7話 夏休み前の集まりに
卓の友人である輝と瑠里が協力者となってから少し経った日の事だった。九月初め、普通なら長い夏休みが終わった頃。逆戻りの日々に慣れ始めている卓はもうすぐで夏休みが始まると心の中で喜んでいた。
「なあ、卓。夏休みに入るよな。俺たち情報交換も出来なくなるよな。どうする?」
卓がちょうど移動教室前の休憩時間に廊下を歩いていると、不意に輝が卓の後ろから声を掛けた。
「うわ! 急に現れると驚くだろ。何か連絡取れる手段があればな」
卓は声のするほうへと振り向く。そこには輝の姿があった。一度は驚いたが、輝の問い掛けに表情を変え、考えつつも答えた。何をそんなに考える必要あるのかと思うが、逆戻りしている日を過ごしている卓は同じ状況の輝と瑠里に携帯でメッセージを送れない。この何日か学校で情報交換してきたのだが、これから夏休みに入る期間はどうしようかと手段を考えなくてはならない。
「悪い。卓が見えたから今のうちにと思ってな。休みの間、瑠里と一緒に定期的に集まるとか出来たらな。でも、瑠里のやつ確か家族旅行に行くって言ってたしな」
輝は謝ったかと思うと、思い出したように話し始めた。
「そうなのか。そうすると、」
卓が続けようとした時だった。
「おーい! 卓、なにしてんだよ。移動だろ。つーか、輝がなぜここにいるんだよ。瑠里がお前のこと、探してたぞ?」
突然、卓と同じクラスの昂が現れて移動教室へと急かす。輝は言葉に出さずに無表情だったが、卓のほうを見て何か合図をするような視線を送ると、直ぐにその場を立ち去った。合図に応えるように軽く頷いた卓は昂と目的の教室へと歩き始めた。
辺りには卓が見覚えのあるクラスメイトが同じ方向へと目指している者もいたが、別のクラスの人達が大半を示していた。卓と昂が教室に向かっている最中。
「そういえば、卓って最近では輝と瑠里と一緒に多くいるよな? よく分かんないけど仲良いよな」
不意に昂が予想もしていないことを話すと、なぜだか羨ましそうに横目で卓を見ていた。
「まあな。それより、昂って稀に告白しないのか?」
軽く答えるように相槌を打った卓だが、話を逸らすように問いかける。付き合い初めたはずの昂と稀は今は付き合う前に戻っている事になる。念のため、確認しようと卓は聞いてみることにした。
「は?」
驚き大きな声を出す昂。
「す、するわけないだろ!」
そして、分かりやすい言葉に分かりやすい表情をする。
「そうか、」
昴の反応になぜか呟くように言葉を零した卓は一つ溜め息を吐いた。そうしているうちに数分で移動教室にたどり着く。少しだけ気まずさが残ったまま、二人は授業を受けるためにそれぞれの席についた。
時間はいつしか夕暮れ時になっていた。卓たちが通う凪東高校の駅前の商店街では夕飯の買い物にと主婦が少なからずいた。中には子どもを連れている親達もいた。そんな商店街にあるファーストフード店に卓とその友人たち含め計五人が集まっていた。
「夏休みが終わっても課題が終わらないってどういう事だよ!」
「私も手伝うよ」
そう言っているのは昂と稀。二人とも難しい顔をして課題とにらめっこしている。そんな様子を見ていた他の三人。
「明日から休みだよね」
「そうだな」
輝と瑠里が誰にも聞こえないような声でこそこそと話をしていた。
「そういえば、輝たちは課題終わったのか?」
突然、昂が顔を上げて問いかける。
「終わった」
「俺たちも終わったよな?」
「う、うん」
昂の言葉に卓と三人はそれぞれ口にしたが、実際には逆戻りしている三人は課題を持っていなかった。そのため、目の前のテーブルに課題があるはずがなかった。
「いいよな。教えてくれよ」
昂が羨ましそうにして頼んだ。卓は首を縦に振ったが、瑠里は納得していないような顔を向けた。
数分後、辺りは既に暗くなっていた。五人が別れてそれぞれ帰ろうとしていた時だった。
「これで、取り敢えずはなんとかなるか」
卓は制服のポケットからあるものを取り出して内心嬉しそうな気分だった。それは、さっき集まった時に瑠里にこっそり渡されたノートの端を切り取った紙だった。
そこにはこう書かれていた。
『明日から私たち三人は夏休みだよね。私は家族旅行で留守にするけど、輝と情報交換するために輝の自宅に電話してみて』
文章の後に電話番号が続けてあった。なぜ、輝じゃなく瑠里に渡されたかは謎だった。
その後、卓はその紙切れをポケットに戻してそのまま帰宅した。不安と期待を胸に家へと向かった。
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次話更新予定日は8月26日土曜日です。※更新は変更有り
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