32話 決行の合図
卓と内海が話し合ってから既に二週間が経っていた。あれからも卓は相変わらず内海の言う通りに輝とは距離を置いていた。輝と距離を置くということは瑠里とも距離を置いていたのだが、卓と同じクラスのためか時々話しかけられる事はあった。しかし、会話は長くは続かずに挨拶程度のものになっていた。
卓は輝と瑠里が同じ『逆戻りをする』という日々を送っているのにも関わらず、距離を置くだけで話すことが少なくなってもいいのだろうかと少し考え悩むこともあった。そういう時は内海に気にしなくていいと言われた事を思い出す。自分が普通の日常に戻れることだけ考えたほうがいい、と。洗脳されている様にも聞こえるが卓はそんな事は考えなかった。いや、考えたくなかった。
そんな中、卓は久々な人物に会った。それは卓が朝に学校向かう途中だった。
「よ! 卓、おはよう!」
「昂、おはよう! 久々だな」
その人物とは昂だった。昂は卓を見かけると元気な声で挨拶をした。卓は挨拶を返し、呟くように言う。
「は? なに言ってるんだよ。ほとんど学校で会ってるじゃんか!」
「……」
卓の言葉に顔を顰めて言葉を訂正するように言い不機嫌になる昴。卓はうっかり言葉を滑らせたことに真っ白になり黙ってしまった。
「そういえば、年が明けてから輝と話してないよな。時々、瑠里と居るところを見かけるのにクラスが違うとこうも話さなくなるなんてな」
「え?」
突然、卓の耳に入ってきた昂の言葉。卓は目をカッと見開くように驚いた。その直後、卓は過去を思い出そうと思考を巡らせた。そして、ある事実に辿り着く。過去では残り僅かの二年生の時、年が明けた後も友人達と話していた。それは皆集まっていた時だってあった。
しかし、今となっては話さなくなった。過去と不一致、変わっていることはやっぱり何かあるのだろうか。
「おい、ぼーとしてると遅刻するぞ!」
立ち止まって考え事をしている卓に昂の言葉が耳に届く。卓が昂の声のほうを振り向くと、昂は先に歩いていたせいか少し前で立ち止まり、卓を待っていた。
卓は歩き出し、昴と学校の教室へ行く前に別れた。それから、それぞれの教室へと向かった。
卓が学校に着き、教室に入ると待ち伏せするかのように扉の前で内海が立っていた。卓はその内海を見ると驚きも声も掛けなかった。ただ目を合わせ、合図を送るような仕草をした。内海は卓の目の合図を確認すると送り返した。そういう仲まで深くなったのだろうか。それとも何かの決行の合図だろうか。
それは誰も知らない、ましてやその二人にしか分からないものだった。
数日前の事。
「近々、言っていた対策の実行を始めようと思う。ある確認と阻止のために」
「お、なんかかっこいいな」
「おいおい、これは重要なことなんだぞ。楽しむなよな」
「悪い悪い。それで?」
卓と内海はなにやら何かを始めようとある『対策』について話をしていた。
「よし、これで決まりだな。俺が先に学校に居るから、菅原は教室に着いたと同時に合図をくれ」
「お、おう」
「大丈夫か?」
「大丈夫だ」
二人は数時間で話を終えると最終確認をしつつ最後には笑いあっていた。
現在。学校にて卓と内海はほぼ一日会話をしていなかった。卓は同じクラスでもある瑠里とは度々話しはする。それも挨拶程度のもの。しかし、今日は違った。
「瑠里。久々に皆で集まらないか?」
卓はいつものように挨拶をすると、問い掛けた。
「え、いいよ。輝たちに言っとくね」
「ああ、」
瑠里は一瞬疑問に思った表情をするもあっさりと笑顔で答えた。卓は瑠里の言葉に軽く相槌を打った。この時、内海が密かに見ていたのを瑠里は知らなかった。
その日の放課後、『皆で集まる』動きはなかった。卓は話して早々集まるのは難しいと思っていたが、何日掛かってもいいと思いその時を待つことにした。
翌日の朝、卓はいつものように学校に向かう。その日は運が良いのか悪いのか卓には分からなかったが、朝の登校時間誰とも会わず、余裕を持って学校に着いた。
いつものように教室につくと、当然といったように内海が待っていた。そして、目で合図を送る。卓は目で合図を送り返して首を横に振った。
今度は内海が首を縦に振った。二人にしか分からない合図を送りあっても周りは誰一人気付かなかった。
数分後、鐘が鳴った。変わらず授業が始まっていった。卓は何も起こらない事に疑問を持ちつつ授業を受けた。
それが直ぐに解かれる事を今の卓は知らなかった。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか?
卓と内海はある決行を開始する。それは上手くいくのだろうか?
次話更新予定日は2月24日(土)お昼の予定です。※予定変更の可能性あります。
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では、またの更新を。




