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43話 文化祭一日目(2)記憶と涙そして怪しさ

 文化祭一日目。最終日にして初日というおかしな話だが、(たく)にとっては逆戻りしている今、それが普通だった。卓は自分のクラスの出し物のお好み焼きを作る上での野菜を切るという役割を二時間果たし、一人でどこかに回ろうとした。しかし、卓の目の前に友人達が現れ、一緒に回る事になった。というのも回る事になっていたらしい。

(こう)、やけに張り切ってるね」

「そうか? そんなことないぞ!」

 (まれ)と昂のそんなやり取りの会話が卓の耳に届いた。昂は否定しているのにも関わらず、嬉しそうに微笑んでいる。楽しそうに会話する友人達の話に卓も顔が綻ぶ。だが、次の瞬間だった。

『そういえば、ちょうどお昼だよね。ここ行きたい!』

 突然、文化祭のパンフレットのある店舗を指差しながら、卓に向かってそう言う少女の姿が卓の頭に過ぎった。いや、正確には(ゆう)という卓の彼女だ。

「卓! 卓、大丈夫か⁉︎」

 現実では卓は友人に呼ばれていても気付かずに棒のように固まって立ったままだ。

『美味しいね。次、これ食べたい!』

 卓の頭の中ではまだ憂の姿が映し出されている。憂はこれから食べ物を食べようと、一口だけ口元に運ぶ。笑顔で卓に言った後、パンフレットを再び指差したのだ。そんな憂との光景が次々と呼び起こされるように卓の脳内に過ぎった。

「おーい、卓? 大丈夫か?」

 友人の誰かが再び卓を呼んだ。

「え?」

 卓はその呼び声にやっと我に返った。卓は友人達に視線を向けて辺りを見渡した。今居る場所を一瞬忘れていた。

「卓、元気無さそうだが大丈夫か? 少し休むか?」

 声を掛けたのは(てる)だ。

「大丈夫だ。ただ、ぼーとしただけだ」

 卓は平然を装って言う。その様子を察したのか友人達は不安そうな表情を浮かべる。

「そうか? 俺、何度も声掛けたのにな。憂のことで、」

 昂が不思議そうな顔をしながら小声で言い、続けて何かを言いかけたが、不意に昂の口を稀が手で抑えて静止した。今の雰囲気から言ってはいけない言葉を口に出してしまったらしいが、卓は気付いていなかった。昂は口篭り機嫌悪そうにした。稀から睨みつけ折れたように何かを悟った。

「卓、大丈、え?」

「 おい、大丈夫か? 一度休もう」

 瑠里(るり)と輝が卓に声を掛けて振り向くと、二人は目を丸くして一瞬その場で固まった。二人の視線には卓が涙を流している姿が映っていた。突然の出来事に戸惑いつつも輝は『休息』を提案する。

「大丈夫。なんでもない。ただ、」

 その場を取り繕う卓だったが、自然と流れる涙に誤魔化せない感情が溢れていた。

「思い出したのか?」

 輝は卓の感情を抉ろうとはせず、そっと問い掛ける。その問い掛けに卓は無言で首を縦に振る。

「おーい、お昼行こうぜ! 流石にお腹空いたぞ」

 少し前を歩いていた昂が唐突に後ろの三人に向かって声を発した。

「昂ったら空気読みなよ!」

 昂の隣に歩いていた稀が注意する。

「は? どんな空気だよ。まずは腹ごしらえしなきゃだろ」

 昂はその注意に聞く耳を持たず、思っている事を口にする。昴に悪気はない。その後ろで様子を見ていた輝、瑠里は微笑む。卓もつられて笑顔になる。

「よし、お好み焼きでも食うか!」

『えー!』

 お好み焼きというメニューを提案したのは意外にも卓だった。友人達一同が一斉に声を上げる。卓がさっきまでの表情とは一変しているのだから、変わりようときたら驚きだ。だが、友人達はそういう訳では無さそうだ。

「なんだよ」

 周りの視線を気にもせず、卓は友人達の声にムスッとした。

「反対方向じゃんか。まあ、いいや。行こう行こう。早く食いたいぜ」

 昂ががっかりした様子を見せたが、一瞬にして切り替えて空腹の限界に耐えられず急かした。こうして卓と友人達はお好み焼きでお腹を満たした後、さっきまでの雰囲気とは違い文化祭を自由に見て楽しんだ。卓が知っている人物が来ているとも知らずに。



「本当にこっちなのか? それにバレないか?」

「大丈夫よ。いつだって私を信じてきたじゃない」

「いや、それとこれは違うじゃないか」

 なにやら、男女二人がいかにも怪しそうな変装をして校内を歩き回っていた。男はサングラス、頭にはキャップを深く被っている。服装は怪しそうなところはないが、不自然に辺りをキョロキョロと見渡していたせいか、周りの視線を受けている。一方、女はというとわざとらしく厚化粧に着慣れしていないスカートの格好をしている。

「どうして、二人ともそわそわしてるの? こっちだってば!」

 突然、二人は誰かに呼ばれた。いったい、誰なのだろうか。この時思いも寄らない遭遇に出会うとは予想もしていなかった。

作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。

引き続き文化祭一日目!卓は懐かしい記憶を思い出し気持ちを改め友人と楽しんでいる中誰かの接近が。

次も一日目(最終日)を更新するかもですが少々お付き合いください。

次話更新予定日は来週5月12日(土)お昼の予定です。※予定変更の可能性あります。

良ければご感想、評価、ブックマーク、アドバイスなど頂けると嬉しいです。

では、またの更新を。

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