42話 文化祭初日(最終日)
卓が瑠里から『文化祭』という言葉を聞いて数日後。その日がとうとうやってきた。文化祭は三日間に分けて行われる。文化祭の最終日は卓にとって初日だ。通常はおかしな話だが、これが卓にとっては普通なのだ。というのも時間が逆戻っているからだ。そのため、卓は文化祭で自分のクラスメイトの出し物が何かは分からなかった。
前日の振り替え休日に過去を思い出そうとしたが、すっぽりとそこだけ切り取られたように全くといっていいほど思い出せなかったのだ。しかし、学校には行かなければとギリギリまで考えた。考えているうちに当日が来てしまったというわけだ。この日はちょっと早めに起きて早めに支度をする。それから、家に出て学校へ向かう。
「おーい、卓」
数分もしないうちに卓が家を出ると、ある人物が卓に近付いてきた。その人物は輝だ。輝は卓を見ると声を掛けた。
「輝?」
卓は不意の状況に頭が追いついていなかった。
「ああ、悪い。瑠里に聞いたんだ。卓が文化祭間近だったことを分かっていなかった様子だったって。それで学校に着くまで説明しようかと思って来た」
輝は卓の様子を察して長々と経緯を話した。それでも卓はまだ納得していないような表情をしている。
「あ、えーと瑠里は一緒じゃないのか?」
輝が瑠里と一緒にいる事が多いための問い掛けだろう。
「いや、それが、」
輝は何かを言おうとしたが、言葉を詰まらせてしまう。
「?」
輝の言葉に卓の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。少しの間が流れ、卓は難しそうな表情に変わっていった。輝も同じく難しそうな表情だったが、意を決して口を開いた。
「実は、俺たちこれが最後かもしれないんだ」
「は?」
輝の口から出た言葉は卓を更に混乱させた。卓には輝が何を言っているのかさっぱり分からなかった。
「まあ、文化祭が終わったら分かると思う」
輝はそれだけ言うと、黙ってしまった。その姿が卓にとってはどこか寂しそうで孤独な姿に映った。そうして数分の間だったが、輝から説明を受けるように文化祭の事を聞いた卓だった。
卓と輝は学校に着く。学校の正門には文化祭を感じる門が立っていた。
『凪輝祭』という名の文字が書かれた門を潜り、二人は校舎に入った。
「じゃあ、またな」
「ああ」
卓と輝はそう挨拶をし、自分たちの教室へと向かった。
「それじゃ、最終日頑張れ!」
担任の張り切った声が掛かると、生徒は持ち場に行ったり自由行動を始めた。最初、卓は戸惑っていたが、出し物を見て徐々に過去の記憶を思い出していた。卓のクラスはお好み焼きというとても美味しそうな屋台を担当していた。そう、人が多く来そうな屋台ということもあり、忙しく自由行動は極僅か。しかし、数時間で交代する。卓は調理担当であった。包丁を使って野菜を切る。家ではたまに美琴に手伝わされることもあり慣れていた。
「おー、やっぱり何度見ても菅原切るの早いな」
クラスメイトにそう言われた卓だったが、卓自身はこれが普通だと思っている。というよりもクラスメイトが一つの野菜に五分も掛かるという事に遅すぎるのではと卓は内心思っていった。そして、時間はあっという間に過ぎていき、時刻は午前十一時頃。卓の係が終わる時間帯。一般と校内の関係者が回れる最終日ということもあり、人は賑わっていた。
卓はあてもなく辺りを見渡しながら一人で歩いた。人がたくさんいてみんな笑顔で楽しんでいた。
「おーい、卓!」
卓に向かってくる人影が見え、声が聞こえてきた。人影は徐々に近付き、姿がはっきり見えた。その姿に卓は驚いた。
「みんな、どうした?」
卓の目の前に友人の昂、稀、輝、瑠里が現れたのだ。卓はキョトンとして固まっていた。
「どうしたって、最終日みんなで回ろうと決めてただろ」
そう言うのは昂だ。しかし、それでも卓は身に覚えがない様子だった。卓は事情を知ってそうな輝と瑠里を見た。
『ごめん』
卓に気付いた瑠里が謝罪の合図をした。卓はその合図にムスッとした。輝は苦笑いした。
「そうだったな。よし、回るか!」
ムスッとしていた卓は仕方ないといった表情を浮かべて張り切った声を出した。この文化祭が楽しいものになるだろうと少し期待していたのが間違いだったことに気付くのに時間は掛からなかった。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。
凪輝祭開始!文化祭が始まった卓はみんなで回れることに浮かれるあまり大事な事を見失う事を知らなかった。
次話更新予定日は来週5月5日(土)お昼の予定です。※予定変更の可能性あります。
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では、またの更新を。