44話 楽しい文化祭のはずが
「どうして、二人ともそわそわしてるの? こっちだってば!」
不意に男女二人に声を掛ける人物がいた。その様子からなにやら焦っているように見てとれた。なぜ焦っているのかというと、それは約三十分前に遡る。文化祭を楽しみに事前に休みをとっていた男女二人。準備も順調に時間通りに終え学校へ。
しかし、時間通りはいいものの普段とは違う変装をしていたせいか、あまりにも悪目立ちしすぎていた。辺りをキョロキョロと見渡している。そこへ同行していた女が二人を引っ張って今に当たるのだが、それも無意味といったところだ。
「そんなに急がなくてもいいじゃないか。卓に会えれば仕事に戻るから」
男が落ち着かせようと口にする。恐らく、卓を探しているらしい。実をいうと、このいかにも怪しそうな男女は卓の両親だった。
「何を言ってるの! 会えればってものじゃないでしょ。楽しまなくちゃ! そのために、早く会いにいこうよ」
男女を引っ張っていこうとしているのが、卓の姉の美琴。どうやら、兄の武は来てなかったが、三人が揃って高校に来るのは珍しい事だ。卓の両親は入学式と面談くらいだろう。しかし、卓は三人が来ていることは知らない。そんなこんなで話は進められていて、文化祭のパンフレットを見ながら卓のクラスの出し物のお好み焼きを食べに向かった。
「やっと、着いた。二人ともキョロキョロしすぎ! いったい、何分掛かってるのよ!」
数十分後、卓の両親と姉の美琴はお好み焼きの場所までたどり着いた。さっきの場所までそんなに離れていないのになぜか時間が掛かってしまった。それも美琴の言葉通り、二人が辺りを見渡しながら歩いたせいだった。
「いや、だって途中に居るかもしれないじゃない。卓がここに居るとは限らないんだし」
辿り着いた場所で第一声に美琴が話し始めると、卓の母が言い訳のように言った。その可能性も有り得た。その理由は今居る場所が卓のクラスの出し物『お好み焼き』の前であるからだ。しかし、視線を前に動かすと、その可能性を打ち消した。なんと三人の前に卓とその友人達らしき人物が楽しそうに会話をしながら順番を待っていた。
並んでいても卓は後ろに居る家族に気付かない。母は気付くとずっと前を見ている。それに気付く父は嬉しそうに笑みを浮かべた。美琴は偶然にも気付かない。
『お、儲かってるじゃん。俺のところはあまり人が来ないんだよな』
『ちょ、言い方もっとあるでしょ』
『人が来ないなんて信じられないが、あとで昂のクラスに行こう』
『やっさしい!』
三人の前に居た卓と友人の昂と稀がそんな会話をしていた。卓の両親は盗み聞いていた。
「ねえ、ほら」
「あ、卓!」
卓の母が美琴に声を掛けると、美琴は大きな声を出した。卓と友人達は後ろを振り向いた。
「え? 父さんと母さん⁉︎ つーか、美琴姉までなんでいるんだよ!」
友人達は目を丸くして黙っていたが、卓は黙っていなかった。振り向いた直後、驚きを言葉にして混乱していた。
「それがさ、お母さんとお父さんがさ、卓の文化祭に行きたいって連れてきた」
平然と言う美琴に卓は悔しそうなそれともがっかりしたような表情をした。
「いやいやいや。連れてきたじゃなくて二人とも仕事じゃないのか! 美琴姉は、余計」
卓は美琴の言葉を言い直すように答える。
「は? 余計ってなによ!」
「まあまあ」
卓の言葉に美琴は頭にきたようだが、母が仲介に入り卓と美琴は喧嘩せずに済んだ。その後は昼時という事もあり、卓のクラスのお好み焼きは大繁盛し、卓とその友人達、卓の家族は無事にお好み焼きを手に入れてそれぞれ食べた。
それから数分後の事だった。
「あの、せっかくだし一緒に文化祭回りませんか?」
唐突に瑠里が卓の家族に声を掛けた。一瞬、三人は目を丸くし驚いたが、嬉しそうに微笑んだ。
「是非、よろしく!」
明るく答えたのは美琴だった。
「マジかよ! 余計な事すんなよ」
「うるさい!」
元気な美琴に対して卓は少々乗り気ではなかった。少々どころではない。二人の会話に友人と両親は笑うばかりだった。
そうして、全八人で『凪輝祭』という名の文化祭を楽しんだ。こんな楽しい文化祭のはずが卓はどこか不思議に思っていた。それは今は知ることのない疑問が隠されていた。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。
卓の友人達と家族が加わり楽しい文化祭を回っていたはず。しかし、卓は過去でこんな文化祭があっただろうかと不思議に思う。それはある記憶が隠されていた。
次話更新予定日は来週5月19日(土)お昼の予定です。※予定変更の可能性あります。
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では、またの更新を。




