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54話 目の前の光景と予期

「やっと着いたな」

「そうだな」

 (てる)瑠里(るり)から電話を貰って数十分が経った頃、やっとの思いで(たく)と輝は(ゆう)が運ばれたとされる病院の前に着いた。既に外は暗くなり、病院内から明かりが眩しく照らしている。二人はそれぞれ呟きながら、その病院を見上げた。

 その病院が妙に大きく見えたのは気の所為だったのかもしれない。しかし、そんな事も考えていられない。卓は憂の状態が気になり、直ぐに病院の中へと足早に入っていった。

「お、おい。待てよ」

 卓が先に進むと、輝がそれに気付き追いつこうと卓の後を追った。卓の予想していた事がこの先にあろうとしても戻ることは出来ない。

「おい、卓。待てと言ってるだろ」

 輝が追いつけないような早足で、卓は病院内の中でも輝の一歩先を歩く。輝はそんな卓を止めようと必死に呼び止める。

「どんな状態になっていようと行ってやらないと、」

 卓は運ばれた憂の状態がまるで分かっているかのような言葉を口にした。それもそうだ。時間が戻っている日々を過ごしてきて、憂がどうなるか知っているからだ。しかし、記憶が無くなっている所為でそれがどういった経緯で失ったのかは分からなかった。今は分かっていても、嫌でも受け入れなければならない。憂のために。その気持ちが卓の気持ちを焦らせた。

「焦るのは分かるが、」

 輝がそう言って再び卓を止めようとした時だった。二人の視界に瑠里が映った。

「......」

 瑠里は無言のまま二人を見つめた。

「瑠里、悪い」

 瑠里を見るや否や輝が謝る。次の瞬間、瑠里はそのまま輝に抱きついた。

「ゆ、憂が、」

 涙ぐんだ目で絞り出した言葉が二人の耳に届いた。輝がなんとか落ち着かせようとする。

 数分後。瑠里が落ち着きを取り戻し、卓と輝は憂がいる場所へと案内された。途中、大きな待ち合い室にまだ外来に来ていた人達が何人かが座っていた。しかし、時計は既に受付の時間は終わっている時間だったため、ここで待っている人は終わるを待っているのだろう。時間が押すほどに評判の良い病院なのだろうか。そんな事が視界に入った卓はどこか気を紛らわしたい気持ちだった。それほどまでに卓は追い詰められていた。

「おい、卓。こっちだぞ」

 不意に輝が卓を呼び掛ける。卓は気付けば、知らないうちに向かうべき方向から逸れていた。気を取り直し憂の元へ。

「そ、そんな、まさか、」

 憂の元に辿り着いた三人。卓は憂の姿を目にすると思わず声が出てしまった。普通なら声も出ない衝撃のはずなのだが、予想していた事が目の前で起こった。

 憂は横になっていた。ただ横になっているだけではなかった。顔に布を掛けられていた。憂は亡くなっていた。その周りでは見覚えのある女性と男性がすすり泣いていた。すすり泣いているのは憂の両親だった。

 暫くして憂の両親は顔を上げると卓たちに気付き軽く会釈をした。それに応え、卓たちも会釈を返す。その後、卓たちは憂の遺体に向かって黙祷をした。

 それからの卓は頭がほぼ真っ白な状態が多く、その場の成り行きで事を済ませ一日を終えたのだった。


 翌日。卓は目覚めると、昨日は思い出したくもない日だったのだが、思い出そうとした。思い出すと、あれは夢ではなかったのだと認識する。卓は起き上がり、自分の部屋を出た。そのまま寝ぼけ眼のままに下の階に降りようとした。その時、ある事に気付いた。いつもなら美琴あたりが居てもおかしくないこの家に、卓は少しの不気味さを覚えた。その理由は、物音一つしてもいい家が今は人の気配が全くしないほどに静まり返っていたからだ。

 卓はゆっくりと階段を降りる。キッチンまでくると、冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注ぎ飲み干す。ふとキッチンのテーブルに朝食とメモが卓の視界に入った。メモにはこう書かれていた。

『卓へ 朝食です。食べてね。母より』それは美琴(みこと)ではなく、意外にもほとんど家に居ない母親からだった。

「珍しい、な」

 その光景に思わず小声で呟いた後、少し考える仕草をした。

「おーい! (たけ)兄いるか?」

 何を思ったのか卓はキッチンから廊下に顔を出して二階に向かって突然大きな声で兄の名前を呼んだ。しかし、返答が無く依然として家の中は静まり返っていた。

 誰も居ない家に独り取り残された卓は混乱も困惑もせずにキッチンに戻る。テーブルに置いてある朝食を食べることにした。独り取り残された気持ちは逆戻りの日常で慣れてしまったせいで寂しさはなかった。

 卓は朝食を食べ終えると、どこに出掛けるわけでもなく、自分の部屋に戻ってほぼ部屋に閉じこもるかのように一日を過ごした。

「やっと全て思い出した。もし、この今の状態が戻れる前の現象だとしたら、」

作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。

変わり果てた目の前の憂の姿に卓はショックを受ける。そして、誰も居ない家。

卓は冷静になり今までの状況から予期するまでに。言葉通りに無事に元に戻れるのだろうか…

✩今回は前回に引き続き夏休み中なので8月です。(中旬あたり)


突然ですが(予告してました)、次回は最終話【エピローグ】の予定です。

良ければ最後までよろしくお願いします。

もし何か気付いた事があればこちらもよろしくお願いします。

次話更新予定日は来週7月29日(日)午後の予定です。※予定変更の可能性あります。

良ければご感想、評価、ブックマーク、アドバイスなど頂けると嬉しいです。

では、またの更新を。

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