145 ひざの治療その2
前話のあらすじ:アルのひざが痛くなった
みんなに心配させてもあれなので、我慢しようとした。
だが、あまりの左ひざの痛みに、しゃがみこんでしまった。
「あ、痛いですか?」
「アル、大丈夫なの?」
クルスとルカが心配してくれた。
俺はやせ我慢する。
「大丈夫大丈夫。ちょっと痛くなっただけだから」
「ちょっと見せなさいな」
ユリーナが冷静に左ひざを診てくれる。
その間、シギショアラとフェムとモーフィが心配そうに近寄ってくる。
シギショアラもフェムもモーフィもふんふん匂いを嗅ぎながら、体を摺り寄せる。
「りゃっりゃ」「わふぅ」「もっも」
「ありがと」
俺はシギとフェムとモーフィの頭を撫でる。
そうしている間に、ユリーナの診断が終わったようだ。
「石が大きくなっているわね。手術しかないわ」
「……そうか」
手術は当たり前だがとても痛い。できれば避けたい。
だが、放置してもめちゃくちゃ痛いのが続くだけだ。
俺はクルスに肩を担がれて、衛兵小屋の自室へと運ばれる。
ヴァリミエとヴィヴィがついてきてくれた。
「アル。安心するのじゃ。姉上と一緒に痛みを軽減する魔法陣を用意してやるのじゃ」
「うむ。わらわたち姉妹に任せるがよいのじゃ」
「頼む」
ものすごく心強い。
ユリーナが手術の準備を進めている間に、ヴィヴィたちも魔法陣の準備を進めてくれる。
一方クルスはずっと俺の左ひざを撫でてくれていた。
「クルスに撫でられるとましになる気がする」
「そうですかー」
実際にましになる気がするのだ。不思議だ。
そうこうしている間に、ヴィヴィたちとユリーナの準備が終わる。
「さて、行くのだわ。覚悟はいい?」
「バッサリお願いします」
「魔法陣を起動したのじゃ!」
ユリーナが手術を開始する。
ヴィヴィたちの魔法陣の効果か前回より痛みは相当ましだった。
それでも痛いのは痛い。
「うわあ」
「痛そうなのじゃ」
「りゃあ」
俺の痛みは軽減されたとはいえ、見た目は前回の手術と変わらない。
クルスとヴィヴィは傷口を見ながら顔を背けていた。
シギは前回と同じく、尻尾を股に挟んで目を手で覆っている。指の隙間から見ているのも変わらない。
「もっにゅ! もっにゅ!」
「わふう」
モーフィは緊張のあまりクルスの指をくわえていた。これも前回と同じである。
フェムは前回と異なり、尻尾を股に挟んでいなかった。成長している。
痛みが和らいだせいか、周囲の様子を余裕をもって観察することができた。
「終わったのだわ」
「ありがとう。麻酔の効果か、だいぶましだった」
「それは何よりね」
カランと膿盆に大星型十二面体を乗せる。
相変わらず殺傷力の高そうな形をしている。
それを観察しながらクルスが言う。
「前回より禍々しさがましかも」
「そうなの?」
「はい。形と大きさは同じですけど」
考えながらユリーナが言う。
「うーん。まだ頂点から謎の物質をあまり出してなかったのかも知れないのだわ」
「それならいいのだけど」
「これも観察したほうがいいのだわ」
前回の治療時、石は頂点から神経に作用する謎の物質を放出しているらしいとのことだった。
今回は早めに取り除けたので、まだましだったのかもしれない。
俺は改めて、ユリーナやヴィヴィたちにお礼を言ってから食堂へと戻った。
そこではルカやミレット、コレットたちが待っていた。
「おっしゃん、大丈夫だった?」
「うん、大丈夫だぞ」
心配そうにするコレットの頭を撫でてやった。
ルカは膿盆に乗せられた石に注目している。
「前回の石の調査は進んでいるの?」
「それが全然進んでいないのだわ。お恥ずかしい限りだけど」
ユリーナはそういうが、教会の調査力は高い。
それでわからないのなら、仕方がない。
俺はクルスに尋ねた。
「クルスはどう思う?」
「前回に比べて、禍々しさが少ないぐらいしかぼくにはわからないです」
「うーん。これとこれ、どう違うのかあたしには全くわからないわね」
「私にもわからないのだわ。シャッフルされたらどっちがどっちかわからなくなる自信があるわ」
ルカもユリーナもわからないらしい。ちなみに俺もわからない。
なのに判別がつくだけでもクルスはすごい。さすがクルスというべきだろう。
コレットがつんつん指で突っついていた。
「見た目は綺麗だと思う!」
シギやフェム、モーフィたちも匂いを嗅いでいた。
「フェムとモーフィはどう思う?」
『臭いのだ』
『まずそう』
獣的には好ましいものではないらしい。
モーフィのまずそうという感想はよくわからない。食べようとする発想がそもそも間違っていると思う。
シギは一度匂いを嗅ぐと、顔を背けて俺の方に飛んできた。
シギ的にも好ましくないらしい。
「石の調査も行き詰ってしまったか」
「困ったわね」
その時、小屋の扉が勢いよく開かれた。
「シギショアラ! 戻ったのだぞ」
「りゃ!」
ティミショアラが戻ってきた。
予定より相当早い。
シギはティミのもとにパタパタ飛んでいく。
「シギショアラ、かわいいな!」
「りゃっりゃー」
ティミはシギを抱き上げた。そしてほほずりする。
「ティミ、はやいな」
「うむ。アルフレッドラ。シギに会いたいから急いだのである」
ティミはシギをなでなでしている。
そうしながら、うとうとし始めた。
「ティミ眠いのか?」
「おお、そういえば、あれから寝てなかったな」
「大丈夫なの?」
「……うむ。だいじょ……――くぅ」
会話の途中で眠りはじめた。
ルカは心配そうにティミに近づく。
「人型で眠って大丈夫なのかな?」
「足がしびれるっていったけど……」
「起きたとき体バキバキにならないかしら」
「それに。寝ぼけて本来の姿に戻ったら小屋が破裂するわよ」
「たしかに」
それは心配だ。今のうちに外に連れて行った方がいいだろうか。
衛兵小屋は防御魔法陣で固めている。
とはいえ、本来の姿に戻ったティミを抑えることは不可能だろう。
クルスがシギを抱いたまま眠りにおちたティミの肩を揺らす。
「ティミちゃん、ティミちゃん。人型で眠って大丈夫?」
「……はっ! 確かにそうじゃな」
ティミは起きると、シギを俺に渡す。
そして、ゆっくりと小屋の外に出て行った。
ティミは小屋の前で竜に戻る。
「そういえば、机の上にあったそれ。……あれだな」
「あれって?」
「……Ryaaaa」
「りゃあ?」
もうティミは眠っていた。
そんなティミをシギは優しくなでていた。
「き、気になるんだが」
「ryaaa」
とても気になる。
だが、ティミはとても疲れているのだ。
小さな寝息を立てているティミを起こす気にはならなかった。
ティミは何か知っているようです。