表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/455

22

いつもありがとうございます。そろそろムルグ村に帰ります。


感想でご指摘が多かった三日滞在を短縮しました。

 宿は少し高めのところにした。

 部屋の中にフェムと一緒に泊まれる宿屋が高いところだけだったのだ。


「はい、お部屋はここです」

「えっと……ミレットさん?」

「どうしました?」


 その部屋には、少し大きめのベッドが二台だけ並んでいた。両方ダブルベッド未満の大きさだ。

 チェックイン関係の手続きは張り切るミレットにお任せしたのだが、結果がこれである。


「ベッド二台しかないんだけども」 

「そうですけど?」

「あの、なんというか……」


 男女混合で一部屋というのも少し問題だ。

 その上、ベッドの数が足りないというのも問題である。


「一人一部屋だと高くなりますよ」

「俺はおっさんだし。年頃の女の子もいるし。部屋分けるとか」

「うーん? でも、いつもヴィヴィちゃんと同じ部屋で寝てるんですよね?」

「それはそうだけど」


 反論できない。

 そんななか、フェムは何事もなかったかのようにベッドの上にのる。


「いつも、わらわはアルと一緒に寝てるのじゃぞ?」

「え?」


 ヴィヴィがどや顔で胸を張り、ミレットがこちらを睨んでくる。


「アルさん、本当ですか?」

「ほんとだけど。ベッド一台しかないし」

「だからといって同じベッドに二人でなんて」

「フェムもいるぞ」

「フェムちゃんは犬でしょ!」

『狼』


 そんなことを言っている間に、フェムがいないほうのベッドに、ヴィヴィが腰掛ける。


「いつも通り、わらわとアルが同じベッドで寝ればいいのじゃな? フェムはミレットたちと寝ればよいのじゃ」

「わふ」


 フェムがヴィヴィの座っているベッドに移動した。


「こ、来なくていいのじゃ」

「わふ」

「ひい」


 フェムがヴィヴィの顔を舐めた。

 うろたえるヴィヴィの腕をミレットがつかむ。


「ヴィヴィちゃんはこっち! 私と一緒に寝るの」

「コレットもいるのなら、狭いじゃろ……」


 二人がもめはじめた。


「えっと、俺は床でも大丈夫だぞ?」


 俺は長年冒険者をやっていた。まともな寝床で眠れたことの方が少ないぐらいだ。

 岩は痛い。特に出っ張りがあったりすると痛い。

 土は冷たい。体の熱を持っていかれる。

 そのことを考えれば、木の床は相当ましな寝床といえる。


「アルさんだけ、床に寝かせるわけにはいかないです」

「そうはいってもな」


 その時、コレットが無邪気に叫ぶ。


「コレットがおっしゃんと寝るー」

「まあ、それが妥当か……」


 ヴィヴィとミレットはまだ何か言いたそうにしていた。

 だが、結果として俺とフェムとコレットが同じベッドに寝ることになった。



――――――――――――


 その夜。ベッドに入ったコレットはフェムに抱きついた。フェムの毛皮が気に入ったようだ。


「フェムはもふもふだね」

「わふう」


 フェムも大人しく抱きつかれている。満更でもなさそうだ。


「もっとそっちに行くのじゃ」

「ヴィヴィちゃん、すでに半分以上占領しているよ」

「下等生物がわらわと同じ面積を占めようなど、おこがましいのじゃ」


 向こうのベッドでは何かもめていた。

 俺は無視して寝る。


 真夜中。寝静まったころ。


 ――ドサ


 俺のベッドにもう一人加わった。

 ミレットだった。


「えっと……」

「ふみゃ」


 ミレットは寝ぼけているようだ。

 トイレにでも起きて、寝ぼけてコレットのいるベッドに来たのかもしれない。

 ミレットの可愛らしいエルフ耳がぴくぴく動く。

 フェムは一度、片目を開けてミレットを見ると、すぐにまた寝た。


「アルさん……」


 ぎゅっと抱き着いてくる。ミレットの大きな胸が押し付けられた。

 困る。


「ミレット? ミレット」

 ゆするが起きない。

「困った……」


 俺はベッドから抜け出そうかと思ったが、ぎゅっと抱き着いているのでそれも難しい。


「ま、いっか」


 俺は深く考えるのをやめて、眠りについた。



「おおおおい! なにをやっているのじゃ!」

 朝。ヴィヴィが叫んだ。


「なんか広いと思ったのじゃ! 夜這いをかけるとは、なんという破廉恥はれんちエルフ!」

「わっ! 気付かなかった」

「嘘じゃろ!」

「嘘じゃないですー」


 どことなくミレットのセリフはどこかとぼけた感じだ。

 ヴィヴィもそう思ったのだろう。


「白々しいのじゃ!」

「アルさん、まだ眠いですね」


 ミレットが、さりげなく俺に身を寄せてくる。


「むきぃいいい」


 怒った様子でヴィヴィがミレットをベッドから無理やり起こした。


「まだ、眠いのにー」

「油断も隙も無いのじゃ!」


 二人が騒いでいると、

「おっしゃん、ねむいー」

 コレットがぎゅっと抱き着いてきた。


「もう仕方ないな。まだ寝てていいよ」

「うみゅ」


 そんな様子を見ながら、フェムはあくびをした。



――――――――


 朝食を食べた後、宿屋を出ると、買い出しに向かう。

 肉を売ったお金で、村で必要なものを買うのだ。


「買い出しは私に任せてください!」

「任せた」


 ミレットは張り切っている。

 村長から預かった買い出し表があるようだ。


 結構大きなものなどもあるが、全部魔法の鞄に放り込む。

 特大の魔法の鞄なので、大抵のものは入るのだ。


 俺たちが気楽に買い食いしているなか、ミレットは一生懸命交渉して回っていた。


 単価当たりわずかの値切りでも、全体としてはかなりの額になる。

 だからこそ、ミレットは張り切っているのだろう。


 おいしいものをたくさん食べられたので、フェムもヴィヴィもコレットもご機嫌だ。

 ミレットも交渉を終えるたび、おいしいものをたくさん食べていた。


 そして俺たちは意気揚々と、ムルグ村へと引き上げるのだった。

ブックマーク評価、感想等、いつもありがとうございます。

おかげさまで月間総合5位になりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] フェムの犬扱いのくだりに笑わせてもらいました。 買い出しでしっかり値切っているのが一般的な村人らしくていいですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