表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

236/455

235 吹雪の正体

前話のあらすじ:ティミが何かを知っていそうだった。


GAノベルから1巻が絶賛発売中です!

 昼食を食べ終えた後、ティミショアラはシギショアラを胸に抱いて頭を撫でる。

 そしてお茶をゆっくり飲み始めた。


「りゃ」

「む? シギショアラもお茶を飲みたいのか?」

「りゃあ」

「そうかそうか」


 その様子を皆で見ていた。

 一緒に昼食を食べたのは、ティミたちの他には俺、ステフ、クルスにヴィヴィ。

 それにミレットとコレット姉妹に、モーフィとフェムにチェルノボクだ。

 ヴァリミエはリンドバルの森に、ユリーナとルカは王都に戻っている。


 俺はシギにお茶を飲ませているティミに尋ねる。


「さっき、この吹雪は自然のものではないと言っていたけど……どういう意味なんだ?」

「ああ、そのことか。なぜかわからぬが、この周囲にジャック・フロストが発生しておる」


 ジャック・フロストはAランクの魔獣相当の強さを持つ。討伐は非常に難しい。

 しかも魔獣ではなく、正確には精霊だ。

 自然の化身と言っていい。本来、討伐するようなものですらない。


 野外でジャック・フロストに遭遇して凍死させられたら、それは不幸な事故だ。

 ジャック・フロストによって大雪が降ってもそれは天災だ。


「ジャック・フロストなのですか……厄介なのです」

 ステフがつぶやく。


「ジャック・フロストっていうのが原因なら、討伐すればいいですね!」


 一方、クルスは非常に楽天的だ。

 俺はそんなクルスに説明する。


「ジャック・フロストは精霊だぞ。討伐するようなものではない」

「そうなんですか?」

「精霊は自然の化身みたいなものだからな」

「ふむー。難しいですねー」


 クルスは真面目な顔で考え始めた。

 そんなクルスに俺は説明する。


「ジャック・フロストによる災害は普通耐え忍ぶものだ。家に引きこもって吹雪が去るのを待つのが基本だな」

「外に出たらまずいですか?」

「ジャック・フロストに遭遇したら凍死させられかねない」


 腕に覚えのある冒険者でも、ジャック・フロストは怖い。

 ジャック・フロストの精霊魔法には容易に対抗できるものではないのだ。

 何しろ一帯の天候を操るほどの能力だ。一人の人間を凍らせることぐらい造作もない。


 屋外でジャック・フロストに遭遇した不幸な冒険者はなすすべなく死ぬことになる。

 体温を奪われ、思考力を失い、そのまま凍り付いてしまうのだ。


 先程、フェムとチェルノボクが凍死した魔猪を発見した。

 あれはジャック・フロストに遭遇した不幸な魔猪だったのだろう。


 村人などが遭遇すればそれこそ凍死は免れない。

 ジャック・フロストは冬の間、行商人が最も恐れるものの一つである。


「討伐は難しいが、ジャック・フロストは魔力というか精霊力を使い切ったら、消滅する。そうなれば吹雪も当然収まる」

「普通はどのくらいでおさまるんですか?」

「範囲と激しさによるんだがな。一晩程度が一般的だろうな」

「ということは、もうすぐ吹雪は終わるってことですね!」


 やっぱりクルスは楽天的だった。


「だが、吹雪に襲われている範囲が尋常じゃなく広い。普通のジャック・フロスト災害とも思えないのだが……」


 今回の吹雪は範囲が広いうえに激しい。

 一般的に範囲が広いほど、吹雪は激しくなくなる。

 そして吹雪が激しいほど、吹雪く時間は短くなる。

 精霊ジャック・フロストとはいえ、精霊力は有限なのだ。


 ティミがシギの頭を撫でながら言う。


「さすがはアルラであるな。常とは違うと我も思う」

「どこが違うのじゃ?」

 いままで黙って考えていたヴィヴィが真剣な顔で尋ねた。


「上空から見た限りなのだが、暴れているジャック・フロストは一体ではないように思うのだ」

「ティミには何体ぐらいいるように見えた?」

「わからぬ。ただ、十体や二十体程度ではなかろうと思う」

「そんなにか」

「うむ。百や二百、いやもっといたとしても驚きはしないぞ」

「なんじゃと……」

 ヴィヴィは唖然としている。


「え、そんな大量のジャック・フロストって、一体どうなってしまうのです?」

 ステフは混乱しているようだった。 


「そんなに沢山いるなら、討伐して回った方がいいかもしれませんね、アルさんどう思いますか?」

「それも一つの手ではあるが……」

「なにか気になることでも?」

「いや、こんなに大量に発生するなんておかしいだろ」

「異常気象ってやつなのでは?」

「それにしても限度がある」

「なるほどー」


 ティミも真面目な顔で言う。


「我もなぜ急にジャック・フロストが大量発生したのか気になって仕方ないのだ」

「ルカが帰ってきたら、相談して対策を考えようか」

「そうですね。それがいいかもです」


 ルカは魔獣学者だ。精霊は少し専門とは違うが、普通の人よりはずっと詳しい。

 クルスは椅子からゆっくり立ち上がった。


「さて、ぼくは領主の館に行ってきますね」

「手伝うことはあるか?」

「行ってみないことには何ともです」

「じゃあ、ついて行こう」

「ありがとうございます!」


 俺も外出の準備をしながら、フェムに声をかける。


「魔猪ですら凍死するレベルだ。魔狼たちにも外出を控えるように伝えたほうがいいぞ」

『わかったのだ』

 ジャック・フロストは、通常、屋内には侵入してこないのだ。


 それから、俺とクルスは転移魔法陣を通って、領主の館に向かうことにした。

領主の館も気になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