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209 臨時補佐に下される処分

前話のあらすじ:クルスは臨時補佐を解任しないらしい。


※ついに発売から一週間が経過しました。第一巻好評発売中です。

重版も無事決まりました。ありがとうございます。

 クルスの言葉をうけて、ティミショアラは不服そうに首を傾げた。

 だがティミは文句は言わない。

 領主はクルスだから、決定は尊重するつもりなのだ。


 だが、官僚が冷静に言う。


「伯爵閣下。恐れながら申し上げます」

「どうぞ。何でも言ってください」


 クルスは笑顔で促した。


「臨時補佐どのは伯爵閣下に無礼を働いたのです。昨日は暴力をふるったと聞いております。ならば牢獄に落とされても致し方ないかと」

「く……」


 官僚の淡々とした物言いに、臨時補佐は言葉を喪った。

 さらに官僚は続ける。


「処罰が軽すぎても、問題かと思われます。秩序の維持が困難になります」

「ありがとう」


 クルスは官僚に向かってお礼を言う。


「さて……」

 クルスが、臨時補佐に再度向き合う。


 その時、臨時補佐のお付きである中年が前に出た。

 クルスから臨時補佐に処罰が下ると思ったのだろう。


「伯爵閣下とは知らず、まことに無礼なことをいたしました」

「別に、伯爵相手にやったから、まずいってわけじゃないよ?」


 臨時補佐はクルスに殴り掛かった。それは伯爵相手じゃなくてもよくないことだ。


「はい、それはもう。理解しております」

「理解しているとは思えんがな」

「り゛ゃ!」


 ティミがぼそりという。シギショアラも鳴いた。

 古代竜たちの怒りは相当なものだ。


「罪状はクルスに殴り掛かったことだけでないぞ」


 そういってティミはユリーナをちらりと見た。

 ティミの視線に気づいたのだろう。

 中年が大きな声を出した。


「結婚する前に遊ぼうというのは悪いことでしょうか」

「ダメだろ」


 俺はクルスに任せて何も言うまいと考えていた。

 だが、思わずつい口に出してしまった。

 中年が俺を見る。


「ですが……、あなたも男性なのだからわかるでしょう?」


 一緒にしないで欲しい。不快である。

 しかも臨時補佐がやったのは遊ぶというレベルではない。


 臨時補佐も弁解を始めた。


「ただ、私は出来心で……。良くないことをしてしまいました」

「出来心で済むわけないだろ」

「ただ、私は子供ができれば、きちんと養育するつもりでおりました。これまでもそうして来ております!」


 そんなことを少しどや顔で言う。


「よくもまあ、そんなことを私の前で言えたものだわ!」


 ユリーナが呆れながら言った。

 ちなみにユリーナは俺と腕をしっかりと組んでいる。


 今まで黙っていたユリーナが口を開いたことで、中年はきょとんとした。

 だが、臨時補佐は一瞬固まり、そしてユリーナであることに気が付いた。


「あ、あなたは……」

「ここまで馬鹿にされるとは思いませんでしたわ」

「い、いえ、これは違うのです」


 臨時補佐はユリーナの手に縋り付こうとしたが、払われる。


「婚約とかなかったことにしてもらいますね」

「それだけは……」


 まだユリーナに対してそんなことを言う。

 余程ユリーナとの婚姻は臨時補佐にとって重要なことだったのだろう。

 おそらく、男爵位を継ぐ条件に、ユリーナとの結婚が入っているのかもしれない。


 ユリーナは冷たい目をして言う。


「わかったわね?」

「……はい」


 そして、ユリーナはクルスに言う。


「クルス。こいつはもう私の婚約者候補でも何でもないから好きにしていいわ」

「それは最初から考慮してないよ?」

「え?」


 ユリーナが少し驚いていた。

 クルスが自分の婚約者候補だから配慮して解任しないと思っていたようだ。


 そして、クルスは改めて臨時補佐に言う。


「それも踏まえて。解任するつもりはないよ?」

「なぜだ?」


 ティミが不服なのを隠そうともせずに尋ねる。


「あ、ありがとうございます、今後は心を入れ替えてがんばります!」

「伯爵閣下の慈悲深さに応えられるよう、全力を尽くします!」


 臨時補佐と中年は土下座をして感謝する。


「それは助かるよ。一杯やってほしいことがあるからね。それに牢獄に送る代わりの罰も与えないわけにもいかないんだ」

「何でもおっしゃってください。どんな罰でも甘んじて受け入れます」

「全力で取り組みます」

「そうやってくれることを願っているよ。そうじゃないと今度こそ解任しないとだし」

「はい! 全力で尽くさせていただきます」

「解任するときは、大事おおごとにする時だからね?」


 そういって、クルスは笑う。

 クルスは宗秩寮そうちつりょうに持ち込むことを暗に示しているのだ。

 宗秩寮は国王直属の貴族の犯罪を裁くための機関である。


 宗秩寮に持ち込めば、男爵家ごとつぶされる可能性すらある。

 伯爵に直接暴力をふるったのだから当然だ。

 臨時補佐本人は牢獄か鉱山に行くことになるだろう。


「はい。覚悟しております!」


 その返事に頷くと、クルスが司祭を呼んでくる。


「どうされました?」

「臨時補佐とその子分に現場を体験させたいので、手の足りないところに回したいのですが」

「なるほど。了解いたしました。橋の材料の石を運ぶ業務があります」

「とりあえずは、それで構いません。臨時補佐だと思わず、奴隷だと思って働かせてください」


 そして、臨時補佐と中年に向かって言う。


「体力的に大変だろうけど、頑張ってね!」

「り、了解しました」

「頑張らせていただきます」


 それから、司祭の呼んだ現場監督がやってくる。

 現場監督は背が高くて、筋骨隆々だ。


「お前らが新入りだな! ビシバシ行くから覚悟しておけ」


 そう言って臨時補佐たちを連れて行った。


「臨時補佐が、労働者をいじめたりしないだろうか」

「あの体格差だから無理じゃないかな」


 クルスは働き始めた臨時補佐をじっと見る。

 現場監督率いる労働者たちはムキムキだ。細い臨時補佐ではかなうわけがない。


 臨時補佐はかなり重い石を運ばされていた。

 きっとあれだけ働けば、夜はぐっすりに違いない。

これで終わりではないのです

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