47話 逆戻りである事を忘れて
「やっと着いたわね」
女性はそう言って目の前に視線を移した。
「憂、卓くんが来てくれたわよ」
女性は話し掛けるように声を掛けた。卓は苦笑いしながらも女性と同じく目の前に視線を向ける。目の前に墓石があった。卓と女性はお墓参りに来ていたのだ。二人は黙祷をし、お参りを済ませた。
「あれから二ヶ月しか経ってないからまだ記憶に新しいわ。けれど、時間なんて関係ないわ。記憶から消えないでしょうね」
突然、女性は誰にいうまでもなく、話し始めた。不意に女性の口から出た言葉で卓は顔を顰めた。それはなぜか、卓はある疑問を引きずるように頭の隅にあったのだ。それがもう少しで解ける気がしていた。
「あの、すみません。憂さ、憂が亡くなったのって、」
咄嗟に卓の口から出た言葉は少しばかり挙動不審気味に見えた。
「あら、覚えてないの? 夏休みに事故にあったのよ」
女性はそれだけ言うと、卓を疑いの目で見たのは気のせいだろうか。卓の頭の中で、ある確信と新たな疑問が生まれてぐるぐる回っていた。それからは気付けば昼過ぎになっていたため、早めに切り上げることにした。卓は新たな疑問が解決しないまま時間が過ぎていく事に耐えるしかなかった。
数時間後、墓参りを終えて再び『憂』の家に居るのだが、少しの間、一休みしようと考えていた卓の考えは散った。予想外の事が起こった。
「ただいま」
「あら、おかえり」
それは突然だった。この家の人である男性が家に帰ってきた。男性の第一声で女性が気付き言葉を返す。しかし、卓は呆然としていてあまりの予想外の事で頭が追いついていなかった。
「お! 卓くん。久しぶり、元気だったかい?」
卓がそうこうしているうちに男性は卓が家に居ることに気付くと、声を掛けた。その声は嬉しそうだった。
「あ、はい」
咄嗟に答える卓だが、少し戸惑っていた。次の瞬間、女性は男性に向かって首を横に振った。その様子に男性はがっかりし残念がった。これが何を意味するのだろうか分からないが、卓は気付いていなかった。
「あ、あの。俺、帰ります。色々とありがとうございました」
卓は少しばかり遠慮しがちに言ったせいかたどたどしくなった。その場から卓が立ち去ろうとした時だった。
「いや、今夜は泊まるといい。疲れているだろう。親御さんに連絡しとくよ」
「え?」
思いも寄らない出来事が再び起きた。卓は予想外の事に目を丸くして驚いた。
「あの、帰ります」
「話したいことがあるんだ。今夜だけでも泊まってくれないか?」
卓は断って帰ろうとするが、それでも引き下がらない憂の父親である男性は引き止めるように問い掛ける。卓は直ぐに答えが出なかった。いや、本当は答えが出なかったのではなく出せなかったのかもしれない。
数秒間、沈黙が流れる。その間に掛け時計のチクタクと秒針が響いていた。女性と男性は卓の言葉を静かに待っていた。
「憂のこと、聞かせてください」
卓は口を開く。それが卓の答えだった。たったそれだけの言葉で女性と男性は受け入れた様子を見せた。卓は色々な話、特に『憂』の事で一晩泊まると決めた。『憂』についてもその他についても楽しかったり悲しかったり様々な会話をした。しかし、卓はあの疑問だけ聞けなかった。聞くタイミングは今ではない、と。そう考えている間に日が過ぎていった。
翌日、卓は起きると、自分がいる場所に疑問を感じた。
「あれ、自分の部屋? 確か、泊まっていたんじゃなかったっけ?」
卓は独り言のように呟き昨日の記憶を思い出そうとした。
「ああ、そうか。忘れてた」
思い出すと、一人納得し、忘れていたのが嘘の様だと感じた卓は気持ちを切り替えいつものように学校に行く準備をして家を出た。
「卓、おはよう」
「おはよう」
卓は学校に着くと教室に入る。同じクラスの瑠里が声を掛けてきた。昨日の早退が無かったように何も変わらない日常だった。何も変わらないというのは嘘かもしれない。元に戻る日常になってから過去とは違うことが起きている。これは独りになってからも起こっている。この事に少しばかり驚くだけで卓にとっては他は何も変わらない。
ふと、卓は一つ溜め息を漏らし、席について学校の時間を過ごした。
これから独りどうすればいいのか、そう思って過ぎていくんだとこの時は思っていた。居るはずのない人物が目の前に現れるまでは。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。
憂の家に泊まったにも関わらず卓は元に戻っている日常だということを忘れてしまっていた。
それほど独りである事が不調だったのだろう。病は気からっていうのはこういう事かな。
次回はあの人物が!?
✩今回は話がさほど進んでいない為前回と同じ10月中旬くらいです。
次回はそれから2ヶ月くらい進んで夏休みに入ると思います。(あくまで予定です)
次話更新予定日は来週6月9日(土)お昼の予定です。※予定変更の可能性あります。
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では、またの更新を。




