないか?」
「いけるかもしれないけど……あそこまで巨大な精霊石よ? 難しくないかしら?」
精霊力は不活性化した魔力。
だから、精霊には活性化した魔力である魔力弾をぶつけることで退治できる。
精霊力の結晶である精霊石にも、大きな魔力弾をぶつければ中和できるだろう。
だが、今回対処しなければならないのは、古代竜ほど大きな精霊石だ。
ルカが不安そうにこっちを見る。
「アル。出来そう?」
「アルさん。ティミちゃん。お願いします。このままだと、村の人たちがたくさん死んでしまいます」
クルスにも頭を下げられた。
「……やってみよう」
「任せるがよい。我とアルラならできるであろう」
俺とティミがそういうと、クルスはほっとしたようだった。
巨大精霊石の破壊にチャレンジです。