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エピローグ

「やっと全て思い出した。もし、この今の状態が戻れる前の現象だとしたら、」

 (たく)がその言葉を呟いてから数日後の夜。卓は一日を終えて、ちょうど眠りにつこうと横になっていた。

(まだなのか。いったい、いつになったら戻れるんだ。憂のことは全部思い出したはずだ)

 目を瞑っていたが、心は落ち着かつかず、眠りにつけなかった。徐々に心の中で不安が募る。卓は不安を胸に、ふと反対側へと向きを変えた。刻一刻とその時は迫ってくるように掛け時計のカチコチと音を刻む中、自然と眠りについた。


 翌朝、それは突然やってきた。

「卓、学校でしょ」

 突如、卓の耳に届いた。というよりも起こされたと言ってもいいだろう。

(なに、言ってるんだ? まだ夏休みだろ)

 卓は目を開いているものの、冗談だと思い再び寝始めた。だが、卓の眠りを妨げるように部屋に足跡が近付いてきた。

「いつまで休日の気分なわけ? 遅刻するわよ」

 突然、部屋の扉が開いて、美琴(みこと)が機嫌悪そうに卓に向かって言い放った。

「は? なに言ってるんだよ。まだ夏休みだろ」

 美琴の言葉に理解出来ない卓は顔を顰める。美琴はいっそう機嫌悪そうにした。それがだんだんと険しい顔つきになる。

「夏休み? 何月だと思ってるの! 学校に遅れても知らないから!」

 そう言い捨てて美琴は部屋から去ってしまった。美琴が去った部屋は再び卓独りになる。寝起きのせいなのか、ぼーとしていた。かと思えば、そんな事はなかった。早朝にやけに耳に響く姉の美琴の声で起こされる。おかげで卓の目はすっかり覚めてしまっていた。

「え?」

 不意に卓はある事に気付く。

『やっと全て思い出した。もし、この今の状態が戻れる前の現象だとしたら、』

 自分の言葉に何かを察した。

「まさか、な、」

 苦笑いで呟きながら、携帯を恐る恐る見ようとする。携帯画面を開き、あるものが卓の目に映った。そこには驚愕の事実があった。日付があの日、つまりは逆戻りになる前までに戻っていたのだ。とはいったものの戻る前は土日になろうとしていた金曜日。今日の曜日は月曜日。だとすれば、土日はどうなってしまったのだろうか。

「うわ、やばい。こんなことしてる場合じゃないな!」

 時間を再び確認すると、卓は急に慌て出した。時計の時刻が既に八時を回っていたのだ。一週間の始まりを遅刻で始まりたくないと思いつつ、卓は急いで学校に行く準備を済ませた。


 暫くして、卓は無事に学校に着いた。時間はギリギリだった。

「珍しいね」

「でもセーフだったから良かったじゃんか!」

 卓が教室に着くと、(まれ)(こう)が笑いながら口々に言う。二人の言葉に卓は不服そうな顔を浮かべて溜め息を零した。

「嫌そうにするな。遅れてないだけマシだろ」

 溜め息を零す卓を見て、(てる)が苦笑いした。ちょうどそこで予鈴が鳴り、それぞれが自分の席や教室に戻っていった。終始、瑠里(るり)が無言だったのが気にもなった卓だったが、友人達は卓の登校に気付く筈もなかった。

 時間は過ぎていき、放課後。少しの間、皆で教室で集まると残る事にしていた。

「やっと、終わった! みんなでカラオケに行こうぜ!」

「なに、呑気なことを言ってるんだ。昂は進学するんだろ。受験勉強しろ」

「なんだよ! たまに息抜きぐらいしたっていいだろ」

 男子達の会話はなにやら三学年らしい話をしている。部活も三年になると、既に引退している時期。とはいっても卓と友人達は部活に入っていなかったため、関係ないのだが。しかし、卓はその会話には入れなかった。望んでいたはずの日常。来ると分かっていたのにも関わらず、いざその日常を目の前にすると、頭の中が真っ白のように上の空状態だった。

「おい。卓、聞いてるのか?」

 突如、自分を呼ぶ声が卓の耳に聞こえてきた。

「え?」

 呼び声に卓は気の抜けた返事をした。卓の返事に友人達はやれやれという表情を浮かべる。昂が一つ溜め息を吐いて口を開く。

「みんなで勉強会しに行くぞ!」

 なぜか、昂はさっきのカラオケの事を忘れたように張り切ったような声を出した。それでも卓はきょとんとしていた。

「なんて顔してるんだよ。ほら行くぞ」

 きょとんとする卓の顔を見て、昂は卓の肩をバシッと叩いた。当然のように叩かれた卓は少しの痛みを感じ顔を歪める。友人達はそんな事も気にも掛けず、昴の声を合図に座っていた椅子から立ち上がり、その場を離れようとする。

「おい、置いてくなよ」

 一歩出遅れた卓は慌てて追いつこうとする。その背が窓から映える夕日に照らされていた。

(ゆう)が居れば良かったな」

 卓はふと呟く。

「やっと、戻れたんだね」

 卓の呟きに答えるかのように小声で呟く人物が居たが誰も気付いてない様子だった。言葉が聞こえたのはただ一人、卓。卓は疑問に感じたが、気のせいだと思い前を向いた。


 忘却の中で-end-

作者のはなさきです。

これにて『忘却の中で』は完結です。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

また多くのブックマークや評価ありがとうございました。

今後も増えればいいなと思ってます。


拙い文章での長編は初めてだったのですが完結出来た事に自分の中では一先ずというところです。

まだまだ足りないところがあり色んな作品を読んで勉強しなければいけないと感じました。


ここでエピローグに触れますが、最後の言葉をつぶやいたのは誰だったのでしょうか。

どこかにヒントがあるので良ければ見つけてみて下さい。(ヒント有りまくりだと思ってます。)


もしかしたら、番外編があったりなかったりすると思います。

好評でしたらする可能性が高く本編とは違った視点で書いていこうかなと思います。


あとお知らせです。

8月中旬頃に新連載を始める予定です。

新しいジャンルに挑戦します。

詳細はTwitterにてお知らせします。

良ければ今後も暖かく見守って頂けると幸いです。


ではまた次作まで。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先が気になる意外な展開の連続だったので、楽しく一気に読ませていただきました。 主人公にとっての時間が戻り続ける設定がとても面白いと思いました。未来を変えられるわけではないので、卓が何をして…
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