30話 裏側に隠された事情
それは、数日前の事で余りにも突然だった。
「なあ、菅原。ちょっと話があるからさ、次の休憩時間、席で待っててくれないか?」
教室で一人の人物が卓に近づいてきて、周囲を気にしつつそう言って去っていった。如何にも怪しい行動だが、気にする者はいなかった。
不意の出来事に卓は思考が追いつかず硬直していた。
「卓、どうしたの?」
先程の人物と入れ替わるように瑠里が声を掛けてきた。
「いや、なんでもない」
少しの間を置いて、卓は何事も無かったように答えた。
「ふーん」
瑠里は軽い相槌を打ち、不思議そうな顔をした。その後、なにも無かったように卓と瑠里は少々会話をした。
授業終了の合図の鐘が鳴ると、十分程の休憩時間に入った。卓の居る教室内は鐘が鳴ると同時に、席を立つクラスメイトが少なくなかった。卓も席を立とうとするが、忘れかけていた人物の言葉を思い出して、立ち上がるのをやめた。
「よ!」
その人物は元気な声で卓に声を掛ける。なんと、その人物は内海だった。
「ああ、内海。それで話ってなんだ?」
卓は内海が来たことに気が付くと、さっそく話を切り出した。
「ああ、その話だけどよ」
内海は表情を少し曇らせながらそう言うと、折り畳まれた一枚の小さな紙をそっと渡した。四つ折りにされていたそれを開くと、ノートを破ったような切れ方をしていたのが分かる。そこには何かが書かれていた。卓は一度内海を見やる。内海は言葉に出さず仕草で読むように合図を送る。
そこに書かれていた。
『時間巻き戻っているだろ? 警告しとく。××には近づかないほうがいい。聞かれるとまずいからこの事は誰にも何も言わないでくれ』
「そういう事だからさ、気を付けろよ」
内海がそう言ってその場を去ろうとした時だった。
「今度の休みの日の午後に菅原の家に行ってもいいか?」
付け足すように言って立ち去ってしまった。
「待てよ!」
卓が内海の後ろ姿に大きめな声で呼び止めるが、それを無視するかのように内海は振り向こうとしなかった。代わりに周りにいたクラスメイトが声に驚いて卓のほうを振り向いた。卓は視線が自分に向けられていることに気が付き、机に顔を伏せてしまった。
不意に卓は誰かに肩を軽く叩かれる。顔を上げる卓の視線に映ったのは瑠里だった。
「大丈夫?」
瑠里は卓に心配の言葉を掛けた。
「大丈夫」
卓は答えたが、心の中では戸惑っていた。
「何か困ったことがあったら言ってね。ほら、私たち、」
瑠里は笑顔で言ったが、途中で考えるような表情をして言葉を詰まらせた。そうして、あっという間に休憩時間が終わり、次の授業の時間になって過ぎていった。
それからの卓の日常は輝と瑠里と会う時は少し警戒し、内海から貰った紙の言葉が頭を過ぎった。それとはもう一つ、頭の中では『憂』の事も気になって、他のことは通り過ぎていくばかりが続いた。
それから後日。内海から言われた休みの日がやって来た。卓が内海から聞いた時間帯は午後。卓は目覚めると、携帯の画面を見る。時刻は午前六時ちょっと過ぎ。休みにしては早すぎる目覚めだった。再び眠りについた卓。しかし、卓は一時間程度で起こされる事になろうとは思っていなかった。
午前七時過ぎ。卓は姉の美琴の声で起こされた。聞けば、輝と瑠里が来ていることを知らされた。二人は卓の部屋へと来た。卓は毛布を被って寝ているフリをし、その場をやり過ごそうとした。だが、思っている程にいかないものだ。直ぐに輝に気付かれて、やり過ごす事が出来なかった。
その後、輝と瑠里は卓と同じ『逆戻りの時間』を過ごしていることもあり、それに関する重要な情報を見つけたと報告した。しかし、肝心の卓は時間を巻き戻っている事を忘れているフリをした。その場にいた輝と瑠里は分からず混乱したまま、卓の家を後にした。
それから、一週間が経った。卓は自分が逆戻りの日常を送っている事の情報を一人で模索していた。同じ時を過ごしている輝と瑠里とはあれから話をしていない。
卓は少し距離を置いていた。それはなぜか。二人を疑っているからだ。特に輝に。
あの時からの不信が今になって、ある確信に変わっていた。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。今回会話少なめな内容でしたがいかがだったでしょうか?
輝と瑠里が卓の家に来るまでの卓と内海とのやり取り。内海は誰を警戒しているのだろう。そして、その理由とは。卓と憂という人物との記憶は?
次話更新予定日は2月10日(土)お昼の予定です。※予定変更の可能性あります。
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では、またの更新を。




