主人公的な奴
普通は特別なことに憧れるだろう。
憧れなくても他人には無い自分だけの特別な"何か"を求めているのだろう。
その一方で特別は普通になることを求めている。
特別であり続けるには必死に努力をしなければならない。
だから自由にできる普通に憧れる。
誰もが自分ではないものに憧れる。
だけれども本当にそれでいいのだろうか?
手に入らないものを望むよりも今ある自分でどれだけ頑張れるかを試してみるべきなのではないのか?
これはそんな物語
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朝
目が覚める。
時計を見るがまだ午前5時だ。
二度寝するような時間ではない。
そういえば昨日の夜途中まで見ていた本があったことを思い出し机の上に放置されていた本を手に取り読む。
本を読むのに熱中していると目覚まし時計の音が鳴り響いた。
アラームを切ると顔を洗いに部屋を出る。
洗面所まで行くと踏み台を置きその上に立つ。
それで漸く鏡に顔が映るぐらいに小さい。
この家の洗面所が高いと言うのも理由の一つだろうがそうだとしても身長は140前後だろう。
これが男子だというのがまた変な話だ。
別に不健康な生活を送っているわけでもないのに背は小学校から全然伸びていない。
顔にもまだ幼さが残っていて小学生でも通るぐらいだ。
これが僕、霧羽 郁美 16歳だ。
名は体を表すとはよく言ったものだと感心してしまう程に美しく育ってしまったものだ。
男子なのに....男子なのに....
家はマンションで一人暮らしのために自分で朝食を作らなければならない。
踏み台は至る所に配置されているために困りはしないが使用するたびに悲しみがこみ上げてくる。
冷蔵庫を開けて中から牛乳を取り出して飲む。
「早く身長伸びないかな....」
牛乳を飲んだ後はいつもこの台詞を言うのが習慣になってしまった。
朝食を食べ終えた後は制服に着替えて部屋の壁に背を掛ける。
頭の上にペンで線を引く。
「身長は伸びてるかな?」
壁のペンの跡は、重なり合って僕の努力が目に見える。
そして背が伸びていなくて項垂れる。
これが朝、学校に行くまでの日常。