34話 誘導と嵌められた罠と
数日経った日のこと。冬休みが終わり、いつの間にか年明け最初の学校登校になっていた。卓は輝、瑠里と話し合いを再開していた。二人には卓が裏で動いている事も知らない。
「そういえば、俺たち冬休みに入るだろ。ちょうどいい。そこで重要な事を話す」
「分かった」
授業の合間の休み時間に卓と輝は会話をしていた。もちろん、瑠里もいる。年明け早々に冬休みに入るとは普通ではおかしな事だ。
しかし、この三人は『逆戻り』をしている。それぞれ時期が違えど、一日ずつ戻っている日々を過ごしている。それは突然で最初は戸惑ったが、今は慣れてしまっている。それぞれ普通の日に戻る理由は違うが、日々ヒントになる事を話し合っているのだ。
卓が普通の日常に戻るには『憂』という人物が関係しているらしいが、卓は二人には何が関係しているのか分からず聞いてもいない。それでも、戻れるならと卓は思っていた。
「詳しくは同じクラスの瑠里から後で聞いてくれ」
卓は輝の言葉に軽く首を縦に振った。輝と瑠里は真剣な眼差しを卓に向けていた。そうして会話は終わった。
それから、数時間後。
『冬休みに輝と瑠里で話す事になった。場所は俺の家。日にちは、×日だ』
卓はまたあの時と同じ誰かにメッセージを送っていた。
『分かった。俺もその日に行く』
暫くして、メッセージが返ってきた。
(やっと真相を知れるのか)
卓は少しの期待と不安を胸に詳細を待つことにした。
その時がやってきた。それは冬休みの真ん中に差し掛かろうとしている日だった。その日、卓の家族は全員外出していた。運がいいのか、それとも時間がそうしたのだろうか。
卓は裏で事前に家で待ち合わせていた人物と約束していた。その人物は内海である。内海は既に家に来ていて、寛いでいた。まだ輝と瑠里は来ていない。
それはなぜか。待ち伏せのように内海が先に来て、二人が来たら輝を内海のところへ、瑠里を卓のところへと別々に誘うためだった。
「上手くいくといいよな」
「そうだな」
不意に出た内海の成功を願う言葉に卓は相槌を打つように口にした。それから数分の間、会話をし静かに待っていた。
突如、家のインターホンの鐘が鳴った。それに気付いた卓と内海。咄嗟に二人は無言のまま、お互い合図を送るように視線を向けた。
「じゃあ、後は頼んだぞ」
内海のその言葉を背に受けて、卓は部屋を出て階段を降り、玄関へと向かった。その表情は真剣ではあったが、どこか緊張感を漂わせていた。
卓は玄関まで来ると扉を開けた。すると、目の前には予想通りの輝と瑠里が卓の視界に映った。
「久々だな」
「そうだな」
輝の言葉に卓は平然を装いながら返す。輝と瑠里は玄関で靴を脱いで当然のように家に上がった。この日が分かっていたかのように卓は玄関から内海の靴を消していた。正確には隠していると言っていいだろう。
輝と瑠里は卓の後ろにつく。この時を待っていたかのように卓はある事を口にする。
「悪いんだが、瑠里一緒に来てくれないか? 美琴姉がさ、服あげるって言ってって渡して欲しいって」
『え?』
卓の言葉に二人が声を重ねて驚きの声を上げる。余りの出来事に二人はぽかんと口を開けたまま、お互い見つめ合っていた。暫しの沈黙が流れる。
二人の反応は当たり前だった。卓と瑠里は友人であっても瑠里が卓の姉の美琴と話す事なんて多くはない。
会った時に度々話すが、そこまで親しいとはいえないのだ。だから、その事に驚き怪しさを感じた。沈黙が卓にとっては長く感じたせいか、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「ごめん、輝。私、行ってみる。先に卓の部屋に行ってて」
沈黙から最初に発したのは瑠里だった。瑠里は卓の言葉の通り、卓と一緒に行くことにした。
「……ああ、分かった」
瑠里の言葉に輝は少しの間を置いて答える。瑠里の表情を見て、輝は何かを察した。
「輝、悪い。飲み物もついでに持ってくるから」
それを聞いた輝は早々に部屋に繋がる階段を上っていった。一方、卓と瑠里も居間へと移動する。
居間に着くと、卓は扉を閉める。瑠里はキョロキョロと見渡す。
「それで、美琴お姉さんからのものは?」
「悪い。それ、嘘なんだ」
瑠里の問い掛けに卓は正直に言った。
「やっぱり」
すると、瑠里は小さく呟いた。その言葉に卓は固まってしまった。先を読まれていたのだろうか。
「え、やっぱりってどういう事だ?」
「輝の言ってた通りっていうこと」
瑠里は平然と言うが、卓は何がなんだか分からなかった。立ち尽くすまま、瑠里の話を聞く事に決めた。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか?
卓は裏で動き始めると同時に輝と瑠里を家へと誘い出すが瑠里の一言で…。次回は隠された目的が明らかに。次話更新予定日は3月10日(土)お昼の予定です。※予定変更の可能性あります。
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では、またの更新を。




