110 崩壊した城の探索
前話のあらすじ:魔人を倒した
依然として半分に切られた魔人は動いていた。
だが、言葉を発したり魔法を発動することは無理そうだ。
尋問は後で司法省にやってもらうとしよう。
「生命力が高すぎるのだわ」
「生命力だけなら魔王よりすごそうです」
ユリーナとクルスが感心している。
俺はシギショアラを懐から出した。
「シギ。仇はとったぞ」
「りゃあ」
満足げにシギは鳴く。
シギの親が死ぬことになったのは、この魔人のせいである。
俺はシギの親から受け取った指輪をそっと撫でた。
感傷に浸っていると、ヴィヴィに袖を引っ張られた。
「城も調べたほうがいいのじゃ。まだ敵がいるかもしれないのじゃぞ」
「そうだな。ヴィヴィの言うとおりだ」
俺はクルスとユリーナに魔人の見張りを任せて、城を調べることにした。
もはやがれきの山ではあるが、まだ手掛かりはいくらでもあるのだ。
「ヴィヴィ、ヴァリミエ。魔力の残滓とか見逃さないように気を付けてくれ」
「了解なのじゃ」「任せるのじゃ」
「フェム、モーフィ。それにライも、匂いに注意を払ってほしい」
「わふ」「もぅ」「がう」「りゃあああああ」
なぜかシギが、一番元気に返事した。可愛いので頭を撫でてやる。
俺も魔力を中心に調べていく。
ヴィヴィが真剣な表情でつぶやく。
「やはり城に描かれた防備魔法陣はすごいものだったのじゃな」
「壊れていてもわかるの?」
「そりゃわかるのじゃ。魔法陣は得意じゃからな」
そして悔しそうにつぶやく。
「わらわが小屋に描いた魔法陣よりもすごいかもしれぬのじゃ」
「そうか。まあ、魔人の本拠地だしな。防御はすごかろう」
ヴァリミエが、少しへこみ気味のヴィヴィの頭を撫でる。
「わらわもライと一緒に攻め込んだが、歯が立たなかったのじゃ」
「姉上でも破れなかったのかや?」
「そうじゃぞ。居住性や利便性をすべて犠牲にした普通は破れない防御なのじゃ。それを一撃で破壊したアルフレッドの呪文がおかしいのじゃ」
「そうなのかや」
「衛兵小屋は住むことを前提に色々施したのであろ? ならば防御力で負けても仕方ないのじゃ」
「そうなのじゃな!」
ヴィヴィは元気になったようだ。
二人が話している間、俺は魔法のアイテムや資料などを魔法の鞄に回収していった。
夜も遅い。分析は後回しで資料の保全が最優先だ。
集めた資料は、あとでルカに全部渡すことにする。
「やっぱりルカにも来てもらった方がよかったかな」
「かもしれぬのじゃ」
戦闘自体はルカがいなくても問題なかった。だが後処理となると、ルカがいるとものすごく助かる。
とはいえ、ムルグ村をあけるのも心配だった。難しいところだ。
とにかく、明日にでもルカと一緒にもう一度来たほうがいいだろう。
そのとき、周囲を調べていたヴァリミエが声を上げた。
「あっ」
「どうした?」
「これはわらわが友達のグレートドラゴンにあげた指輪なのじゃ」
その指輪は、ヴィヴィが俺にくれた指輪に少しだけ似ていた。
ヴァリミエはぎゅっと大切そうにその指輪を握りしめる。
おそらく、そのグレートドラゴンは死んでしまったのだろう。ゾンビでいるよりはそのほうがいい。
ヴァリミエは悲しそうだ。しばらくそっとしておいた方がよいだろう。
調査を続けていると、ヴィヴィが少し離れたところで大きな声を出した。
「地下に行く扉を見つけたのじゃ」
「地下も調べた方がいいよな」
「そりゃそうなのじゃ」
地上の調査がある程度終わったので、地下へと移る。
クルスたちは暇そうにしていたが、仕方がない。戦利品回収などもしたいようだが、魔人を見張っている以上それも難しい。
クルスとユリーナにはしばらく我慢してもらおう。
地下は損傷もなく、きれいなものだった。
壁を調べていたヴァリミエが言う。
「これは……、この魔法陣は参考になるのじゃ」
「森の隠者ほどの魔導士でも参考になるのか」
「うむ。この魔人の奴、相当な魔導士じゃな」
憎い奴だし悪い奴だが、実力は高い。それは認めなければなるまい。
地下部分は、天井も高く広かった。
ヴィヴィがそれを見ながら尋ねてくる。
「魔法の鞄の原理かや? アルが得意な時空魔法ってやつなのじゃ」
「そうだな」
「アルの目から見てどう思うのじゃ? 未熟に見えるのかや?」
「いや、相当な技術だと思う。完ぺきではないが」
「アルにそう言わせるとは、魔人の力量は大したものだったのじゃな」
感心したようにヴィヴィがうなずいていた。
