52話 呼び起こされる記憶の警告に
数分前、卓と憂の二人はお祭りに行くために夕日に染まりながら駆け出していた。とはいっても、その前に卓と憂の友人達と待ち合わせしている場所へと行くことにならなければいけない。二人はさっきまでとは違って駆け出さずに歩き始め、集合場所へと向かった。
「お祭り楽しみだね」
「そうだな」
二人の会話はぎこちなかった。
「も、もうすぐ着くんじゃないか」
「そうだね」
卓が言うと、憂は軽く相槌を打った。卓の顔が少し赤くなっていた。それは憂も同じで照れるように赤らめている。その理由は卓と憂は手を繋いで歩いていたからだった。
次の瞬間。卓と憂の手は離された。
「痛っ!」
突然、卓の頭に強い衝撃を喰らうような激しい頭痛が襲ってきたのだ。直後、頭に何かの映像が流れこんでくる。車が憂の直ぐそこまで迫りこんできたかと思うと、憂にぶつかり憂が血を流して倒れていた映像だった。たったそれだけのことが卓の身に起こったが、卓にとっては思いも寄らない出来事に不安になった。
「卓、大丈夫?」
「え?」
卓を心配する憂の声に卓は我に返った。卓は自分がしゃがんでいる事に気付いて立ち上がろうとしたが、眩暈がして倒れそうになる。それを察した憂がすかさず卓の手をとる。
「大丈夫?」
再び憂は卓に心配そうにして声を掛ける。
「ああ、ごめん」
卓は咄嗟に謝った。歩き出すと、憂も歩き出した。そうして、二人はもうすぐで着くであろう友人達の元へと歩き続けた。憂が心配の目を向けていたのに卓は気付かずに。
数分後、卓と憂は友人達と待ち合わせている場所へと辿り着いた。二人は集合時間より少し前に着いたのにも関わらず、友人達が先に来ていた。
卓は友人達の姿を見ると、全員揃いも揃って浴衣を着ていたことに目を丸くして驚いた。お祭りに行くのだから当然だと思うだろう。だが、全員が浴衣だとは思いもしなかった。しかも友人達が着ている浴衣にどれも似合っているなと卓は感じた。
「やっほー! やっと来た来た」
友人達が卓と憂の姿を目にすると、昂が第一声を発した。
「やっと、ってまだ集合時間前だろ。それより、昂も来ているとは意外だな。驚いた」
「失礼な! それはどういう意味だ!」
昂の言葉に卓は思った事を口にする。昂は顔を顰めてイラっとしていた。
「落ち着きなって! ほらほら、行くよ!」
昂の様子を見て稀が不意に昂の背中を押して急かす。
「うわ、急に押すなよ」
昂は一瞬転びそうになるも体制を立て直して歩き出す。それが合図かのようにみんなも歩き出した。瑠里、輝は昂たちのやり取りを見て楽しそうに笑みを浮かべていた。ただ卓は不安な表情を浮かべる。
「ねえ、具合が悪いなら帰る?」
憂はまだ卓を心配していた。それも当たり前だった。なぜなら、さっきの事があって卓が無理をしていそうな様子だった。
「いや、大丈夫だって」
「でも、」
卓は大丈夫と言っても、表情が大丈夫だと言っていないと憂は感じたのだ。それでも大丈夫だと言う卓に憂はどこか躊躇った。
「どうしたの?」
卓と憂の様子に何かを察した瑠里が二人のほうを振り向いて問い掛けた。
「いや、なんでもな、」
瑠里の問い掛けに卓が答えようとした時だった。
「卓の様子がおかしいの。さっきここに来る前に頭抱えてたからどこか悪いのかって」
憂が卓の言葉を遮って話し始めた。
「……お祭り行くの、やめる?」
瑠里は少し考える仕草をしたかと思うと、突然ある言葉を口に出した。
「え? 大丈夫だって」
その言葉に卓は憂に言った『大丈夫』という言葉を口にする。
「とても大丈夫そうに見えないよ」
「私も」
「俺も大丈夫そうには見えないな」
卓の言葉に憂、瑠里、輝までもが順に心配そうにして口々に言った。
「本当に無理ならここまで来ないって。それにせっかく来たからには楽しみたいじゃないか」
卓にとっては憂との初めてのお祭り。一緒に来たのにここで引き返したくなかったのだ。
「そ、そうか。なら、何かあったら直ぐに言えよ」
「憂に一番に言うんだよ」
「ああ」
輝と瑠里は卓の言葉に簡単に心変わりしてそれぞれ口にした後、前を向いて先を行ってしまっている昂と稀を追いかけるように歩く。
一方の憂はまだどこか納得いかない様子だった。卓の一歩後ろを歩き下を向きながら、とぼとぼと歩いている。それが不幸を招いてしまったのだろうか。横断歩道に差し掛かったところでそれは余りにも突然のことだった。
「危ない!」
卓が後ろで見知らぬその声を聞いた時だった。ドンと何かと何かがぶつかる鈍い音が卓の後ろで聞こえた。卓は後ろを振り返る。すると、そこには血を流した憂が倒れていた。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。
ギリギリまで執筆していた為いつもより更新遅めになってしまいました。
卓と憂は一緒に待ち合わせ場所に行きみんなと無事合流。後はお祭り会場へ。
しかし、お祭りに行く最中に起こってしまった悲劇。この後どうなるのだろうか。
✩今回は前回に引き続き夏休み中なので8月です。(中旬あたり)
それとこの話はあと数回で終わる予定です。完結まで更新頑張りたいと思います。
何か気付いた事があればよろしくお願いします。
次話更新予定日は来週7月15日(日)午後の予定です。※予定変更の可能性あります。
良ければご感想、評価、ブックマーク、アドバイスなど頂けると嬉しいです。
では、またの更新を。




