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50話 予想外な出来事に

「どうして、そんなに驚いてるの?」

「あ、いや」

 それは僅か数分前の出来事に戻る。(たく)(こう)から皆で集まって課題をすると聞いた。いざ、昂の家に着くと、そこには既に友人達が集まっていた。だが、そこには亡くなったはずの『(ゆう)』もそこに居たのだ。

 卓は逆戻りしている時間を過ごしているのだから、亡くなる前の憂がいつか目の前に現れると思ってはいたものの、目の前に現れると驚きが大きかった。何も前兆も無く突然には尚更だ。過去に皆で集まって勉強、そこに憂もいたという出来事はあったが、思い出す余裕が無いほどに頭の中が真っ白になっていた。卓はあまりの出来事に思考が停止し身動きが出来なくなった。

「分かった、照れてるんだ。彼女が居るから」

「もう、瑠里(るり)ったら!」

「お? 憂も照れてる。可愛い」

「本当、可愛い」

 卓の登場に女子達が楽しそうに会話をしている一方で男子達はしらけていた。そんな空気の中で卓は身動きせず、部屋の出入口に突っ立っていた。それに気付いた(てる)が不思議そうに卓を見る。

「卓、どうした?」

 輝は不意に大きな声で卓に声を掛ける。

「おい!」

 しかし、卓からの返事がなかったせいか輝は再び大きな声で呼ぶ。

「どうしたの?」

 輝の大きな声に気付いたのは卓ではなく瑠里だった。瑠里の言葉に(まれ)と憂も何かを察して男子達のほうを振り向いた。

「それが……」

 瑠里の問い掛けに輝が答えるようにある一点を指差して示した。瑠里が輝の指の先を見る。他の友人もそれにつられて見てみると、そこには卓が突っ立っていた。

「卓、なにしてるの! こっちだよ」

 卓が突っ立っているのを見兼ねて口を開いたのは他でもない憂だった。

「ゆ、憂!」

 憂の声にやっと気付いた卓は名前を呼ぶと、さっきまでの硬直が嘘のように動き出した。

「うわ!」

 卓は我に返り、突然動き出たしたせいで何もないところで躓いてしまった。

「た、卓⁉︎」

 憂は卓の名を呼び慌てたような声を出す。なぜ慌てているのか。それは運が良いのか悪くいのかどちらともいえない、卓が躓きバランスを崩して憂のほうへと倒れたからだ。

「ご、ごめん」

 卓が憂の上に倒れた事を察すると、卓は憂に謝り離れようとした。その時だった。

「え?」

憂は引き止めるように卓を抱きしめて離れようとはしなかった。その大胆な行動に卓は驚いた。

「あ、えっと、ごめん」

 卓は憂の行動に困惑しつつ、なんとか憂から離れた。その瞬間、卓には憂がむすっとした表情に見えた気がした。

「……」

 不意に卓はやけに周りが静かだと悟った。顔を上げて辺りを見渡す。そこに居た友人達がなにやら嬉しそうににやにやと笑っていた。

「なんだよ!」

 卓は友人達の様子に何かを感じて怒鳴るように声を荒らげた。

「いや、な?」

「うん」

「だな」

 卓の言葉に友人達それぞれが納得するように相槌を打った。

「だから、なんだっていうんだよ!」

 友人達の適当な相槌に更に怒鳴る。

「やっぱり二人はお似合いだよ」

「うん」

 今度は瑠里が答えて当たり前のように稀が首を縦に振る。その時、憂の顔が真っ赤になったが、誰も気付かなかった。その後は少しの楽しい会話も数分したが、本来の目的の夏の課題を進めるため、それぞれ真面目に勉強をしたのだった。


 数時間後、外はいつの間にか日が暮れていて勉強も既に終えて解散していた。卓はというと、憂を家まで送り終えて自分の家に向かっていた。家に向かう道中、卓は思っていた。

(まさか、あの憂があんな行動するなんて。思っていたのと違うような気がする。でも、それも明日になれば変わってるかもしれない)

 あの時の憂に驚き戸惑っていた。それはあまりに大胆だったからなのだが、卓の記憶が呼び起こされる憂の印象とは違ったものだったことにもあった。呼び起こされる卓の記憶の中の憂は控えめな性格で自分からは声を掛けない少女のような姿だった。それは嘘だったのだろうか、それともこれが本当の憂なのだろうか、と思った。

 それともう一つ思った事があった。それは逆戻りしている事。明日は今日の前日になる。それはつまり今日起きたことは明日になれば無かった事になるといってもいい。そんな考えが前に進もうとしていることを不安にさせた。

 それから、卓は家に着くと、自分の部屋で少しの時間を過ごした後、夕飯や風呂を早々に済ませた。そして、一日の疲れをとるために早い時間に眠りについた。


「卓! 休みだからって寝てばかりじゃ駄目だよ。起きなよ」

「いいじゃない。寝かせてあげても」

 翌朝、卓は下で美琴(みこと)が呼んでいる声に目を覚ました。卓は目を覚ますと、下で会話をしている声を聞いた。それも構わずに二度寝をしようかと思っていた卓だったが、あまりにも耳に響いたので完全に目が覚めてしまった。

 卓は咄嗟に枕元にあった携帯を手に取り時間を確認した。七時半。休みにしてはまだまだ寝ていられる時間だった。しかし、次の瞬間卓は思ってもいない数字を目にする。

「え? 日にちが戻ってない!」

 前日になるはずが翌日になっていた。

作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。

卓はあまりの突然な憂の現れにつっ立ってしまい想像していた憂の印象に困惑する。

そして、前日に戻るかと思っていたが進んでいた!?卓はどう動くのだろうか。

✩今回は前回に引き続き夏休み中なので8月です。(中旬あたり)

それとこの話でとうとう50話に突入しました!

まだ続くので引き続き『忘却の中で』をよろしくお願いします。

何か気付いた事があればこちらもよろしくお願いします。

次話更新予定日は来週7月1日(日)午後の予定です。※予定変更の可能性あります。

良ければご感想、評価、ブックマーク、アドバイスなど頂けると嬉しいです。

では、またの更新を。

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