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006  世の中には肉のないカレーだってあるんだから

 



 カルマシステム。

 フェアリー・ストーリー・オンラインの世界では、プレイヤーの行動によってカルマ値が増減する。

 NPC救出、悪意の種の除去など善行を働けばカルマ値が上昇し、新たなスキルを得たり、新たなクエストを受けることが出来るようになる。

 逆に悪人に協力したり、NPCを騙したり、PKを行うとカルマ値が減少し、こちらもまた専用クエストが受けられるようになる。

 だが一定値以下になると名前の文字色が赤くなり、衛兵に攻撃されたり、国家に指名手配をされることもある。

 また、この状態で戦闘不能に陥ると、使用中の装備を確率でドロップしてしまうようになる。

 堅実に善人として生きるか、あえて悪人として生き茨の道を行くかは、プレイヤー次第だ。


(FSO公式HPより抜粋)




 ◆◆◆




 決着がついても、まだ男はサワーを解放しようとはしなかった。

 ニヤニヤと笑ったまま、剣を動かして彼女の反応をみて遊んでる。

 あたしにやられた男は、今も苦しんでるってのに。

 解放されたのはわかってたけど――腕が腐った仲間を放っておいてまで、人質を取り続ける理由って何なの?


「あのままだと仲間が死んじゃうってのに、どうしてわかんないの!?」

「くく、何言ってんだか。あいつが死ねば金は俺の総取りなんだよ!」

「お、おい、てめぇ……!」


 ついには仲間割れを始める漆黒の葬送団の2人。

 もうため息も出ないわ、呆れた。

 けど、1対1になったとは言え、まだあたしが不利って状況は変わってない。

 まずはサワーの首に当てられた剣をなんとかしないと。

 丸腰のあたしに、この離れた距離を縮めるための方法は無い。

 ハイドラに頼む?

 でも、絶対にサワーが無事な状態で救出できる保障なんて無い。

 一体どうしたら。

 悩むあたしに、にやりと笑う黒ずくめの男。

 と、そこに――聞き覚えのない第三者の声が響いた。


「何やってるんですか、てめえらは」


 その場に居る全員が、彼の方を向いた。

 瞬間。

 ザシュッ!

 男が何かを投げつけると、それが人質を拘束する腕に命中。

 突き刺さったのは――針、だった。

 腕を貫かれた男は、痛みで剣を落とす。

 よし、武器が無い今なら!


「ハイドラッ!」

「がうッ!」


 あたしがハイドラに呼びかけると、彼女は突進してサワーを人質にしていた男を吹き飛ばす。

 男の体は宙を舞うと、壁に叩きつけられた。

 うっへえ、痛そ。

 ありゃ肩の骨が砕けてるかな、自業自得だけど。


「サワー、大丈夫?」

「おねえちゃんっ、おねえちゃんっ!」


 大丈夫なわけがないよね。

 あたしは泣きついてきたサワーを、優しく抱きとめる。

 ハイドラも背後から近づくと、彼女の頭を優しく撫でた。


「どこの誰かは知りませんが、ありがとうございます」


 あたしは助けてくれた黒ずくめの男に頭を下げる。


「良いってことですよ、部下の不手際だからな」

「部下?」

「そこで倒れている2人の阿呆ですよ、うちのメンバーなんでね」

「ってことは、あなたも……」


 漆黒の葬送団のメンバー――しかも、言い方からすると上の方の人間ってこと?


「そういうことですね。俺は漆黒の葬送団団長、ストール・ザンシューム。よろしくなルトリーちゃん」


 変な喋り方を続ける男は、あたしに手を差し伸べた。

 もちろんスルー、そして睨みつける。

 助けてもらったことには感謝してるけど、これじゃマッチポンプじゃない。


「おっと、警戒されるのは仕方ありませんね。だが俺もこれには困ってんだよ」


 そう言ってストールは、手を針に貫かれ痛みに苦しむ部下の体をつかみ、あたしにうなじを見せつけた。


「おっさんのうなじなんて見せられても嬉しくともなんとも無いんだけど? せめてもうちょっとマシな顔になってから出直してきなさい」

「違いますよ、これだよこれ」


 ストールは後頭部に浮き上がった奇妙な模様を指差した。

 あれって確か――


「悪意の種です」


 その名の通り、人間の悪意を増幅させる呪いみたいな物で、発生する原因は未だ不明だったはず。

 浄化スキルを持ってるフレイヤさんなら治癒できるけど、今はもう居ないし。


「どういうわけだか団員どもが揃って発症しやがった。確かに元から善人集団ではありませんが、人身売買に手を出すほど落ちぶれちゃいねえからな」

「つまり、さっきの2人はそれのせいで暴走してたってこと?」

「おそらくは。そうは言われても被害者は納得できねえだろうが、腕を一本持っていかれたんですから、それで勘弁してくれよ」


 あたしとしても、もっと上手に防ぐ方法があったんじゃないかとは思ってる。

 いくら相手が悪人だとしても、取り返しのつかない傷を負わせてしまったのは事実だから。

 あそこまで壊死してしまったら、もう彼の腕は元には戻らないはず。

 それどころか、切断しないと命が危ないかもしれない。


「というわけですので、俺はこいつらの浄化を頼みにいかなきゃなんねえ。失礼させていただきます」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あんたの部下の不手際なのに、詫びの一つもないっての!?」

