53話 惨劇の後
卓とその友人達が祭りに行く道中。ちょうど卓達が横断歩道を渡ろうとした時だった。それは不意に誰かが声を上げた直後でもあった。ドンという何かと何かがぶつかる大きな衝撃音が聞こえた。しかもそれは卓の後ろで。卓は何か嫌な予感がするも後ろを振り返った。すると、そこには血を流している憂がいた。
「憂? 憂!」
卓はあまりの光景に頭が追いつかなかったが、ハッと我に返り、憂の元へと走っていった。前を歩いていた友人達も卓の声に振り返り、事の惨劇を理解した。
「え、憂?」
「ヤバく、ないか?」
真っ先に瑠里が憂の名前を呟くと、輝も状況を理解し呟いていた。だが、卓の行動と同じく瑠里は輝の言葉も聞かずに憂の元へと走っていった。
「おい!」
輝は瑠里が走っていく姿に呼び止めるように大きな声を出したが、瑠里には届かなかった。
十分くらい経つと、救急車と警察が到着していた。どうやら、車が青信号の横断歩道に突っ込んだようだった。運転手も所々怪我をしているが、意識があり命に別状はないらしい。一方、その車に轢かれたと思われる憂はというと、血を流し倒れていて意識を失っていた。
救急車が到着すると、直ぐに救急隊によって救急車に運ばれた。その付き添いに憂の恋人でもあり、友人でもある卓をと言われたが、卓はあまりの衝撃にそこから動けなかった。代わりに親友の瑠里が付き添う事になった。事の惨劇の始終が一旦落ち着いても尚その場に残った友人達。その友人達は意識不明の憂と付き添いの瑠里を乗せた救急車を見送った。
「いいのか?」
見送る途中、目線は救急車のまま輝が卓に声を掛ける。その言葉に卓は言葉を発さなかった。
「俺、稀を家に送っていくわ」
唐突にそう言うのは昂だ。
「こんな状況で帰るの悪いと思うけど、」
「そんなの気にするなよ。な?」
稀が申し訳なさそうな表情をして言うと、昂が輝に振るように答える。
「ああ、気にするな」
輝が首を縦に振りながら言った。
「ありがとう」
二人の言葉に稀は感謝し、昂とその場から立ち去った。その場に残っている卓と輝。あの惨劇を目の当たりにした二人。気不味い雰囲気になるかと思われた。
「この後、瑠里から連絡くると思うから、そしたら憂が運ばれた病院に行こう」
「わかった」
それだけの会話で卓にとっては気不味さが少し無くなったような気がした。あの憂がどうなるか頭の片隅で分かっていたが、無事を祈りつつそれまで待った。
それからどのくらい経っただろうか。突然、輝の携帯に着信が入った。瑠里から電話が掛かってくると分かっていても、突然の着信に鳴った携帯の持ち主の輝は驚いた。
「もしもし、瑠里か?」
『……』
電話に出た輝だったが、返答がなかった。
「もしもし。大丈夫か?」
再び輝は電話の向こう側に呼び掛けるが、雰囲気に何かを察したのだろうか心配し始める。
『ゆ、憂が、』
瑠里の声が電話越しに聞こえてきた。
「分かった。大丈夫だから落ち着け。今から俺と卓でそっちに行こうと思う。大丈夫か?」
「う、うん。場所は、」
「分かった。ありがとな。なるべく早く行くからな」
瑠里の声が卓にも聞こえてきたが、少し涙ぐんでいる気がしたのは気のせいだろうか。瑠里を落ち着かせようと輝が言葉を掛けながら話を進める。瑠里もそれに応えるかのように落ち着きを取り戻しつつ輝の言葉に耳を向ける。会話はものの数分で終わった。
「卓、今から瑠里と憂の元に、」
輝が電話を終えて卓のほうを振り向き、声を掛けた時だった。輝は卓の様子を見ると、言おうとしていた言葉が途切れた。何が起きたのだろうか。卓は俯いて目を拭っていたのだ。
「大丈夫、じゃなさそうだよな。明日にするか?」
輝が気を遣って日を改めるように提案したが、その言葉に反応して卓が顔を上げた。
「悪い。今、行こう」
卓は再び目を拭い、気を落ち着かせて首を横に振りながら言葉を発した。
「ああ」
卓の言葉に輝は相槌を打った。それから、二人は憂と瑠里がいる病院へと向かった。外が薄っらと暗くなる中、浴衣姿のままで。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。
卓は思いも寄らない出来事で衝撃を受けてしまう。衝撃が大きすぎて救急車の中の憂に付き添えなかった。
しかし、輝に病院に行こうと言われ憂に会いにいく。そこで目の当たりにした憂の姿に…
✩今回は前回に引き続き夏休み中なので8月です。(中旬あたり)
前回も知らせましたがあと数回で終わる予定です。
何か気付いた事があればよろしくお願いします。
次話更新予定日は来週7月22日(日)午後の予定です。※予定変更の可能性あります。
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では、またの更新を。




