48話 不穏な空気からのお知らせに
卓が二回目の『憂』の墓参りに行ってから一ヶ月程が経って九月上旬。本当ならば、夏休みが終わってこれからまた学校という月だ。それでもまだ蝉が煩く鳴いていて生徒達はあっという間の夏休みに声を上げていた。
「もう、終わりかよ! ずっと休みでいいだろ」
「そうも言ってられないよ!」
昼休みに教室でそんな会話を聞いた卓は溜め息を吐いた。みんなとは違う、ただ独りこれから夏休みがやってくる。夏休みは嬉しいはずなのに溜め息を吐くような気分にさせたのは楽しくもない逆戻りの生活で心が疲れきっていたからだろう。
「ねえ、行かないの?」
そんな中の状況で不意に卓に声を掛ける人物がいた。
「ああ、瑠里か。今日はいい」
その人物とは瑠里だった。普通ならこの時間に卓は友人達と集まって昼を食べる。動こうとしない卓に同じクラスの瑠里が不思議に思い、声を掛けてきたのだ。卓は気分が落ち込み気味だったせいか誘いというべき問い掛けに断った。
「そ、そう。あまり無理しないでね」
卓の言葉に瑠里は優しい言葉を掛け、立ち去ってしまった。瑠里の予想外の態度に卓は目を丸くして驚き、暫く思考が停止した。卓が思っていた瑠里の返事とは違っていた。我に返ると、昼を用意し自分の席で済ませた。午後は何事も無くいつも通りに過ごしたのだった。誰かの視線を感じながら。
それから数日。その日は夏休み明け最初の登校の日だった。卓は学校に着き教室に向かおうとしている最中だった。
「ねえ、聞いた? 同じ学年の子が夏休みの間に亡くなったって」
「え、それ本当⁉︎」
女子達の会話が卓の耳に聞こえてきた。いったい何があったんだろうと思いながら、卓は教室への足取りを早めた。教室に着くと、真っ先に卓に気付いた瑠里が視線を向けていた。その表情はとても悲しそうだった。
「卓、学校に来て大丈夫だったの?」
「え?」
瑠里は悲しそうだったのにも関わらず、卓を心配するように声を掛けた。その瑠里の言葉に思わず驚きの声を出した。
「ほら、憂のことがあるでしょ」
瑠里はなんだか言いづらそうにしつつも卓に小声で耳打ちした。耳打ちする前に辺りをキョロキョロと見渡し周りの様子を伺うようにしていた。卓は瑠里の言葉でなぜだか納得出来た。
卓は口を開き微笑みながらこう言った。その微笑みが少しばかり歪んでいた。
「例え、何が起ころうとも大丈夫だ」
歩き出し自分の席に向かった。瑠里は卓の言葉に安心出来ず、逆に不安になるばかりだった。
「ん?」
卓は唐突に視線に映った光景を目の当たりにして驚いた。それは、一番後ろの席で無かったはずの机が置かれていた。いったいこれはどういうことなのだろうか。
卓は黙って自分の席につく。直ぐに周りの視線が自分へと移っていくような気分を感じた卓は内海が近づいてくる事など知らなかった。
「おい、大丈夫か? 無理して来なくても、家でゆっくり休みな」
「わ!」
内海に不意をつかれて、卓は思わず声を出す。驚きで思ってもいない声を上げ、声を聞くと咄嗟に内海のほうを振り向いた。
「大丈夫」
「そ、そうか」
何も知らない卓は瑠里に言った似たような言葉を発する。その言葉に戸惑い不安になる内海はそれ以上何も聞かず、その場から立ち去っていってしまった。何も分からぬまま、卓は鐘が鳴るまで自分の席で待機する事にした。
鐘の音が鳴ると直ぐに卓の教室に居た他のクラスの人達は自分の教室に急いで戻り始めた。教室内の生徒も自分の席へついた。
担任の教師が教室に入ってくる。その表情は暗いように映ったのは卓の気のせいだろうか。その表情のせいか教室は不穏な空気に包まれた。
「先生、どうしたんですか? 早く始めて下さい」
朝のホームルームが一向に始まろうとしない事に生徒の一人が教師を急かすように言う。
「残念なお知らせだ。夏休み中にうちのクラスの一人が亡くなった。緒川憂だ」
担任の男性教師が口を開くと、教室内はざわつき始めた。しかし、ただ一人、卓は騒がずに頭の中で混乱していた。
(今、憂って言ったよな? 緒川、憂。まさか、)
卓は予想外の展開に驚くばかりだった。まさかあの『憂』が同じクラスだったとは思っていなかったのだ。誰一人同じクラスだとも仲が良いだとも聞いた事が無かったから。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。
予想外の事が起こり卓は何を思うだろうか。憂が同じクラスだとは思っていなかった。
そして、次回ついに現る!?
✩今回は9月上旬になります。予定が異なりましたが、夏休みに入るのは次回です。
『忘却の中で』はいよいよ終盤に差し掛かっています。
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次話更新予定日は来週6月17日(日)午後の予定です。※予定変更の可能性あります。
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では、またの更新を。