もっとこうすべきだという点はある。俺ならもっと効率的にやれるという点もある。
だが、たまに、「あ、うまいことやるもんだな」と感心させられる点もあるのだ。
「これは参考になるかも」
「ふふふ。姉上と同じようなことを言っているのじゃ」「もっも」
ヴィヴィは楽しそうに笑った。モーフィも楽しそうだ。
地下の探索を進めていく。
魔導兵器やゾンビ化に必要な材料が大量に貯蔵されていた。
「すでにこれだけゾンビ化の材料集めてたのなら、買いに来ないよな」
「そうじゃのう。だが、これだけの材料をいつ集めたのじゃ?」
「魔王を倒してからなら目立ちすぎるし、その前だと思うが」
「ふむ」
「ギルドに調べてもらうしかないな」
冒険者ギルドは本拠地を見つけられなかった。だが、けして調査力は低くないのだ。
頑張ってもらうしかない。
一生懸命臭いを嗅いでいた、フェムが大きい声を上げた。
『魔獣の臭いがするのだ』
「ゾンビ?」
『違うのだ。魔獣なのだ』
俺は駆けていくフェムを追いかけた。ひざが痛いのでゆっくりである。
しばらく歩くと大きな扉の前につく。俺は注意しながら扉を開く。
「なんじゃこれは」
「牧場かな?」
部屋の中には百頭ちかい強力な魔獣がいた。ゾンビにされる前の魔獣だ。
反抗や逃亡を警戒しているのだろう。すべての魔獣はがっちりと拘束されている。
「魔人は本気で国をおとす気だったみたいだな」
「……そうじゃな」
ヴィヴィが深刻な表情で言う。想像して恐怖を感じたのだろう。
俺たちが倒した分も含めれば、総勢200を超えるだろう。それに貯蔵されていた魔導兵器を加えれば恐ろしい戦力だ。
シギの親、もしくは成長したシギが加われば、国どころか世界がとれそうだ。
「こやつらはどうするのじゃ」
「どうするって言っても……。どうしよっか」
人里近くに現れれば問答無用で討伐される魔獣だ。冒険者としては討伐出来るときにしておくべきなのだろう。
だが、魔人の被害者たちでもあるのだ。心情的に討伐しにくい。
「ゾンビにされてたら問答無用に討伐するのだけど」
「ふうむ」
「ここはこのままにして、ギルドに任せよっか」
「ルカに任せるのかや? おんぶにだっこなのじゃな?」
「ルカじゃなくてギルドだぞ」
「似たようなものなのじゃ」
ヴィヴィのいうとおり、ルカの手間が増えるのは事実だ。
だが、魔獣の調査も必要だ。集められた魔獣を調べることで魔人の行動範囲もわかる。
ギルドに任せるのが一番良い。
その時、遅れて部屋に入ってきたヴァリミエとライが叫んだ。
「ドービィ!」「がぅ」
「ぎゃっぎゃ」
拘束されていたグレートドラゴンの一匹に向かってヴァリミエとライが駆けよる。
ドービィというらしいグレートドラゴンも嬉しそうに返事している。
「え、お友達?」
「そうなのじゃ。森からさらわれたグレートドラゴンなのじゃ」
ヴァリミエもライもドービィも嬉しそうだ。
俺は、よくて死亡、悪くてゾンビにされていると思っていた。とても嬉しい誤算である。
俺はドービィの拘束を破壊した。
「ぎゃあぎゃ」
「よかった、よかったのじゃ」
解放されたドービィは嬉しそうにヴァリミエに体を擦り付けていた。
大きなドラゴンが甘える様子はほほえましい。
大まかな探索を終えて、俺たちはドービィを連れて地上に戻る。
「敵が残ってたのだわ?」
ユリーナが警戒して身がまえたので、誤解を解いた。
クルスは嬉しそうに、ドービィを撫でまくっている。
「よかったねー」
ドービィは大人しく撫でられていた。
俺は改めて周囲を見回す。たくさんのゾンビだったものが転がっていた。
「戦利品の回収もしとかないとな」
「マナーであったな?」
「そうそう」
ヴァリミエも戦利品回収と遺体処理の重要性を理解してくれたようだ。
俺はクルスたちに代わって、魔人の監視に戻り、クルスとユリーナには戦利品回収を頼んだ。
「了解です!」
「戦利品回収は任せるのだわ」
クルスとユリーナは楽しそうに戦利品を回収していく。クルスもユリーナも昔から戦利品回収が好きなのだ。
手際よく素材や調査のサンプルになりそうなものを鞄に入れていく。
魔人を見張りつつ、俺はフェムを撫でた。
「それにしてもフェムの吠え声のおかげでだいぶ戦闘が楽になったな」
『フェムもあそこまで効果がでるとは思わなかったのだ』
魔天狼の吠え声はゾンビに特効があるのかもしれない。
さすがは魔天狼、聖獣である。
戦利品の回収を終わらせた後、俺たちは一度王都に戻ることにした。