2話 変わらない日付と曜日に
木曜日の午後、授業が終わって放課後になろうとしていた。
「よ! 今日はバイトないから一緒に帰れるぜ」
卓と同じクラスの昂が現れた。
「あ、輝と瑠里に聞きたい事があるから待っててくれないか?」
「その事なんだけど、」
卓が昴に問い掛けるように言うと、昴はその事について何かを言おうとした。その時だった。言葉を遮るように運悪く鐘が鳴ってしまった。ホームルームの合図だ。
(またか? これが終われば帰れるしまあいいか)
卓はいつもタイミングを見計らっているかのような鐘に不機嫌を覚えて溜め息をついていたが、直ぐに開き直っていた。
約十分後、放課後になりそれぞれが帰ろうとしていた時だ。今度は卓が昂のところに来ていた。
「よし、輝と瑠里のところに行こう!」
なぜか卓は張り切っていた。
「それがさ、輝と瑠里は寄るところあるからって先に帰るって」
「え?」
昂の言葉に卓は肩を落とした。
「まあ、寄るとこってだいたい決まっていると思うけどな」
昂が笑いながら付け足すように言った。その言葉に卓は納得したようだった。
(そういえば、ここ最近は将来の事でみんな別々に帰ってどこか寄るってことはなかったな。特に輝と瑠里は)
「急用が出来たから俺も先に帰るわ。じゃあな」
「あ、おう」
不意に一緒に帰る約束をしていた昂が卓に呼びかけるように言って教室を出ていった。卓は辺りを見渡すと、教室に残っている生徒は少なくなっていた。卓たちは帰宅部だが今の時期、三年生は部活に入っている生徒は既に引退済み。生徒が少ない事も頷けた。
しかし、グランド側の窓からは後輩達の活気ある声が聞こえた。三年生が引退した後も頑張っている様子だった。そんなこともお構い無しに卓は立ち上がり鞄を持つ。
「さて、俺も帰るか」
独り言のように呟くと廊下に出ていった。
時間が過ぎ、卓は駅の商店街に来ていた。この時間帯は夕飯の為の買い物客が多い。赤信号を待っていた卓の周りにも当然の事ながら、買い物袋を持っている主婦らしき人が数名いた。
その時、卓の視線にはある人物が映った。その人物とは、輝と瑠里だった。
二人は卓が渡ろうとしている信号の近くのファーストフード店で笑顔で話していた。卓には気付いていない。そんな二人を見付ける卓の視力の良さ。
(やっぱり、二人きりでいたのか)
予想はしていたものの羨ましく思った卓。羨ましく思っていたせいで卓は話したい事など忘れてしまっていた。赤信号から青信号に変わると、そのまま渡って駅まで向かった。
卓はいつの間にか家に着いていた。
「ただいま」と卓は帰ってきて言うが返事はなかった。卓は家の中をあちらこちら見てまわる。家の中は静まり返っていて人の居る気配がしない。
(今日って誰もいなかったっけ?)
内心不思議に思う卓。一階の洗面所で手洗いうがいを済ませて、二階の自分の部屋へと通じる階段へと足を踏み入れた。何段か上がったとき、卓の目の前に人が現れた。
「おかえり。俺、今日遅くなるから姉貴に言っといて。母さんと父さん夜勤だろうし」
現れた人物はちょうどこれからどこかへ行こうとしていた卓の二歳上の兄の武だった。
「うわ、武兄驚かすなよ!」
唐突に目の前に現れたせいか、卓は階段から足を踏み外すところだった。
「驚かしたつもりはない。じゃあ姉貴によろしく」
武は既に玄関で靴を履き終えて念を押すように言った。そして、玄関の扉を開けて行ってしまった。卓はそのまま部屋に行き、一息ついた。
(今日は朝からなんだったんだろうな。いつもと変わらないはずなのに)
卓は携帯の画面を見て不思議に思っていた。正確には携帯画面の日付と曜日を見ていた。いくら見ていても昨日の日付の前日と曜日。首を傾げてみても変わるわけなどない。学校にいる時も度々携帯画面を見ることはあっても変わらなかった。
(俺、疲れているのかな。進学は決まっているにしてもここのところ学校生活楽しく無かったからな)と卓は振り返ってみる。卓の頭の隅には昨日が金曜日だった記憶が確かにあるのは間違いなかった。
「まあ、いいか。今考えても明日にはいつもの時間に戻ってるだろうし」
卓は開き直り一階のリビングに向かった。暫くして姉の美琴が帰ってきて、いつもと変わらない日々を過ごした。
『卓、突然ごめん。時間が戻ったって言ってたけどまさか……』
携帯に誰かからのメッセージが届いていることにも気付かずに。
2話目を更新しました。
次話更新は来週の7月22日(土)の予定です。
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