「金か?」

「そういう話じゃなくって!」


 あたしは自分の体を抱きながら震えるサワーをちらりと見た。

 ハイドラが慰めてくれてるけど、決して言えない心の傷が残ってしまうはず。


「あー……」


 視線で言いたいことに気づいたのか、ストールは気まずそうに首を掻きながら、頭を下げた。


「申し訳ありませんでした」


 予想外に丁寧な謝罪に、あたしは逆に戸惑う。


「……確かにルトリーちゃんの言うとおりだよな、子供を傷つけてしまったのは事実です」


 こいつもあたしのこと知ってるんだ。

 知らないうちに有名人になってるのって、なんだか気味が悪い。


「謝罪だけで足りないってんなら多少は金も払おうか?」

「そういうのはいいわ」

「では、貸しイチということで。今度会った時にでも返すわ」


 そう言って、ストールは部下2人の首根っこを掴み、引きずりながら去っていった。

 貸しイチって、悪徳ギルドにそんなもの作ったって嬉しくないっての。

 しかも……結局、あのよくわかんない口調は意味不明なままだったし。

 まあいいや、今はサワーをサーラの元に送り返すことを優先しなきゃ。


「サワー、もう大丈夫だよ。一緒に帰ろ」


 しゃがみ込み、彼女の手に手を重ねる。

 人肌の温かさって、追い詰められた時に感じるとすっごく勇気が湧いてくるので。

 あたしはサーラのおかげでそれを知ってるから、サワーにも同じことをしてあげたいと思う。


「おねえちゃん……ありがと」

「どういたしましてっ」


 そんなやりとりの後、サワーはようやくあたしの手を自らの意志で握ってくれた。

 その手を引っ張って一緒に立ち上がると、空いた方の手にハイドラが自分の手を重ねてくる。

 んっふふー、嫉妬かなぁ?

 本人に自覚は無いみたいだけどね。

 結局、あたしはそのまま2人と手を繋いだまま路地を出た。

 大通りを歩いていると、周囲から時折「くすくす」という笑い声が聞こえてくるけど、恥ずかしいどころか、あたしはむしろ誇らしい気分になるのだった。




 ◇◇◇




 その日の晩、あたしは久しぶりに孤児院に泊まることになった。

 言っておくけど、あたしがねだったわけじゃない。

 サワーがどうしてもって言うから、仕方なくだ。

 孤児院の経費に余裕が無いことは知ってるし、ハイドラが食べる量は洒落にならないし、さすがに自分からは申し出ないって。


 結局、サワーは寝付くまであたしにべったりとひっついていた。

 って言うか、今もあたしの腕に絡みつくみたいにして寝息立ててたり。

 孤児院に戻ってからは元気を取り戻してたけど、やっぱりまだ恐怖からは立ち直れてないみたい。

 あんな首を切り落とせそうな剣を突きつけられたら、サワーじゃなくたって誰だって、ね。

 ちなみに食事を経て9歳児ぐらいになったハイドラは、サワーと別の腕に絡みついている。


「今日はありがとね、ルトリー」


 みんなが寝付いた頃、布団の上でさらに多くの子供達に絡みつかれたサーラがあたしに向けてそう言った。


「どういたしまして。結局、漆黒の葬送団のリーダーとやらに助けられちゃったけどね」

「でも、それもルトリーが助けに向かってくれたおかげだよ」

「じゃあ素直に”どういたしまして”って言っとく」

「そうしておくれ」


 口ではそう言いつつも、やっぱりもやっとしちゃう。

 ストールのこともそうだし、悪意の種についても。


「フレイヤさんが居なくなったら、悪意の種を浄化出来るのは一部の修道女だけ、なんだよね」

「そういうことになるねえ。しかも浄化スキルを持つのはごく一部の人間だけだ」

「取り合いになりそう」

「早いところはもう動き始めてるのかもしれないね」


 シスターを巡っての国同士の争奪戦、か。

 周囲を侵略して領土を広げてるドライネイト帝国あたりはすごく手が早そうだ。

 ここリレーン公国と隣接するシャイモア公国とフォリス王国もどう動いてくることやら。

 願わくば、この田舎町が巻き込まれないのを願うばかりだ。


「スタンピードに、悪意の種、巨大なモンスター――」

「どれもフレイヤさんが居たらすぐに解決してくれる問題ばっかりよね」


 サーラは静かに頷いて、少し間を開けてから言った。


「私はね、時折こう思うんだ。まるでこの世界は、フレイヤが居ることを前提に作られたみたいだ、ってさ」

「どういうこと?」

「……この世界の主役はフレイヤで、私たちNPCなんて、所詮は付属品に過ぎないんじゃないかってことさ」


 それは、違うと思う。

 フレイヤさんが消えたってあたしたちはここに生きていて、世界は確かに存在してる。

 それが何よりの証明だよ。

 そりゃあ、フレイヤさんが居なくなって、寂しくはなったし、不便な所も増えてくると思う。

 でも、生きていけないわけじゃない。

 付属品なら、あたしたちだってとっくに消えてなくちゃおかしいんだ。


「そんなネガティブな発言、サーラらしくもない」

「……ふ、それもうそうだねえ、すまなかった」

「色々あって疲れてるんだよ、サーラも早く寝ちゃいな」

「わかったよ」


 以降、あたしたちの会話は途切れた。

 静かな部屋に、呼吸音だけが響く。

 正直に言うと、サーラの不安は理解できないでもない。

 フレイヤさんに比べて、あたしたちはあまりに無力だ。

 勇者たちを失った世界は、これからどうなってしまうのか――

 柄にもなくそんなことを考えて、勝手に気持ちが落ち込んで。


「……らしくないな、あたしも」


 さっきサーラに言ったばかりの言葉を自分に投げつけて、あたしは考えるをやめた。

 どうにかなるよ、きっと。

 どうにかならなくても、その時になれば解決策だって見えてくる。

 悩んで苦しむのは、何かが起きてからでいい。

 だって……今までだってあたしは、そうしてこの世界で生きてきたんだから。






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