45話 独りで
文化祭の最終日があっという間に過ぎて翌日。卓にとっては時間が逆戻りしているため、文化祭一日目なのだが、その翌日は一般公開だけだった。一般公開だけだからといって訪れる人は少なくない。寧ろ昨日よりも忙しいと卓は思っていた。それはなぜかというと昨日と違って、クラスの係を一人で担当していたからだ。結局のところ、他の場所をほとんど回れなかった。
そして、いつの間にか三日目、通常の時間なら初日。その時に卓は思いも寄らない事を輝から聞いた。その日は校内のみの文化祭でもあり、人もいつもよりは少なかった。もしかしたら、卓のクラスのお好み焼きより他の食べ物屋の焼きそばやその他の場所が人気だったのかもしれない。卓はぶらぶらと当てもなく歩いていた。運が悪いのか友人達一人も会わないと思っていた。しかし、一人の友人が卓の元に向かってきていた。
「おい、少し話さないか? 言いたいこともあるしな」
「ん? もしかして、瑠里との、」
「ああ」
卓の元にきた人物は輝だった。輝が尋ねるように言うと、卓は何かを確かめように言葉を発する。輝はそれを直ぐに察して首を縦に振った。
暫くの間、卓と輝は聞かれたらいけないと思い人目がつかないところで話をした。内容は主に今後の輝と瑠里の事、卓が元の時間に戻るには今後協力出来なくなるという事だった。
「そうか。だからあの時にあんな事を言ってたのか。そりゃそうだよな」
「悪いな。いつまでもこの時間に居るのにも俺自身、前を進めないと思って瑠里と話したんだ」
「分かった」
「協力出来なくて悪いな。けど、頑張れよ」
輝の励ましの言葉で卓は首を横に振って、ある事を思い出す。
「あ、そういえば気になってたことがあるんだ。憂のことで、」
「なんだ?」
「あ、輝と卓!」
卓が輝に疑問に思っていることをふと言おうとした時だった。ちょうど二人のところに瑠里が声を掛けながら、向かってきた。タイミング悪く、卓の言おうとしてた事がかき消されてしまった。
「どうしたんだ?」
瑠里が来たことに輝は理由が分かっていたのだが、惚けるように問い掛けた。
「どうしたもこうしたもないよ。分かってるじゃん」
問い掛けに瑠里は理由を話そうとはせずに笑顔で言う。輝は呆れたような表情をして一度卓のほうを見てこう聞いた。
「さっき言おうとしてたことはいいのか? 憂のことでなにか分かったんだろ?」
瑠里に遮られた卓の言おうとしてた言葉は輝には聞こえていた。
「んーと、いいんだ」
憂の事まで聞かれてとは思っていなかった卓は輝の問い掛けに驚き、苦笑いで誤魔化して言うのをやめた。
「そうか? この先ないから言うなら今だぞ。いいのか?」
「いいっていいって」
卓の返事に尚も問い掛けてくる輝に卓は一瞬無言になるも平気そうにして答えた。輝にとってその表情は無理をしているようなそんな気がしたが、深くは問い掛けようとしなかった。それから、卓は輝と瑠里と分かれて再び一人行動になった。
(聞けば良かったか。けど、今更思ったって遅いか)
卓は内心そう思ってとぼとぼと歩き出し、寂しく色んなところを回った。
翌日、本当ならば文化祭前日だが、卓にとっては文化祭後の日だった。それは、ある人達もそうだった。
「卓! 明日やっと凪輝祭だね。楽しまなくちゃ!」
「ああ、そうだな」
同じクラスの瑠里が早速卓に話してきたのだが、どうやら卓の様子がおかしかった。それは既に文化祭を過ごしたからだったからだ。卓は苦笑いで答えた。
本来なら瑠里も文化祭を終えたはずだ。何かがおかしいと不思議に思いながらもその日は前日ということもあり、午前中に解散をした。そのせいか生徒は完全下校だった。学校には生徒は誰一人残らなかった。卓は家には帰らずに友人達と一緒に集まる事になった。そこでこれが現実だと知ってしまった。そして、後悔してしまうことになる。
「明日から、文化祭だな。俺は瑠里とで昂と稀、卓は、」
突然、輝が話を切り出した。
「なにを言ってるんだ?」
『え?』
卓は訳が分からず思わず声を出した。そこに居た友人達が声を揃えた。
驚きの言葉を発した後、卓を不思議そうに見た。その時『この先ないから言うなら今だぞ。いいのか?』輝の言葉を思い出し一瞬で卓は理解した。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。
卓は独りで。また時間が戻り始めた最初の頃になりつつも時間は進んでいきます。
次話更新予定日は来週5月26日(土)お昼の予定です。※予定変更の可能性あります。
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では、またの更新を。




