5話 久々の休日と衝撃の事実
翌日の日曜日、卓にとっては久々の休日を迎えた。なぜなら、週末に時間が戻って二週間の平日を過ごしたからだ。
「やっと、休みか。いつかはいつもの時間に戻らないだろうか」
卓は休日の解放感を味わった。同時に時間が戻る日々に不安を感じていた。皆には変化がない様子に自分だけ取り残された感覚にもなった。
「仕方ないか。まだ一週間しか経ってない。少しずつ何か手がかりになるものを探していけば」
卓は冷静になって考え、自分に言い聞かせるように呟いた。直後、卓の携帯が鳴った。卓は携帯を確認すると、ある人からメッセージが届いていたことに気付いた。
『今日休みだろ。ちょうどいい、時間が戻った事の話を詳しく聞かせてほしい。一時間後に俺の家に来てくれないか?』
卓は珍しいメッセージに一瞬驚いた表情をした。しかし、直ぐに我に返り『分かった』だけの文字を打ち、返信をした。それから、時間を確認する。午前十時。一時間であの人物の家に行くには充分すぎる時間。
(少し早めに準備しようか)
卓は心の中で独り言を呟くと、自分の部屋の扉を開けてリビングに降りようとしたが、ある光景が目に入った。日曜日のこの時間にしては珍しい人物が玄関で靴を履いていた。
「あれ、学校休みだろ。どこに?」
卓が言うと、その声で武が振り返った。玄関に居たのは武だった。
「友人と」
その武の言葉に卓は不思議に思った。
(友人とこんな朝早くから会うなんて今まで聞いたことがなかったような)
卓がそんなことを考えている内に玄関の扉が閉まろうとしていた。
「あ、待てよ」
扉が閉まる前に声を掛けた卓だったが、その言葉は武には届かなかった。卓は諦め、ある人物の家に行く支度をし始めたのだった。
数分が経った。
「それじゃ帰り際に買い物よろしく」
卓はなぜか美琴に買い物を頼まれてしまった。休日は両親が病院勤務で家にいない。代わりに卓の姉の美琴が夕食を作ってくれている。夕食のためならこれもまた仕方ないといったところだ。卓は家を出て約束していた場所に向かった。
暫くしてたどり着いた場所。そこは輝の家の前だった。住宅街の中の二階建ての一軒家。卓の家と比べると広さはあまり変わらない。電車で二十分ほどの距離。メッセージが来た相手は輝からだったのだ。卓がインターホンを鳴らそうとした時だった。
「え、卓? どうしてここにいるの?」
「俺が呼んだんだ。瑠里、悪い。もう少し付き合ってくれないか? 大事な話があるんだ」
「分かった」
不意にドアが開き、家の中から輝と瑠里が出てきた。ちょうど帰ろうとしていたのだろうか。瑠里は輝と話をすると、再び家の中へと戻っていった。
「卓も早く。大事な話がしたいんだ」
卓が家の前で動かずにいると、その様子が気になったのか輝は手招きをしながら呼び掛ける。卓は頷くと、招かれるままに入っていった。
「それで、卓がこの前時間が戻っているって話だけど」
三人は輝の部屋で少しの間、寛いでいた。すると、輝が話を切り出した。
「え、それってまさか」
言葉を聞いた瑠里が目を丸くしていた。
「本当なのか?」
話を続けようと輝は真剣な顔をしながら卓に問いかける。
「本当だ。それが何か? 待て、まさか」
卓は思い出した。自分が時間が戻り始めた日を。あれは卓にとっては一週間前の事だが、過ごした日が違うならば一週間後の事だ。来週の金曜日、正確には五日後のこと。今日は時間が巻き戻った一回目の日曜日。
みんなが普通に変わりなく過ごしていれば卓が言った『時間が戻ってる』ことは記憶にないはずだ。だとすれば……。
「そう、俺たちも時間が戻ってるんだ。もう一ヶ月は過ぎている」
その言葉に場の空気が一瞬で変わった。
「俺たちも?」
卓は輝の言葉に疑問を抱いた。
「私も、なんだ」
少しの間を置いて瑠里が頷くように言う。卓は混乱していた。
(まさか、二人も? しかも俺よりも前から?)
「く、たく、卓ってば!」
卓は不意に瑠里が自分のことを呼んでいる事に気付く。
「急に悪い。俺たちの言う事に困るよな。でも、本当なんだ。信じてくれ」
再び輝が真剣な表情で話して卓のほうを見る。真っ直ぐな目だ。
「そんなこと言われてもな。巻き戻されている原因は分かるのか?」
すると、輝は無言で首を横に振る。瑠里は頭を俯かせていた。その二人の姿をみて卓は戸惑った。二人を信じていいのだろうか、と。
『時間が巻き戻されている』だけでも不安なのに原因が分からないこの先、何か見付かるかも分からない不安をも卓の頭の中でぐるぐると回っていた。
またも土曜の更新の予定が日曜日になってしまいましたが無事更新できました。
次話更新予定は8月12日の土曜の予定です。
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