46話 早退
「明日から、文化祭だな。俺は瑠里とで昂と稀、卓は、」
「なにを言ってるんだ?」
突然の輝の言葉に卓は思わず声を出した。
『え?』
友人達が声を揃えるように驚きを声にした。友人達の驚きに卓は一瞬で何かを思い出し状況を理解した。また独りでこの戻る時間を彷徨うように過ごさなければならない、と。
同じ時間を過ごしているはずの瑠里と違う世界から来た輝。友人とまではいかないが、同じ時間を過ごした内海とも今まで以上には話さなくなった。そのため、卓はまた逆戻りじゃない元の時間に戻る別の方法を独りで探さなければならなかった。
「それで決まりね。楽しみ! まあ、憂も居れば良かったけど、」
「そうだな。な、卓」
「そ、そうだな」
瑠里に乗っかった輝の言葉に不意をつかれた卓は動揺してしまった。
「なんだ? やっぱり俺たちと居るより憂と居た方がいいのかよ。まあ、そうだよな」
昂が機嫌悪くなったかと思ったら急に落ち込んでしょぼんとした。それからとはいうもの結局のところ、夕方まで話し込んでしまったのだった。
それから数週間後、学校にて。いつも通り学校に来ていた卓はほとんど机に顔を伏せて過ごした。文化祭の準備の日も通り越してこの日は文化祭での係内での話し合いの時間が設けてあった。しかし、卓はほとんど机に顔を伏せて過ごしていたため、係内での話し合いにも参加していなかった。
「おーい。菅原、大丈夫か?」
突然、係の話し合いに参加していない卓の元に内海が心配してきた。いつ以来話すのか分からないが、今の卓はそんな事などどうでもよかった。
「大丈夫とはいえない」
卓は顔を上げて答えると、再び伏せてしまった。
「あとでも遅くないからさ、保健室に行ってこいよ。無理しても良くないし、早退も考えときな」
「ああ」
内海は伏せている卓に声を掛けて、その場を離れた。卓は返事はしたものの相変わらず沈んでしまっている。いったい、卓に何が起こっているのだろうか。
暫くして、卓は一人で保健室に向かい休んでいた。
「あまり具合が悪かったら親御さんに連絡して迎えに来てもらったほうがいいかな?」
「いえ、大丈夫です」
不意に保健教諭の女性が卓を心配しながら尋ねる。それに咄嗟に答えた卓は作り笑いになる。卓にとっては親はどうせ来ないだろうと思っている。職業上、家にほとんど居ないのに迎えに来るわけがない、と。
「じゃあ、」
保健教諭の女性が何かを言おうとした時だった。
「早退します」
卓が早退の言葉を口にした。そして、卓は保健教諭から記入済みの早退届の紙をもらい、早々とふらふらの足取りで保健室を後にする。
「大丈夫かしら?」
卓の様子を見て保健教諭は心配の声を漏らした。それから卓は鞄を取りに教室に戻り、早退だと告げて早退届を出して学校を後にした。卓が教室を出る際に心配そうに様子を見ていた内海と瑠里がいた。しかし、そんな事も気にもせず、卓は独りその場を立ち去った。その姿はどこか寂しげで悲しそうにも見えたのは気のせいだろうか。
「やっと、着いた」
卓が早退で学校を後にした数分後の事だった。卓はそのまま自力で家に帰る、はずだった。だが、卓は真っ直ぐ家に帰ること無くどこかに向かっていた。
それも依然としてふらふらで覚束無い足取りでだ。決してそんなに遠くはない場所に卓は若干だが、息を切らしてひと息吐いた。
その場所とは『憂』の家の前だった。 一歩踏み出し、勇気を出してインターホンを鳴らそうと腕を上げる。手が届くと、ボタン押す。
『はい』
音に反応して、あの時と同じ女性の声が聞こえてくる。
「す、菅原卓です」
卓は緊張しながらも名乗った。
『あら、菅原くん。ちょっと待っててね』
女性は直ぐに何かを察したのか卓に待つように言った。平日の午前中。普通ならば学校にいると不思議に思うはずだ。それなのに女性は不思議には思わず、卓を受け入れた。
数分もしないうちに家の中から姿を現した女性は卓を招き入れ、卓は案内されるまま家の中へ。それから、卓と女性はお茶をしながら少しの話をした。女性は卓の様子から何かに勘づいて、自分の娘であった『憂』については話さなかった。
数分後、二人はある場所に向かった。卓にとっては二回目となるであろう場所へと。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。
独りでいつもに戻るのに不安になり不調になる卓は早退する。しかし、向かった先は憂の家だった。
卓は何を思い何を感じるのだろうか。
✩文化祭が11月中旬頃で今回の話で10月中旬くらいの月だと数えてます。
おおよそなので気付いた事があれば何か下さると助かります。
次話更新予定日は来週6月2日(土)お昼の予定です。※予定変更の可能性あります。
良ければご感想、評価、ブックマーク、アドバイスなど頂けると嬉しいです。
では、またの更新を。




