8話 始まる夏休みと不安再び
卓が瑠里から渡された紙を貰って翌日。
「夏休みだからって明日から学校なのよ! いつまで寝てるの?」
一階から聞こえたその声で目が覚めた卓。卓は目を擦りながら携帯の時間に目を向けた。
『十一時半』
いつの間にか眠ってしまい、こんなに寝ていたのかと卓は不思議に思った。起き上がり一階へと足を運ぶ。起きたばかりで寝ぼけているのだろう。途中、階段で足を踏み外そうになった。
そのままリビングに向かうと、テーブルには食事が一人分用意されてあった。誰の人気もない。卓はぼーっと一人リビングに繋がる扉の前で立っていた。頭の中を整理している。
「なに、ぼーっと立っているのよ」
突然、卓の後ろから声がした。卓が振り向くとそこには美琴が不思議そうに見ていた。
「あ、おはよう」
卓はそう言って、その場を後にしようとどこかへと向かう。
「あれ、食べないの?」美琴は問いかける。
「顔を洗いに行くからあとで食べる」
卓は答えてその場からいなくなった。
数分後、卓は食事を済ませ自分の部屋へと向かった。目はすっかり覚めていた。
*
「はい、もしもし」
携帯電話の向こうで聞き慣れた声。
「もしもし、輝か? 俺だけど」
卓はその聞き慣れた声に呼び掛けて、話し始める。早速、瑠里から貰った紙に載っていた輝の自宅に電話を掛けていた。親ではなく、輝が出たことに卓は少し驚いた。
「あ、もしかして卓か? どうした? というよりなぜ俺の家の番号知っているんだ?」
輝は突然の電話に驚いていたが、教えてもいない番号に意外な人物から電話が掛かってきたのか不思議に思った。
「昨日、瑠里に情報交換のためにってこっそり教えてもらって、思わず掛けてみた」
「なるほど。そうだ! 今から俺ん家に来れるか?」
輝は納得した後、少しの間を置いて急な言葉を口にした。
「お、おう」
「じゃあ、一時間後によろしく」
卓は電話で輝と短いやり取りした後、輝の家に行く準備をした。
(またか。急に呼び出されてばかりだな)
不意に卓は心の中で呟いていた。
「で、ここはどうやって解くの?」
「それはだな」
午後四時半、外は日が沈み始める頃。あれから卓は輝の家に行っても、ほとんど話せていない。輝の家には瑠里もいて、課題を手伝ってほしいと輝に助けを求めていたらしい。
ちょうどそこに卓が電話をしてきたのをいい事に、手伝ってもらおうと今に至る。そうこうしている内にも時間は過ぎていく。
「あのさ、俺たち時間が戻っている日々を過ごしているだろ? そんなのは気にしなくていいんじゃないか?」
『え?』
輝と瑠里が課題に集中している中で卓がその集中を遮るように声を出した。二人は卓のほうを振り向いて驚きの言葉を発した。偶然にもその声は重なった。
一瞬、静まり返る空気。
「だから、時間が戻っているのにそんなのは気にしなくても、」
卓がもう一度繰り返そうと言葉を続けようとした時だった。
「なに言ってるの? 夏休みが終わるから頭が?」
「そうだ。第一に時間が戻っているってどうかしてるんじゃないか?」
二人に言葉を遮られては心配な眼差しを向けられていた。
(え? どういう事だ。戻っている事を忘れている?)
「昨日って学校だったよな?」
卓は二人の反応に困惑しつつも確認をするように問いかけた。
「本当に大丈夫か?」
「もう帰ったほうがいいんじゃない?」
「そうだな。よし、解散! また明日学校で!」
しかし、再び心配され最終的に解散になってしまった。仕方なく卓は言う通りに解散し帰ることにした。家に帰る事になった卓は帰る途中、あの時と同様にある不安が頭に過ぎった。
逆戻りしている日々を送る同じ状況の二人と情報交換する事に安心感を覚えていた卓。だが、その安心感がさっきの出来事で安心感から不安へと変わった。逆戻りしている事を忘れていた。
もしかしたら、一時的な出来事かもしれない。そう自分自身に言い聞かせながらとぼとぼと歩き、卓は家へと帰っていった。その出来事が嘘だとも知らずに。
それともう一つ。この後、予想もしてない事実を知ることになるとは卓は思っていなかった。
こんばんは。いかがだったでしょうか?
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次話更新予定は9月2日の土曜日です。※変更の可能性有ります