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 温泉を堪能たんのうして衛兵小屋に帰る途中、村長と出会った。


「アルさん、温泉はどうでしたか? なかなかよかったでしょう?」

「あ、はい。とても良いお湯でした。でも……」


 どうしてミレットたちが入ってきたのか、俺は尋ねようとした。

 温泉は貸し切りだったはずだ。

 だが、俺が尋ねる前に怒りながらミレットがいう。


「村長! どうしてアルさんが入ってるって教えてくれなかったんですか!」

「え? アルさんに貸したから、あなたたちも良ければどうぞって、伝えたはずですけど」


 困惑した様子の村長は、ミレットの妹コレットを見る。


「私としてはアルさんのあとに入るものだとばかり……」

「あ、コレット、お姉ちゃんに言うの忘れてた?」


 コレットが首をかしげている。

 どうやら村長から言伝ことづてを頼まれたコレットが伝達しなかったらしい。

 幼女に伝言を頼むとは迂闊うかつといえる。だが、「よければどうぞ」程度の情報はさほど重要ではない。

 村長がコレットに伝えるだけで済ませたとしても仕方ない。

 

「コレット! だめじゃないの」

「だ、だめだったの? コレット、おっしゃんと一緒にお風呂入って楽しかったよ!」

「ダメに決まってるでしょ!」

「ダメに決まっているのじゃ、おかげで淫猥いんわいな視線にわらわの貴重な肢体をさらす羽目になったのじゃぞ」


 二人に怒られてコレットはしょんぼりする。


「してんのーもお姉ちゃんも、おっしゃんと入りたくないの? おっしゃんが嫌いなの?」

「そうはいってないけど……」

「そ、そんなことは言ってないのじゃ……」


 コレットは嬉しそうに微笑む。


「じゃあ、おっしゃんと入ればいいんだよ!」

「たしかに、そうかも……」


 丸め込まれたミレットがうなずく。

 コレットがこちらを見て、にこりと笑った。


「ちょ、ちょっとまつのじゃ! おかしいであろ! 下等生物でも混浴は普通しないはずじゃ!」

「そうだぞ。混浴はいろいろとまずい」


 不本意だが、俺もヴィヴィに同調する。

 だが、仕方がない。混浴はいろいろとまずい。下半身的な意味で。


「ぷう」

「そ、そうだよね」


 コレットはふくれて、ミレットは耳の先まで真っ赤にして、うんうんとうなずいた。

 それを黙って聞いていた村長が、俺を手招きする。近づいた俺の耳元でささやいた。


「アルさん。もちろん無理やりはダメですが、合意の上なら別に混浴しても構いませんよ?」

「村長、なにを言ってるんですか」

「いやなに。基本的なルールの話です」

「なるほど」


 なにが「なるほど」かわからないが、とりあえずそう言っておいた。


―――――――


 フェムとヴィヴィを連れて衛兵小屋に帰るころには日は沈んでいた。


「お腹がすいたのじゃ。下等生物」

「そうだな」

「さっさと、わらわの食事を用意するのじゃ!」

「そうだなぁ」


 俺も腹が減った。だが、ヴィヴィに料理を任せるのは気が進まない。

 なんとなく、料理が下手そうなイメージがあるのだ。


「……疲れたし、適当に干し肉でも食べるか」

「はぁ?」

「わふぅ?」


 ヴィヴィとフェムが同時に抗議の声を上げた。


「な、なんだよ」

「わらわに干し肉を食べさせるじゃと? 正気とはおもえぬのじゃ……」

『信じられぬ』


 ヴィヴィとフェムが愚か者を見る目をしている。


「文句言う人にはあげません!」

「ま、まあ。干し肉もたまにはいいかもしれぬな」

「くぅーん」


 ヴィヴィがうんうんとうなずき、フェムが体をこすりつけてきた。

 その時、


「アルさん、いますか?」


 コレットを連れた、ミレットがやってきた。


「どうした?」

「夜ご飯もってきましたよ」

「おお! すばらしいのじゃ、ミレット、お主はできる下等生物じゃな」

「わふっわふっ」


 ヴィヴィは大喜びでミレットに駆け寄る。

 フェムは尻尾をものすごい勢いで振りながら、ミレットのまわりをぐるぐる回る。


「貴様は干し肉食べる。そうじゃったな?」

「わふわふっ!」

「いや、俺もミレットのご飯食べたいし……」


 そういうと、ミレットは嬉しそうに笑った。


「アルさんの分もありますよ?」

「ありがとう、ミレット」


 ミレットの持ってきてくれた夕食をみんなで食べる。

 とてもおいしい。


「ミレットの料理はとてもおいしいな!」

「えへへ。ありがとう」

「この愚か者は夕食を干し肉で済まそうとしていたのじゃ!」

『ほんと馬鹿』


 ヴィヴィとフェムはそういうが、干し肉は便利だ。

 味はいまいちだが、保存がきく。料理の手間もかからない。

 冒険者の基本フードなのだ。人生の大半を冒険者として過ごした俺にとっては、なじみ深い食品だ。


 コレットがこっそり耳打ちしてきた。


「おっしゃん。お姉ちゃんと結婚したらいいとおもう。料理もうまい」

「そうはいってもな」

「嫌いなの?」

「そういうことではないけど」


 ミレット本人から好きと言われたわけではない。

 こんなおっさん、ミレットが嫌だろう。

 料理だって、衛兵の報酬「衣食住」のためにやってくれているのだ。

 調子に乗っては痛い目にあう。


―――――


 夜、ミレットとコレットが帰った後、俺は眠りにつく。

 フェムは当然のように真っ先に俺のベッドに入っていった。

 寝床が毛だらけになりかねない。でも、


「まあ、いいか」

「いつまでわらわは床で寝ればいいのじゃ!」


 ヴィヴィが抗議してくる。


「もう一つ、ベッドができるまで?」

「ほう。いつの間に、ベッド製作にとりかかっていたとはな。下等生物の割に気が利くではないか」

「いや、とりかかってないけど?」

「はぁ? わらわを愚弄する気か。貴様が床で寝るがいいのじゃ!」

「なんでだよ」


 ヴィヴィが俺を押しのけて、ベッドに入ろうとする。

 俺も当然抵抗する。

 だが、戦闘でもないのに、少女相手に力は出しにくい。魔法の使用などとんでもない。


 ベッド争いはしばらく続いた。


「はぁはぁはぁ……。仕方ない。ここからは俺の領土。ヴィヴィはこっちを使え」

「ぜぇぜぇぜぇ……。やむをえまい。よいか? いかがわしいことを考えるでないぞ」

「考えるか!」

「どうだかな。下等生物は野蛮で淫猥な生き物じゃからな」

「信用できないなら床で寝ろ」

「それはいやじゃ!」


 俺とヴィヴィはベッドを分割する協定に同意した。

 フェムはつまらなそうにベッドの真ん中であくびした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 村長とコレットは外堀を埋めるのに必死だけど、 主人公がミレットを連れて王国に戻ってしまうとは考えないのかな そうなるとただ帰ってしまうより悪化すると思うんだけど [一言] 日本人の感覚…
[一言] フェムが完全に飼い犬になってますね…
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