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【web版】最強の魔導士。ひざに矢をうけてしまったので田舎の衛兵になる  作者: えぞぎんぎつね
4章

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124 勇者が旧魔王領に行くということ

前話のあらすじ:クルスが魔王領に遊びに行こうと言い出した

「魔王領、っていうか旧魔王領への調査って、なんのために?」

 俺は無邪気に微笑むクルスに尋ねた。


「魔王が復活していないか調査に行くんです!」

「調査か」


 魔王が復活しているのならば、旧魔王領を警戒するのは正しい。

 仮に魔王が復活のための魔術的な布石を置いたのならば、旧魔王領だろう。


「最近はアルさんと旅してなかったですからね。楽しみだなー」

 クルスはもう旧魔王領へ行く気満々だ。


 そんなクルスにルカが冷静に言う。

「ちょっと待ちなさい」

「なにさー」

「クルス、あんた調査とか苦手でしょ」


 ルカの指摘は正しい。クルスは調査が苦手なのだ。


「クルスは意外と調査とか苦手なのだわ」

 ユリーナはそういうが、別に意外でも何でもない。そのまんまである。

 クルスを知っているものは、クルスは調査が苦手だと知っている。

 クルスの第一印象アンケートをとれば、7割ぐらい調査苦手そうという回答が寄せられそうだ。


「そ、そんなことないもん」

 クルスは顔を真っ赤にして反論する。


「ケルベロスが隠れてるのを見破ったのぼくだし! それにそれに、大サソリの巣だって見つけたし!」


 クルスは指をおりおり、冒険途中の功績を上げていく。

 たしかに、それらはクルスが見つけたものだ。それも魔獣学者ルカが発見できなかったものである。

 その功績から考えれば、確かにクルスは調査が得意と言えるのかもしれない。

 だからこそ、自分は調査が得意だとクルスは思っているのだろう。


「クルス。それはまぐれよ」

「そ、そんなことないもん!」


 普通に考えればクルスが正しい。

 いくら何でもまぐれで隠れているケルベロスを見つけたり、大サソリの巣を見つけたりはできない。

 どれだけ幸運なんだよ、という話になってしまう。


 だが、勇者クルスは普通ではない。基本幸運なのだ。聖神の使徒だからかも知れない。

 それに、勇者クルスの場合、普通の冒険者と比べて試行回数が多すぎるのだ。

 勇者の勘に頼り、突っ込んで空ぶる。その繰り返しだ。


 普通はその一回の失敗が致命傷になりうる。幸運にも命からがら生還できても忘れられない教訓となる。

 だが、クルスの場合、罠ごと踏みつぶしてしまうので特に失敗したという意識もない。危険だとも思っていない。


 結果、成功体験だけ覚えているという、冒険者としてあるまじき状況になっているのだ。


「アルさん! ルカがひどい言いがかりをつけてくるんです!」

「お、おう。そうか」

「アルさんからも、ビシっといってやってください!」

「えぇ……」


 困った。クルスが俺を味方につけようとしてくる。

 クルスは調査が苦手というのは、ここにいる全員が知っている。

 問題は、事実を告げるべきか否かである。


 今までも別に困ってないんだから、得意だと思わせておけばいいという考え方もある。

 将来を考えれば、真実を教えてあげるべきという考え方もあるだろう。


 俺はちらりとユリーナを見る。ユリーナはさっと目をそらした。

 ユリーナは頼りにならない。

 仕方ないので、決心する。


「クルス。真面目な話をしよう」

「はい!」

 きらきらした目で見つめられると言いにくい。

 だが、これも勇者パーティー最年長の役目なのだ。


「クルス、調査に必要なものは何かわかるか?」

「えっとー。直観力です」

「違うぞ。観察力に分析力、それに知識だ」

「ほむ?」


 クルスは首を傾げた。

 わかっていなさそうだ。なので丁寧に説明してやる。


 対象をきちんと分析しなければどういう状況にあるのかわからない。

 対象をよく観察しなければ、何を分析するべきかわからない。


 そして、分析にも観察にも必要なのが知識である。

 知識がなければ、対象がいつもとどう違うのかわからないし、分析結果がどういう意味を持つのかもわからない。


「なるほどー」

「俺も魔力の残滓などの調査はできるけど、それ以外は苦手なんだぞ」

「そうだったんですね!」

「だから、クルスも調査は苦手なんだぞ」

「わかりました!」


 あっさりと、クルスは自分が調査が苦手だと認めた。

 とても素直だ。素直さは美徳である。成長につながる。

 だからほめてやる。


「クルスは素直で偉いな」

「えへへ」


 それを見ていたルカがつぶやく。

「素直すぎて逆に不安になるわ」

「そこがいいところなのだわ」


 ユリーナは笑顔でフォローしていた。

 ルカの懸念もわかる。素直すぎたから、クルスは種イモ詐欺にひっかかったのだ。


「クルス。警戒もしないと駄目だぞ」

「はい!」


 俺が頭を撫でてやると、クルスは嬉しそうにしていた。


「ところで、アルさん。調査は置いといて、魔王領見に行きませんか?」

「置いとくんだ?」

「はい。得意な人に任せればいいので! でも、魔王領が今どうなってるか気になりますし」

「わ、わらわも気になるのじゃ!」


 ヴィヴィも前のめり気味に言う。俺も気にならないわけではない。


 ルカが真面目な顔になる。

「魔王領じゃなくて”旧”魔王領ね」

「どっちでもいいよー」

「よくないわよ。大きな違いよ」

「へー」


 クルスに向かって、ルカが諭す。

「旧魔王領は、まだ安定しているわけじゃないのよ?」

「それがどうしたのさ」

「自分が勇者だという自覚を持ちなさい」


 わかっていないクルスに向けて、ルカが説明する。

 旧魔王領に勇者であるクルスが行くと政治的意味合いが生じてしまう。

 人族は勇者が出向かなければならないほどの何かが起こったと怯えるだろう。

 魔族は強大な力を持つ勇者が弾圧しに来たと誤解するだろう。


 俺はへこんでいるクルスの肩を叩いた。

「いまはまだクルスは行くべきじゃないかもな」

「残念だなー。魔王領いきたかったなー」

「そんなに残念なの?」

「そりゃそうですよー。久々にアルさんと冒険したかったのにー」


 クルスは冒険が好きなのだ。根っからの冒険者だ。

 俺がクルスを励ましていると、ユリーナに袖を引っ張られた。


「アル」

「む?」

「今日、魔力を沢山使ったと聞いたのだわ」


 ユリーナはとても真剣な表情だ。

 ヴィヴィかミレット、もしくはコレット辺りから聞いたのかもしれない。


「そうだぞ。ミスリルゴーレムで収穫するために、重力魔法をかけ続けたんだよ。とても疲れた」

「それは疲れるでしょうね」


 ユリーナは俺のひざに手を置いた。


「ひざの石が急成長したのって、魔力を使いすぎたせいかも知れないのだわ」

「……どうしてそうおもったの?」

「石の成長を魔力が抑えつけていたように思うのよね。ほら風邪を体の抵抗力が抑えているように」

「ほう。つまり魔力を使いすぎて、抵抗力が弱まったせいで急成長した可能性が?」

「あくまで、可能性よ。一応、魔力消費は抑え気味にするのだわ」

「了解。気を付ける」

 とはいえ、そうそう大量に魔力を使う機会などない。

 普段通りにしていれば何の問題もないだろう。


「お話終わりました? そろそろ夕ご飯にしましょうか」

 ミレットがそう言った直後、

 ――リリリリリリリリリリ


 小屋に取り付けられた警戒魔法陣の鈴が鳴りはじめた。

 俺がヴィヴィにもらった指輪も振動している。


「ドービィかな?」

「ドービィはリンドバルの森におるのじゃっ!」


 ヴァリミエが少し慌てた様子で言う。となると一体、何者だろうか。

 俺は小屋から急いで外に出た。

クルスとしては、アルと一緒に旅がしたいだけなようです。

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